第33話:シーラ姫(Princessa Xielah)
言い伝えによれば、“世界の冬”の前まで、レウキリアは大陸における航空産業の中心地であったという。
時が流れ、都市の遺構の大部分が森の中に沈んでしまった今となっても、蔓と根の間に分け入れば、ジルファネラスの帝都にも比肩しうるほどの大型のコンビナートの名残や、それと直結した形のハイウェイの残骸などをたどることができる。
数ある遺構が朽ち果てていく中で、ただひとつ屹立し続けているビルが、レウキリアの宮城であった。
かつては大量の昇降機を擁していたはずの空洞を通り抜けながら、サイラスは地階へと這い降りていく。レウキリア侯爵・シーラの尋問が、その目的だった。
地階にたどり着いたサイラスを、警備の傭兵たちが迎え入れ、通路をふさぐ鉄格子を開いた。かつては整然としていたであろう地下通路も、歴史の重みと、はびこる植物に押しつぶされ、今では洞窟と変わりない有様であった。
曲がりくねった道の一番奥、シーラの牢へと、サイラスは向かう。
ほの暗い蝋燭の光の中で、地面に這いつくばっているシーラの姿が、サイラスの目に映る。監視役を務めている二頭の鼎頭狗のうち、一頭がシーラをレイプしていた。三つある頭のうちの一つが、シーラのうなじを甘噛みし、彼女の自由を奪っている。四つんばいの体勢で、シーラは鼎頭狗の慰み者にされていた。
「やめろ」
甲羅の合間にある口吻から、サイラスは犬笛に似た音を鳴らす。二頭の鼎頭狗は耳をピンと立て、牢獄の壁際にしりぞく。床に投げ出された格好のシーラは、身を起こす気力さえないようだった。
民の安全と引き換えに、シーラは捕虜となった。服をはぎ取られ、首輪をつながれ、シーラは地下に閉じ込められている。軍紀の乱れをおそれ、シーラを凌辱する傭兵が出るたびに懲罰房に送っていたサイラスだったが、月日を経てもなおシーラが口を割ろうとしないに及び、軍紀の乱れを黙認するようになっていた。
ぼろぼろの裸体を投げ出し、床で喘ぐシーラに、サイラスは冷たい眼差しを送る。首輪のせいで、シーラの首にはみみず腫れができている。青色の長い髪は油脂にまみれ、雑巾のようになっていた。身体のあちこちには痣ができており、脚の付け根には、精液と経血の残滓がこびりついている。白かった肌もくすみ、泥だらけだった。地下牢の湿っぽい環境のせいか、シーラの背骨には黴のようなものも生えている。疥癬の餌食になるのも、時間の問題だろう。
触手を伸ばすと、サイラスはシーラをからめ取る。
「いや……やめて……」
身体にまとわりつく油脂に気付き、放心しかけていたシーラも、意識を取り戻したようだった。
シーラは四肢をばたつかせるが、サイラスの触手の太さの前では赤子も同然である。シーラの細くて柔らかい肉体を、サイラスは少しずつ締め上げていく。苦しそうに息を吐くシーラの口に、サイラスは触手の先端をねじ込んだ。
「苦しかろう、姫」
半透明の殻を開くと、触手をくわえさせられ、せき込んでいるシーラの近くに、サイラスは顔を寄せた。
「頭では分かっているはずだ。どれほどの屈辱を耐え忍んだとしても、一縷の救いさえない、と――」
サイラスは触手を隆起させる。先端にある腺が膨張し、あふれ出た液体がシーラの喉に流し込まれる。透明で、さらさらとしたグリセリン質の液体は、シーラの自律神経を麻痺させていく。触手の内側で、シーラの身体は火照りはじめ、汗だくになっていく。
液体は、体温調節機能を奪うだけでなく、副交感神経をも刺激するものだった。シーラはしばらく悶えていたが、我慢の糸も途切れてしまったようだった。排尿を余儀なくされたシーラは、サイラスの触手の中で失禁する。脚の付け根からつま先を伝い、琥珀色の水たまりが、シーラの足元に広がる。
シーラの口から、サイラスは触手を離す。体液の残滓がほとばしり、むせ返っているシーラの顔面を濡らした。
「手足だけではない。神経も、五臓六腑も、骨の髄に至るまで、私はあなたを支配できる。今のあなたは、体温も、排泄も、ご自分ではどうしようもない」
憔悴しきっているシーラの乳房を、サイラスは触手の先端で扱く。血の混じった乳液が、シーラの乳首から噴き出した。
「精神だけは支配を免れていると、あなたはそう言いたいのかもしれない。しかし侯爵、そのような強がりももう終わりです」
シーラの身体を包む触手に、サイラスは力を込める。シーラは苦痛の声を上げ、唇の端から泡がこぼれた。サイラスがもう少し力を籠めれば、シーラの骨などは、小枝のように折れてしまうだろう。
「“笑い声”はどこです?」
サイラスは尋ねる。これまでに幾度もくり返した問いであった。
俯いたまま、シーラは答えようとしない。気を喪ってしまったのだろうか――シーラの身体を掲げたまま、サイラスは頭部を寄せる。
そのときだった。サイラスの方を向くと、シーラが唇を尖らせる。自分の目に唾液が飛ぶのを、サイラスは感じ取った。
「死ね……!」
額から脂汗を流し、肩で息をしながら、シーラが声をしぼり出す。
触手の中で身をよじる小娘を、サイラスはしばしの間見つめていたが、唐突に触手を緩めると、その身体を壁に叩きつけた。
「あっ――」
小さく悲鳴を上げると、自分の尿でできた水たまりの中に、シーラは倒れ込む。身体を強く打って、シーラは今度こそ、意識を喪ったようだった。
「監視と尋問を続けろ」
顔に付着したシーラの唾を触手で拭うと、背後に控えていた二頭の鼎頭狗に、サイラスは指示を出す。
「ただし、絶対に殺すな」
そう付け加えると、サイラスは地下牢を後にした。一頭の鼎頭狗は口で息をしながら、シーラの凌辱を再開する。




