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デウス・エクス・マギカ  作者: 囘囘靑
第3章:猫と毒薬(Las Chats e La Toxica)
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第27話:かりそめの肉体(La Materiel Momentolas)(1)

「起きろ」


 眠りこんでいた傭兵のとなりに、もうひとりがやってくると、自動小銃の銃床(ストック)で、その頭を小突いた。


「何だよ」

「あれを見ろ」


 さし出された双眼鏡を手に取ると、もうひとりの指さした方を、傭兵は見やる。白衣を身にまとった者と、犬のような、人間のような格好の生物が一匹、男たちのいる方角、検問所にまで向かってきている。


 異形の全身は鱗に覆われ、かつ、浮かび上がった血管は軒並み血走っていた。何より、頭部のある場所には、六つの目が光っている。


「何だあれ」

鼎頭狗(ツァーベアス)だよ」


 そう言いながら、もうひとりの傭兵はもみ手をしている。


「はじめて見たぜ」

「一回で十分だ」


 双眼鏡を降ろすと、傭兵は吐き捨てる。


「それより、どうすんだよ。こっちに来るぞ」

「別動隊が戻ってきたんだろ。話を聞いてみようぜ」


 検問所の前まで、ひとりと一匹が進み出る。よく見てみれば、鼎頭狗(ツァーベアス)を連れているのは、年端もいかない小娘である。


 小銃を手にしながらも、二人の男たちは安堵のため息をついた。それでそのまま、ひとりと一匹の正面に立ちはだかる。


「所属は?」

「第四傭兵部・一般傭兵(クルー)のシーラです」

「へえ!」


 もうひとりが、わざとらしく声を上げる。


「偶然の一致ってのがあるんだな」

「識別タグを」


 シーラと名乗る傭兵から、識別タグを受け取ると、男は相棒に応対を任せ、詰所へと引き返した。


「どれどれ――」


 部隊員のリストと識別タグの番号を、男は照合させようとする。所属は第四傭兵部。このレウキリア戦線にも、第四傭兵部の者はいる。


 鼎頭狗(ツァーベアス)を連れていることからして、調教師なのだろう。しかし識別タグには、調教師に付与されるはずの識別子が刻まれていない。リスト上にも、“シーラ”なる調教師はいない――。


「ちょっと待て」


 外にいる相棒に聞こえるくらいの声で、男は呼びかける。返事がないことに気づき、男はリストから顔を上げる。“シーラ”も、鼎頭狗(ツァーベアス)も、姿を消している。それどころか“相棒”の姿も見えない。


「お勤め、ご苦労サンでした」


 “シーラ”の声は、頭上から聞こえてくる。見上げた男の視界には、自分に向かって振り下ろされようとしている、鉄槌(ドミニ)の柄が映りこんだ――。

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