第1話:楽園追放(Les Allogenes ov Utopie)
目が覚めてすぐに、オリヴィエは自分が服を剥かれ、一糸まとわぬ姿になっていることを、肌からじかに伝わってくる瀝青の冷たさから直感した。
(まずい)
瞬時に起き上がると、オリヴィエは周囲を見渡した。案の定、服はおろか、銃も、背嚢も、全てがなくなってしまっている。
(まさか――)
左腕を伸ばすと、オリヴィエは自身の白い肌の下、脚の付け根に指を這わせてみる。精液に濡れている――ことはなかった。意識を失っている間に、強姦されたわけではなさそうだった。
昨日の記憶を、オリヴィエは思い出してみる。”ある事件”をきっかけにして、王家の人間であるオリヴィエが国を追われたのが、一週間前のことになる。オリヴィエは身の潔白を晴らすため、この”ガラスの森”――旧文明の廃墟――を通り抜け、大陸の最果てに住むという賢者・マースに会わなければならない。
首尾良く”森”に入り込んだものの、オリヴィエはその広大さに迷った挙げ句、昨日やっと、目印となる川のたもとにまでたどり着いたのだった。
その川は今、オリヴィエのすぐ脇にある。昨日、汗だくになっていたオリヴィエは、行水がてら服を脱ぎ捨て、川に飛び込んだのだ。肩まで水に浸かっていたとき、誰かに頭を押し込められ――
(そうだ、思い出した)
そのままオリヴィエは、意識を失ったのだ。死なかっただけマシというものだろう。
目を閉じると、オリヴィエは自分の意識を、まぶたの裏に集中させる。強盗が背後からオリヴィエを襲い、溺死させようと企てたのだすれば、犯人はそれなりの知的生命体なのだろう。そして、オリヴィエが気を失ったのを見届けてから、オリヴィエの持ち物を全て奪ったのだ。
しかし、それこそが犯人の誤りというものである。特に、銃を奪ったことに関しては。オリヴィエの持っている銃は、単なる銃ではない。その銃は、王国開闢のときに、初代国王――つまりはオリヴィエの先祖――が持っていたとされる、伝説の魔法銃である。そして、王家の血筋であるオリヴィエは、この魔法銃と意識を共鳴させることができるのだった。
(見つけた!)
集中させた意識の束が、オリヴィエの心の中に、確信を芽生えさせる。目を開くと、オリヴィエは振り向いた。陸上高架の隔てる先に、オリヴィエが目指すべきビルがそびえている。犯人はビルの中で、オリヴィエの荷物を漁っているようだった。
太陽は、まだオリヴィエの頭上にある。夜になって、強盗が逃げやすくなる前に、オリヴィエは強盗と対決し、荷物を奪い返さなければならない。
(逃がすものか……!)
心の中でそうつぶやくと、オリヴィエは裸のまま、ビルに向かって駆け出した。