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花言葉

作者: 店員

CAST 合計9人 男:7 女:2

桃太郎♂:

小梅♀:

男♂:

鬼♂(被り推奨):

お爺さん♂:

お婆さん♀:

村人1♂:

村人2♂:

村人3♂:


時間:約60分


※(こちらは舞台台本となっております)

【第一幕】



男「どうも、初めまして、この話の司会進行を任された者だ。所であんたら、桃太郎って話知ってるか?まぁ知らねえ奴は殆どいねえだろ。知ってる奴はおさらい、知らねえ奴は今からザッと桃太郎の話を簡単にしてやる。おばあさんが拾った桃から生まれ、おじいさんおばあさんに育てられ、きびだんごで犬、猿、雉をお供にし、いざ悪さをする鬼を退治に向かった。そして見事!鬼を退治し財宝を持ち帰り、おじいさんおばあさんと幸せに暮らしました。めでたしめでたし……」


男「大まかな話はこんなもんだ。この話は歌にもなっている。♪桃太郎さん 桃太郎さん お腰に付けたきびだんご 一つ私に下さいな」


男「桃太郎…桃太郎かいい名前だねぇ

男「♪行きましょう 行きましょう 貴方に着いて何処までも 家来になって行きましょう……」



桃太郎、歌っている途中に登場



桃太郎「我の名は桃太郎なり!! 貴様ら鬼どもを征伐しに参った! いざ、覚悟!!!!!」



鬼を斬っていく音。

男、その間に去る



桃太郎「あはは!! あははははは!!!」



桃太郎、去る

村人達、桃太郎登場



村人1「あんがとうよ! 桃太郎!」


村人2「あの鬼どもを倒すとは、大したもんだ!」


桃太郎「いや~それほどでも〜」


村人3「これでやっと安心して暮らせらぁ」


桃太郎「あはは」


村人2「あのよう、桃太郎、よかったら、ウチの娘にちょっと会ってくれねぇか? 少々お転婆なとこもあるが、手先が起用でよ! やらしたらなんだって……」


桃太郎「あ! いや! 僕はまだそう言ったことは……」


村人2「なに言ってら! まぁでも確かに気ははぇかもしれねぇが、ここは一つ……」


桃太郎「ああいやその、じっさまとばっさまが待ってますので! 失礼!!」



桃太郎、去る



村人2「あぁ行っちまった……」


村人1「あはは残念だったなぁ!」


村人2「うーん桃太郎も16になるから、そろそろ相手をさがしとると思ったんだがぁ」


村人3「しっかしまぁ、あんだけええ顔立ちして鬼も退治できるっていったら、村中から縁談がきてるだろうよ。そんな話もう聞きたかないだろうさ。まっええ人が見つかったなら別だがな」


村人1「それが女っ気が全くない上に、縁談を全部蹴ったそうだぞ?」


村人3「ほうそりゃすげぇや」


村人1「それだけじゃねぇ、あのお鈴ちゃんとの縁談も断ったそうだぞ」


村人3「え!? あの村一別嬪のお鈴ちゃんか!? こりゃ桃太郎殿にお近づきなるのは難しいだろうな」


村人2「俺んとこは諦めるしかねぇな」



村人達、話しながら去る

桃太郎、登場



桃太郎「今帰りました」



お婆さん、登場



お婆さん「おお桃太郎、お帰り。疲れたろ? 早うお入り。今茶でもいれてやろう」


桃太郎「ありがとうございます。あれ? じっさまは?」


お婆さん「あぁ薪を取りに行ってるよ」


桃太郎「それなら僕も……」


お婆さん「いや、いいよ。もう疲れて帰ってくるころさ」


お爺さん(声)「帰ったぞ~」


お婆さん「ほれ、言った通りだろ?」



お爺さん、登場



お爺さん「あぁ疲れた~」


お婆さん「ご苦労様です」


桃太郎「お帰りなさい」


お爺さん「おおぉ! 桃太郎! 帰っとったか! 村中お前さんの話で持ちきりだぞ?」


お婆さん「薪を取りに行かれてたんじゃないんですか?」


お爺さん「斧が壊れてな仕方なく買いに出てたんだよ。他にも色々ガタがきとるから用心せんと」


桃太郎「でしたら全て新しいのに買い換えましょう。お金の心配ならいりません」


お爺さん「しかしなぁ……」


桃太郎「どうしたんです? なにか不都合でも?」


お婆さん「……実はね、あたしらあのお金を使うのは少し気が引けてねぇ」


お爺さん「そのぉ使わずに村の財産として置いとくべきだと思うんだ」


桃太郎「いいえあのお金は使うべきです! むしろ僕らが使うのが正しい!」


お婆さん「けどねぇ……」


桃太郎「確かにあのお金は元は鬼の物です。ですが、鬼を退治し持って帰って来たのは僕です。じっさまとばっさまには、今まで沢山苦労かけさせました。身寄りのない僕をここまで育てて頂いて」


お婆さん「何言ってんだい」


お爺さん「儂らは家族だろう」


桃太郎「……家族だから、だからこそお二人にはこれから先、楽に暮らして頂きたいのです。この家だって新しくして、家来も雇いましょう! それから、それから……!」


お爺さん「わかった! わかったよ、お前さんがそこまで言うならありがたく使わせて頂くよ」


お婆さん「さ、そろそろ夕食の準備でもしようかね。すまんが桃太郎、水を汲みに行ってくれるかい?」


桃太郎「はい」



桃太郎、お婆さん、お爺さん去る

男、登場。

女性の黄色声の中、桃太郎登場



桃太郎「……はぁ」


男「えらい人気だな」


桃太郎「あはは、いや……」


男「役者さんか何かかい?」


桃太郎「いえ、そんなじゃ」


男「……もしかして……あんた桃太郎か?」


桃太郎「ええまぁ」


男「へぇこりゃ驚いた! 以外と小せんだな。もっと大男かと」


桃太郎「あはは、えっと貴方は……あまりみない顔ですね」


男「俺はぁただの流れもんだよ。でもあんた噂はよく聞くぜ? 鬼を倒すったぁすげぇな! 正直鼻がたけぇだろ?」


桃太郎「そ、そんなことは!」


男「謙遜すんなよ、女達にキャーキャー言われて嫌がる男はいねぇだろ?」


桃太郎「まぁ悪い気はしないです」


男「それで?」


桃太郎「え?」


男「いいのはいたか?」


桃太郎「ぼ、僕は女性には興味ありません!」


男「なんだそれ、面白味のねぇお人だな」


桃太郎「なっ、別にいいでしょ面白味がなくったって」


男「女に興味がねぇなら、お前さん何に興味があるんだい?」


桃太郎「……僕は」



桃太郎、何かごもごも言う



男「なんだって?」


桃太郎「なんでもないです! 貴方には関係ありません!」



桃太郎、去る



男「なんだありゃ、変わったやつだな」



男、去る



【第二幕】



村人1(声)「鬼だぁ!! 鬼がでたぞぉ!!!」



村人達が一人の鬼を押さえつけている。桃太郎登場


村人2「あぁ! 桃太郎! こいつあんたの家の周りをウロウロしてたんだ!」


村人3「こんな物もってたぞ!」



刃物(小刀みたいな物)を出す



村人2「きっと仇討ちにちげぇねぇ。どうしてやろうか?」


桃太郎「……こいつと二人にしてください」


村人1「何言ってんだ、二人になんて出来ねぇ! 危険すぎる!」


桃太郎「家の中にじっさまとばっさまがいます、他に仲間がいたらいけません。僕なら大丈夫です」


村人1「……わかった!」



村人達、鬼を離して去る



鬼「殺るんだったらさっさと殺れよ。俺の仲間や家族にしたみたいに」


桃太郎「……安心しろ、すぐにでも首を跳ねてやる。……それで、何しにきた? 敵討ち? たった一匹で? 僕に勝てると思ったのか?」


鬼「お前を殺す為ならなんだってしてやる!」


桃太郎「他に仲間は? まぁいても僕が退治するからいいよ」


鬼「お前はいきなり襲ってきて武器も何ももたねぇ俺たちを、片っ端から斬り捨てた!! 女子供関係なく!!! 血も涙もねぇ、お前こそ本当の鬼だ!」


桃太郎「鬼はお前だろ? 一緒にするな。それに僕はなにも悪い事はしてないよ、悪事を働く鬼を退治しただけだ。何も間違っちゃいない」


鬼「俺たちは平和に暮らしてた! 人間に手を出したことはない!」


桃太郎「じゃぁあの財宝はなんだ? どうせ盗んできたんだろ?」


鬼「違う!!」


桃太郎「はぁもういいよ、鬼の言い訳なんて聞きたくない」


鬼「ただ鬼を退治しにきただけじゃないだろ。お前は異常だった。高笑いを上げ、まるで俺たちを斬るのを楽しんでいる様だった! 一体何しに来た? 本当の目的はなんだ!?」


桃太郎「目的なんてない。それが僕の生きる道だからだ。桃には邪気を祓う力がある。僕の名は桃太郎、邪気とはお前ら鬼のこと。僕は鬼を退治するために、生まれ、育てられ、この名を付けられた。鬼を斬ること、それがきっと僕の生きる道、幸せ。……ただそれだけだ」


鬼「…………お前はなんて……なんて悲しいやつなんだ」


桃太郎「は?」


鬼「お前は間違ってる。自分でもわかってるんじゃないか?」


桃太郎「黙れ!! それ以上口を開くな!!」


鬼「お前は幸せなんかじゃない」


桃太郎「うるさい!!!!」



桃太郎、鬼を斬る

村人達、登場



村人2「やったのか!?」


桃太郎「……えぇもう大丈夫です。他に鬼はいましたか?」


村人3「いや他にはいなかった。こいつだけみたいだ」


村人2「馬鹿なやつだ、何もしなきゃ死なずにすんだのによ」


桃太郎「すいません、後はお願いします……」


村人1「お、おぉわかった……」



桃太郎、去る



村人2「どうしたんだ?」


村人3「さぁ? こいつどうする?」


村人1「林の中にでも転がしときゃいいだろう」



村人達、鬼を引きずって去る


小梅登場。その様子を見て去る

男登場。



男「♪そりゃ進め そりゃ進め 一度に攻めて攻めやぶり つぶしてしまえ 鬼が島

♪おもしろい おもしろい のこらず鬼を 攻めふせて 分捕物を えんやらや

♪万々歳 万々歳 お供の犬や猿雉は勇んで車をえんやらや」



男、去る



【第三幕】



小梅、登場。力尽きて倒れる。

桃太郎、登場。小梅をみつける



桃太郎「大丈夫ですか!?」


小梅「み……ず」


桃太郎「なんですか!?」


小梅「お……みずを……」


桃太郎「お水ですね! 少し待ってて下さい!」



桃太郎近くにある井戸で水を汲む



桃太郎「さぁどうぞ」



小梅、飲み干す



小梅「はぁ……ありがとうございます。やっと一息つけました」


桃太郎「……あ……い、いえ、いいんです! えと、その大丈夫ですか?」


小梅「ええもう平気です」



小梅、立ち上がろうとして崩れる



桃太郎「無理なさらないほうがいい!」


小梅「すいません……」


桃太郎「よかったら僕の家で休んで行って下さい。ここから近いんです」


小梅「そんな、ご迷惑じゃ?」


桃太郎「祖父母がいるんですが、構いませんよ」


小梅「すいません、お言葉に甘えさせて頂きます」


桃太郎「あ! 自己紹介がまだでしたね。僕は桃太郎といいます」


小梅「桃太郎……」


桃太郎「貴方は?」


小梅「……小梅と、申します」



桃太郎、小梅去る

お爺さん、お婆さん登場



桃太郎(声)「今帰りました!」



桃太郎、小梅を支えて登場



お婆さん「おやおや! いったいどうしたんだい!? とにかくお上がり!」


お爺さん「桃太郎、こりゃどういうことだ?」


桃太郎「僕にもよくは……ただ井戸の側で倒れてたんです」


お婆さん「さ、横になって」


小梅「すいません」


お婆さん「服も足もボロボロじゃないか。ただの旅路じゃこうはならないよ、何があったんだい?」


小梅「……実は、いきなり鬼が村を襲ってきて……家の財産を全て持っていかれてしまったんです。村も焼かれて、村の人達もどうなったかわからなくって」


お爺さん「鬼だって!?」


小梅「そいつに父も母も殺されてしまったんです……私も、命からがら逃げてきて……」


お婆さん「そうだったのかい、辛い思いをしたね。もう大丈夫だよ、安心おし」


お爺さん「大変だったな。……だが問題はこれからだ、住む家もなくなったんだろ?」


お婆さん「そうだねぇ」


桃太郎「……あ、あの! 勝手な提案なんですが、ウチに住まわせるのはどうでしょう?」


お爺さん「ウチにか!?」


桃太郎「勿論、彼女がよければですが」


小梅「そんな! 私には願ってもないお話です! 申し訳ありませんが、しばらくの間居させいただけませんか? 仕事を見つけ資金が貯まれば直ぐに出て行きます!」


お婆さん「どうします?」


お爺さん「どうってなぁ」


小梅「お願いします!」


桃太郎「僕からもお願いします」


お爺さん「……わかったいいだろう、だが家事の手伝もしてもらうぞ」


小梅「はい! ありがとうございます!」


お婆さん「女手が増えるとあたしも助かるよ」


桃太郎「よかったですね」


小梅「ありがとうございます! 桃太郎様!」


桃太郎「あ、いや……ははは」


お婆さん「でも、今日はお休み。明日から頑張ってもらうよ」


小梅「はい!」



暗くなる。全員去る

明るくなる。桃太郎、小梅登場。



桃太郎「川はこの道を真っ直ぐいった所にあります。洗濯はそこで」


小梅「ありがとうございます」


桃太郎「……あの!」


小梅「はい?」


桃太郎「か、帰りは一人でも大丈夫ですか?」


小梅「大丈夫です。道は覚えてますので」


桃太郎「そうですか……あっ……なんでもないです……」


小梅「……あの」


桃太郎「はいっ!」


小梅「お爺様がアジを釣ってこられたので、今日の夕食で焼いて出そうと思うんですが」


桃太郎「アジは大好物です!」


小梅「よかった! 後でお婆様にお願いしますね!」



小梅、去る

男、いつの間にかいる



男「春だねぇ」


桃太郎「うわぁぁぁぁ!!!!」


男「おいおい俺は幽霊じゃねぇぜ?」


桃太郎「な、なんだ貴方ですか、驚かさないで下さい」


男「おめぇさん女には興味なかったんじゃなかったか?」


桃太郎「なんだっていいでしょ。前にも言いましたけど、貴方に関係ありません!」


男「そうかよ。でもまぁ、なかなかいい女じゃねぇか。お前見る目があるな」


桃太郎「そ、そうですか?」


男「あぁ。あの子はまるで白梅の様な子だな。見た目も中身も」


桃太郎「確かに肌も白くて、とても、綺麗というか可愛らしいというか……」


男「ベタ惚れじゃねぇか」


桃太郎「いいじゃないですか! なんだって! それより中身もって、どういう意味ですか?」


男「花言葉って知ってるか?」


桃太郎「何ですか? それ」


男「花にそれぞれ意味や象徴的な言葉を持たせる、いわゆる言葉遊びだな。白梅は、清香、気品、澄んだ心、後忍耐なんてのもある」


桃太郎「彼女にピッタリだ」


男「あと、桃にもあるぜ? 花言葉」


桃太郎「桃にも?」


男「知りたいか?」


桃太郎「……是非」


男「…………貴方の虜だ」


桃太郎「あ、あな? えぇ〜!?」


男「ぷはははは!!! 今のお前には持ってこいの花言葉だな! 村中の女がお前に虜だもんな!!」


桃太郎「どうぞ笑って下さい」


男「そう落ち込むなよ。いいじゃねぇか! 貴方の虜だぜ?」


桃太郎「貴方、そんなに人をからかうのが楽しいですか?」


男「あぁ、楽しいね! 特にお前はからかい甲斐があるしなっ」


桃太郎「あなた人として最低ですよ」


男「なんとでも言えよ、俺は流れ者だ、家もなけりゃ家族もいねぇまぁ人としてはそれなりに終わってるよ」


桃太郎「そうですか、それじゃぁ失礼します」



桃太郎、立ち上がる



男「待たなくていいのか?」



桃太郎、止まる



男「そろそろ帰ってくるんじゃねぇかなぁ〜」



桃太郎、戻ってきて座る



男「わかりやすいな、お前」


桃太郎「うるさいですよ」


男「…………貴方の虜、ぷくくっ」


桃太郎「まだ言ってるんですか!? しつこいですよ!」



男、ゲラゲラ笑っている



桃太郎「いい加減にして下さい! 本当に怒りますよ!!」


男「おぉおぉ、女の目も見れねぇ若僧が一丁前に吠えてやらぁ」


桃太郎「くっ……ここまで馬鹿にされたのは初めてです……もう許しません!!」



小梅、登場



小梅「ももたろう様?」


桃太郎「あ、こ、小梅さん!!」


小梅「えっとこの方は?」


桃太郎「いや、その……」


男「あぁ俺のことは気になさんな、そろそろお暇しようと思ってたとこだ」


桃太郎「なら早く帰って下さい」


男「へいへい邪魔者は消えますよ。じゃぁ後は若いもんどうし頑張んな!」


小梅「今の方はお知り合いですか?」


桃太郎「いえ。知り合いというほどでも、ただの顔見知りですよ」


小梅「にしてはとっても仲が良さそうでしたけど?」


桃太郎「えっそうですか? 僕はどちらかと言うと、あぁいったヘラヘラした人はあまり好きじゃないんですが……」


小梅「ふーん」


桃太郎「な、なんですか?」


小梅「いいえ、まるで親子喧嘩を見てる様でしたので」


桃太郎「やめてください。あんな人と親子だなんて……」


小梅「そうですか? あぁいう方が父親だったら毎日笑が絶えない、素敵なお父さんになると思いませんか?」


桃太郎「……あの、小梅さん」


小梅「はい」


桃太郎「小梅さんのご両親はどんな方だったんですか?」


小梅「両親ですか……?」


桃太郎「え、あ! ごめんなさい! 不謹慎でしたよね!」


小梅「いえ! 両親のこと聞いて下さって嬉しいです。私の父は炭鉱で働いていました。いつも優しくって、たまに怒ると怖いんです。小さい時は、炭鉱で鍛えたあのゴツゴツの手で頭を撫でられるのが好きで」


桃太郎「お母様はどんな方だったんですか?」


小梅「母はいつもおっとりしていて、裁縫が得意なんです。 (お守りを出す) これは、母が作ってくれたお守りなんです。家族3人お揃いで、いつでもどこでも3人繋がっていられますようにって。いつも私や父のことを一番に考えてくれて、自分のことは二の次。あの時も、家を村を襲われたときも……」


桃太郎「そうでしたか……素敵なご家族だったのですね」


小梅「はい……桃太郎様のご両親はどんな方なんですか?」


桃太郎「実は、両親を知らないんです」


小梅「ごめんなさい、私」


桃太郎「いいんです! 物心ついた時は今の家にいました。じっさま達が言うにはぼくの両親は流行り病で亡くなったそうです。でも何も悲しくないですよ、僕は今、充分幸せですから」


小梅「……私も幸せです」


桃太郎「え!?」


小梅「あ、いえ! そうだ! 競争しませんか?」


桃太郎「競争?」


小梅「どちらが先に桃太郎様のご自宅までたどり着くか競争です!」


桃太郎「え、でも小梅さん体が……」


小梅「それではお先に!」



小梅走り去る



桃太郎「あ! それはずるいですよ!」



桃太郎走り去る



【第四幕】



村人達、登場

後から一人駆けてやってくる



村人2「てえへんだ! てえへんだ!!」


村人1「何騒いでんだ、酒でも切れたか?」


村人2「そんなんじゃねぇよ!」


村人3「じゃぁついに女房に逃げられたか!?」


村人2「そうなんだ、最近どうりで連れないと思ってな、だー! それも違う!! 桃太郎だよ! 桃太郎!」


村人1「桃太郎がどうしたってんだ?」


村人2「女連れて歩いてたんだよ!」


村人1「女ぁ? そりゃまぁあいつも年頃だしな、縁談相手の中からいい人見つけたんだろうさ」


村人2「それが村の女じゃねぇんだ! よその村から来たらしいんだが、自分の村が鬼に襲われたらしくって、二月ほど前から桃太郎家に住んでるらしんだ」


村人3「へぇそりゃ完全に黒だな」


村人2「けどよぉ」


村人3「どうした?」


村人2「俺相手の女をチラッとみたんだ、顔はなかなか別嬪だったんだが、肌の色が真っ白でどうも人間味がないというかちょっと気味が悪かったな」


村人1「ほぉ気になるな」


村人2「だろ!?」



桃太郎、小梅登場。

村人達、隠れる。



村人2「なんで隠れるんだ?」


村人1「黙ってろ」


小梅「桃太郎様、これからどこに向かうのですか?」


桃太郎「今、桃の花や梅が咲き頃なので、花見をしようかと」


小梅「まぁ、素敵ですね。散り切らないうちに参りましょう!(腕を引っ張る)」


桃太郎「おぉっとと! そんな焦らなくても、すぐには散りませんよ」



桃太郎、小梅退場。



村人1「なかなかの美人じゃねぇか」


村人2「そこじゃねぇだろ!」


村人3「んまぁ確かによく見ると、人間って感じがしねぇな」


村人2「ちょっとつけてみるか?」


村人3「なんだって?」


村人2「気になるんだよ!」


村人1「……行ってみるか?」


村人2「よしきた!」



村人達、去る

桃太郎、小梅登場



小梅「わぁ綺麗な桃の花。ま! 隣に白梅も咲いてるわ! 見てください! 桃太郎様! ……素敵ですね」


桃太郎「えぇとっても。そうだ、花言葉って知ってますか?」


小梅「花言葉?」


桃太郎「花にそれぞれ意味や象徴的な言葉を持たせる、いわゆる言葉遊びです」


小梅「そんなのがあるんですか?」


桃太郎「えぇ白梅は清香、気品、澄んだ心なんかが付けられてます」


小梅「へぇ桃太郎様は物知りなんですね」


桃太郎「対したことじゃないですよ」


小梅「じゃぁ桃はなんて言葉があるですか?」


桃太郎「桃ですか? ……貴方の虜です(ボソッと)」


小梅「すいませんもう一回……」


桃太郎「ああ!! 忘れてしまいました! 桃の花言葉は忘れてしまいました」


小梅「そうですか残念です、でもきっと素敵な言葉なんでしょうね」


桃太郎「そう、ですね」


小梅「実は私の名前、私が産まれた時に、庭に小さな白梅が咲いてるのを父が見て付けてくれた名前なんです。小さな梅でも厳しい冬を乗り切って、春に必ず咲くようにと」


桃太郎「素敵なお話ですね」


小梅「白梅と桃がこうして並んで咲いてるのは、とても珍しいことです。いつまでもこうして見ていたいですね」


桃太郎「……きっと来年も咲いてますよ。だからまた来ましょう。来年も再来年もその先もずっと」


小梅「え?」


桃太郎「小梅さん、僕はずっと貴方の側にいたい、貴方にずっと側にいて欲しい。小梅さんになにかあれば必ず僕が守ります。何があっても貴方を幸せにします。だから小梅さん、その、僕と、結婚してください」


小梅「……あ、わた、し……その……」


桃太郎「小梅さん、僕は本気です。会ってまだ間もないですが、一時の気持ちなどではありません。どうか、私の側にいてください!」


小梅「あ、う……ごめん、なさい……」


桃太郎「……そうですか……いや、僕の方こそ、すいません、いきなりこんな話。驚かせてしまいましたね。どうか忘れて下さい」


小梅「ごめんなさい……」


桃太郎「そうだ! じっさまに薪割りを手伝うように言われていたのを忘れてました! すいません、先に戻ってますね」


小梅「桃太郎様!」


桃太郎「小梅さん。僕は何があっても貴方の見方です。それだけは忘れないでください」



桃太郎、去る



小梅「……はぁ、なにしてるのよ私ったら。なんであんな、あんな奴の為にこんなに苦しい思いをしてるのよ。あいつはおっとうや

おっかあ、鬼ヶ島の皆の仇じゃない! なのになんで!! ……(お守りをだす)殺らなきゃ、私が殺らなきゃ、どんなことをしてでも、皆の仇を……おっかあ、おっとう、私に力を貸して」



小梅、去る。村人達登場



村人1「驚いた、あの女は鬼だったのか」


村人3「桃太郎達があぶねぇ、知らせに行こう!」


村人達、去る



【第五幕】



お爺さん、お婆さん、登場



お婆さん「どうしたんです? 難しい顔して」


お爺さん「今日桃太郎が小梅さんに、結婚を申し込むと言って張り切っていたんだ」


お婆さん「まぁおめでたいことじゃないですか」


お爺さん「お前あの娘のことどう思う?」


お婆さん「どうって、働き者のいい子だと思いますけど」


お爺さん「だが妙だとおもわんか?」


お婆さん「何がです?」


お爺さん「トントン拍子に話が進みすぎてる」


お婆さん「それの何が気に入らないのです?」


お爺さん「あの娘、自分のことを殆ど話さねぇんだ。何処から来たのか、どんな村だったか、歳だって答えねぇ。おかしいと思わんか?」


お婆さん「そういわれたら……」


お爺さん「一番おかしいのは怪我の治りが早すぎるんだ。あの脚の怪我も一週間したら綺麗さっぱりなくなってた。治りが早いのにも程がある」


お婆さん「確かに」



桃太郎、登場



桃太郎「今かえ……」


お爺さん「桃太郎も桃太郎だ。あんなわけのわからん娘を好きになりよって、親も親なら、子も子だな」


お婆さん「あんた、そんな言い方……」


お爺さん「儂は厄介ごとはごめんなんだ。桃太郎が鬼ヶ島に行くと言った時も本当は反対だったんだ。現にこの前仇打ちに村に鬼が出たと騒いでおったろ?厄介ごとの種を蒔く名人なんだよあの家系は」


お婆さん「そりゃあたしだって厄介ごとはごめんですよ。桃太郎のことを怖くなることもあります。ですけど根は悪い子じゃありません」


お爺さん「儂はな心配してるんだ。あいつの父親はとんでもないやつと駆け落ちして。挙句自分の子を儂等に預けてどこかに消えちまった」


お婆さん「それは……」


桃太郎「どういうことですか?」


お婆さん「桃太郎!」


お爺さん「お前いたのか!?」


桃太郎「じっさまどいうことですか? 僕の両親は流行り病で亡くなったじゃないんですか?」


お爺さん「そ、それは……」


桃太郎「答えて下さい!!」


お婆さん「桃太郎や少し落ち着いて」


桃太郎「じっさまがずっと僕のことを認めていないのは知ってました。ばっさまが本当は僕に怯えているのも知ってました。けど、それでも僕を育ててくれたお二人には感謝してるんです。鬼ヶ島に鬼退治に行ったのはじっさまに認めて欲しくて、財宝を持って帰ったのはお二人に幸せになって欲しくて。ただ、ただそれだけなのに!!」


お爺さん「桃太郎……」


桃太郎「本当のことを教えて下さい、僕の両親がどうなったのか……教えて下さい!!!」



二人とも答えようとしない



桃太郎「もう、いいです……」



桃太郎、立ち上がる



お婆さん「どこ行くんだい!?」


桃太郎「ご心配なさらず、少し頭を冷やしてきます」



桃太郎、退場しばらくの間

村人達、登場



村人3「じぃさん! いるか!? あれ? 桃太郎は!?」


お婆さん「桃太郎ならさっき出ましたよ」


村人1「不味いな……」


お爺さん「なんださっきから」


村人2「最近桃太郎と一緒にいる女いるだろ?」


お婆さん「小梅さんのことかい?」


村人3「あいつの正体は鬼だったんだよ!」


お爺さん「なんだって!?」


お婆さん「そんなデタラメよしとくれ」


村人1「デタラメなんかじゃねぇ! あいつは鬼ヶ島の鬼なんだ、桃太郎に敵を討つと言っていた」


村人2「俺らしっかとこの耳であの女がそう言ったのを聞いたんだ」


お爺さん「なんてこった……」


村人3「とにかく俺らは桃太郎を探してくる! じぃさんとばぁさんはここに居てくれ」


お婆さん「いいや、あたしも行くよ」


村人1「ばか言うなよばぁさん! あんたも狙われてるかもしんねぇだぞ!?」


お婆さん「なんと言われようとも私も行きます。それにあの子は大切な一人息子です! その息子の命が狙われてるっていうのに、家でじっとしていられません!あたしの命が狙われようが関係ありませんよ!」


村人1「頑固なばぁさんだな!」


お爺さん「お前……」


お婆さん「あんた、桃太郎にこれ以上負い目を背負わせちゃいけない。どんな事情があろと、あの子はあたしらのたった一人の息子じゃないですか」


お爺さん「そうだな、どんなことがあっても、あいつが儂等の息子には変わりない。よし、儂も行こう!」


村人3「あぁもう! なにがあったかしんねぇが、ウダウダしもてらんねぇ! みんなで桃太郎を手分けして探そう!」



村人達、お爺さん、お婆さん退場



【第六幕】



桃太郎、登場



桃太郎「はぁ……僕のしたことは二人を余計に怖がらせていたのか……ははっそりゃそうだ、僕だって怖がっていたじゃないか。恐ろしい鬼を倒せば認めてもらえると思ってたのに、実際の鬼は想像以上に、人間に近かった。鬼ヶ島に着いた後、途中から記憶がない。気が付いたら周りは血の臭いと鬼の死体が沢山あって、お供達は村に着いた途端に何処かに行ってしまった。……鬼ヶ島であったことを話せば、皆も僕から離れていってしまうのかな……(軽く笑う)僕は、一体どうしたいんだ……僕は、一体どうしたらいいんだ……」



小梅、登場



小梅「桃太郎様」


桃太郎「小梅さん……どうしたんです? こんな所で」


小梅「桃太郎様にどうしても話しておきたいことがあったので」


桃太郎「なんですか?」


小梅「私の父と母は鬼に殺されました」


桃太郎「えぇ存じてます。お二人とも小梅さんの村が襲われた時に亡くなったんですよね」


小梅「母は確かに私の村で亡くなりました。けど、父は私と一緒に一度、逃げ延びたんです」


桃太郎「どういうことですか?」


小梅「でもこの村に来て直ぐ、亡くなりました」


桃太郎「小梅さん? 何が言いたいのですか……」


お爺さん(声)「桃太郎ー!!!」



お爺さん、お婆さん、村人達登場



お婆さん「よかったここにいたんだね、心配したんだよ!」


桃太郎「ばっさま、じっさま、それに皆さん」


村人2「あー!!! あいつだ! あの女だ!」


村人3「桃太郎絶対に近づくんじゃねぇぞ!」


桃太郎「皆さんどうしたんです? 小梅さんがどうかしました?」


村人1「その女は鬼なんだよ!」


桃太郎「何ですか突然、訳がわかりません」


お爺さん「小梅さんは鬼ヶ島の鬼なんだよ! お前に仇を打ちにきたんだ!」


桃太郎「……もう嘘はよして下さい」


お爺さん「そのことは悪かった……けどそれはお前を守りたかったからなんだ!」


お婆さん「信じとくれ、あたしらはあんたが自分の親のことを知って、辛い思いをして欲しくなかったんだよ」


お爺さん「そうだ! お前が大切だからこそ嘘を吐いてしまった。だがこれは嘘じゃねぇ、そいつは鬼なんだよ!」


小梅「桃太郎様、さっきの話の続きをしてもいいですか?」


桃太郎「こうめ、さん?」


村人2「駄目だ桃太郎! 耳を貸すな!」


小梅「私の父はこの村に着いてすぐ、村を襲った鬼の住処をみつけたんです。父はそこに一人で乗り込みました。けど父にはもう体力はなく、すぐに鬼の仲間に捕まってしまい、挙句母を手に掛けた者の手で首を刎ねられてしまいました」


村人3「それって……」


村人1「あの時桃太郎を狙った鬼のことか?」


桃太郎「待って下さい。それじゃぁ小梅さんは本当に鬼だということになって……」


お爺さん「だからさっきから儂等はそう言ってるだろ?」


お婆さん「あの子は鬼なんだよ!」


桃太郎「小梅さん、貴方からも説明しないと、皆貴方を鬼だと思ってしまいます」


小梅「……おめでたい人ですね。さっきから私も貴方に説明してるじゃないですか」


桃太郎「小梅さん何言って……」


小梅「両親を殺した鬼は、貴方のことよ!!! ……いい加減気づいて下さい。自分が誰を好きになったか、どんな目的で自分に近づいてきたか」


桃太郎「そんな……僕は……」


小梅「ほんっと馬鹿な人ですね。何処の馬の骨かもわからない女を家に住まわす時点で、馬鹿だとは思ってましたけど、まさかここまでなんて。しかも結婚まで申し出て、どこまで間抜けなんですか」


お婆さん「そんな言い方ないだろう! 桃太郎はあんたを思ってウチに暫くの間でも住まわせてやろうと思ったんだよ!」


村人2「桃太郎がお前に惚れたのも、どうせお前が何か仕込んだんだろう!?」


お爺さん「……儂等の、大切な息子にもう二度近づくんじゃねぇ! 村から出て行け!」


桃太郎「やめてください……」


村人1「出ていけ!!」


村人3「そうだ出て行け!」


桃太郎「やめてください!! 彼女は何も悪くないんです!」


小梅「そうよ、全部、全部あなたのせいよ!! 私達は平和に暮らしてた! とっても幸せだったの!! でも、あなたが全て奪った。財産も友達も家族も……あなたが持っていった財宝は、父や父の仲間が炭鉱で汗水流して掘り出した物よ。角を隠して人間に成りすまし、その財宝を売って暮らしてきたの。薄暗い島で耐えながら。でも、それでも幸せだった。充分だった。なのに、あなたは全部奪った。幸せに暮らしてた私達に残酷な仕打ちを与えた!! 血も涙もない、あなたこそ本当の鬼よ!!!!」


村人2「てめぇよくも桃太郎にそんなことを! 俺らは桃太郎が小せえときから知ってるんだ!!」


村人1「それ以上桃太郎を鬼なんて言ったらただじゃおかねぇ!」


小梅「本当のことよ。それも最低の鬼よ」


村人3「勝手なことばっかり言いやがって! もう許さねぇ!!」



村人達、石を投げる。桃太郎前に出る



桃太郎「やめてください!! お願いです! やめてください!!!」


お婆さん「桃太郎・・」


桃太郎「小梅さん、僕は、何てことを・・・・あなたが望むなら、あなたに僕の命を差し上げます」


お爺さん「馬鹿こと言うな!」


桃太郎「黙ってて下さい!!! ……小梅さん、もしそれであなたが少しでも救われるなら、もしそれでほんの少しでも罪が償えるのなら、僕はこの命をあなたに差し上げます」


小梅「……そんな簡単に差し出された命なんて要りません」


桃太郎「じゃぁ、じゃぁどうしたら……」


小梅「苦しんで下さい。本当は肉片になるまで切り刻んでやろうかと考えてましたが、死なんて一瞬の苦しみです。だから、あなたは自分の罪の重さと、私からなんの罰も与えられなかったことの罪悪感に苛まれて生きて下さい」



小梅、立ち去ろうとする。



桃太郎「小梅さん!」


小梅「……酷い顔ですね。あなたの一生の苦しみなんて皆の苦しみのほんの一部にもなりませんけど、今のあなたにとって死よりも辛いことでしょうから。さようなら、桃太郎様」


桃太郎「待って下さい! 小梅さん!」



小梅、退場



桃太郎「待って、お願いです……小梅さん……」


村人1「しっかりしろ!」


桃太郎「離して下さい!!」


お婆さん「桃太郎……」



桃太郎、フラフラと立ち上がり小梅追をうとする。



村人1「どこ行くんだ!」


桃太郎「彼女の後を追うんです……」


村人3「なに馬鹿言ってんだ! 殺されるぞ!」


桃太郎「僕には! 僕には、彼女しかいないんです。初めて心から愛そうと決めた人なんです……行かせて下さい……」


お爺さん「桃太郎!」


お婆さん「(遮るように)行きなさい桃太郎」


村人達全員「ばあさん!?」


お爺さん「お前! 何言って!!」


お婆さん「行きなさい。爺さん達のことは気にしなくていいから」


桃太郎「ばっさま……」


お婆さん「お前さんの足ならすぐに追いつけるだろうさ。後悔しないうちに、さっ早くお行き」


桃太郎「ありがとうございます!! ばっさま!」



桃太郎、走って退場



お爺さん「お前何言ってるかわかってるのか!?」


村人3「桃太郎が殺されるかもしれないんだぞ!?」


お婆さん「そんな心配いりませんよ」


村人2「なんでそんなことわかんだ?」


お婆さん「女の感です」


爺・村人達「「はぁ?」」


お婆さん「さ、きっとお腹を空かして帰ってくるでしょうから、私は夕食の準備でもしましょうかね。あなた方も手伝って下さいよ」


お爺さん「お、おい婆さん!」



お婆さん、お爺さん、村人達退場



【第七幕】



小梅、登場。歩いている。途中立ち止まり、白梅と桃を見ている

男、登場



男「花見は桜もいいが、白梅と桃の花の組み合わせも乙だな」


小梅「あなたはたしか……」


男「よっまた会ったな嬢ちゃん。なんだえらく暗い顔してんな」


小梅「えぇまぁ……」


男「まさか、あいつに襲われたか!?」


小梅「え!? い、いえそんなことは……」


男「そうかい、なら良かった。嬢ちゃんの貞操の危機とありゃぁ、おじさん黙ってはいねぇぜ? 桃太郎が何だろうがぶん殴ってやるからな!!」


小梅「勝てるんですか?」


男「舐めてもらっちゃっ困るぜ? これでも結構喧嘩は強いんだ」


小梅「あはは」


男「……そうやって笑ってる方が可愛いぜ?」


小梅「ありがとうございます」



小梅、去ろうとする



男「行くのか?」


小梅「はい。なるべく早めにこの村から離れたいんです」


男「嬢ちゃん鬼なんだろ?」


小梅「知ってたんですか!?」


男「まぁ村のやつらが騒いでたし、さっき嬢ちゃん達が話てたの聞いちまったしな」


小梅「……怖くないんですか? 私のこと」


男「いやいや怖いなんて全然。むしろ可愛いと思ってるぐらだ。それに金棒持ってないしな」


小梅「判断基準そこですか?」


男「そりゃそうだろうよ! どんなやつでも金棒振り回してりゃ怖いもんだ! まっ嬢ちゃんが金棒持った所で振り回せるとは思わねぇしな」


小梅「鬼を舐めてもらっちゃっ困ります。これでも結構怪力なんです」


男「そりゃまいった」



二人で笑う



男「あの馬鹿はいいのか?」


小梅「桃太郎様のことですか?」


男「今ごろ泣いてるぜ?」


小梅「いいんです、あんな人」


男「そんなこと言って、惚れてるんだろ? さっきあんなこと言ってたが、本当は殺すことが出来なかったからで、苦しめなんて言ったんだろ? それはあいつに自分が間違っていることに気が付いて欲しかったからじゃないか?」


小梅「…………お見通し、なんですね。……でも、あの人は気付いてたのかもしれません。父は最後あの人に本当は気付いているんじゃないか? っと聞いていました。でもあの人はそれを認めることが出来なくて、罪の重さが怖くてずっと逃げて……逃げることが一番の罪だと、それに私は気付いて欲しかったから」


男「すごいな嬢ちゃんは。澄んだ心に自分の本心を抑え込む忍耐、白梅の花言葉を丸々当てたようだ」


小梅「花言葉……そういえば桃太郎様がそんなことを話していました」


男「おおそれで?」


小梅「白梅の花言葉を教えて頂きました」


男「白梅だけ? 桃は?」


小梅「忘れたと……」


男「たっくあいつは……桃の花言葉教えてやろうか?」


小梅「はい、是非」


男「あなたの虜って言うんだ」


小梅「ぷっあははは!」


男「あいつにピッタリな花言葉だろ?」


小梅「ええ本当に! それじゃ教えてくれない訳ですね」


男「あいつはそういうとこが、まだまだ子供だな。周りに気を使ってるようで、自分のことばっかりだ」


小梅「桃太郎様のことよく知ってるんですね」


男「まぁな」


小梅「桃太郎様は、貴方のことを顔見知り程度だと言ってましたが、私にはそうは思えません」


男「じゃぁどう思う?」


小梅「貴方方のやり取りを聞いてると、まるで……親子のように思えます」


男「ほぉ」


小梅「……違うんですか?」


男「さぁどうだろうな」


小梅「認めないんですね」


男「……昔、村にある女性がいたんだ」


小梅「え?」


男「もうそりゃ綺麗で心優しく村一素敵な女性だった。だが村一番の嫌われ者でもあったんだ」


小梅「どうしてですか?」


男「彼女は……鬼だったんだ。だからと言って彼女は別に村を襲ったりはしてねぇぜ?村のやつらが勝手に怯えてただけだ」


小梅「でも貴方は違った」


男「そう。俺は彼女に惚れてた。隠れて合う度に俺達の仲は深まっていき婚約までした。でもまぁ、秘密はいつかはバレるもんで、村の奴らは俺を嫌悪し、彼女を村から追い出そうとした。それで俺達は駆け落ちし、村を離れた。でも駆け落ちしたときには彼女は身籠っていたんだ。しかも男の子だった」


小梅「その子は、どうしたんですか?」


男「預けたよ。育てても、他の奴らからすれば鬼から産まれた忌み子だからな。俺達が一緒じゃ辛い思いをするだけだ。だから俺達から離れることで、少しでも幸せになってくれるならそれでいいと思ってな」


小梅「その子が桃太郎様?」


男「ん〜? どうだか」


小梅「しらばっくれるんですね」


男「別にしらばっくれてなんかないぜ」


小梅「いいですよ別に。それでも。そうだ、これあの人に渡して下さい」


男「いいのか? 大事な物なんだろ?」


小梅「ええ、でも今のあの人には必要な物です。私は充分守って貰いましたから」


男「わかったよ。確かに」


小梅「あの、最後に一つ聞いてもいいですか?」


男「ん? なんだ?」


小梅「桃太郎って名前どう思いますか?」


男「いいと思うぜ。桃の花言葉は貴方の虜。だけどきっと色恋だけじゃなくて、周りの奴ら全員に愛されますようにって意味があるような感じだな。現にあいつは、村の人間全員に慕われ、愛されてる」


小梅「本当に。ありがとうございます。……では、そろそろ」


男「あぁ、引き止めて悪かったな」


小梅「いえ」


男「あ、俺も最後に一つ」


小梅「なんでしょう?」


男「ありがとうな、嬢ちゃんに会って、あいつはやっと人を愛することを覚えれた」


小梅「人じゃありませんけど」


男「ははは、そうだな……元気でな」



小梅一礼して、退場



男「でて来いよ」



桃太郎、後ろから登場。



男「たっく、先回りまでして、あの子を止めに来たんじゃなかったのか?」


桃太郎「何処で出たらいいか分からなくなったんです。それに……」


男「それに?」


桃太郎「彼女の顔を見たら何を言えばいいかも分からなくなって」


男「はぁ? なんだそれ?愛してるー!! って言えばいいじゃねぇか」


桃太郎「そんな簡単じゃないんです!」


男「そうだな」


桃太郎「さっきの話」


男「あ?」


桃太郎「本当ですか? その、僕の……父親かもって……」


男「なんだ俺が親父だったら嬉しいのか?」


桃太郎「は!? ち、違います!! ただの最終確認です! 貴方が父親とか嫌なんで!」


男「いや、そこまで否定されると流石に傷つくな……」


桃太郎「どうなんですか?」


男「はぁ……さぁどうだろうな。確かに俺の息子とお前さんは歳も似てるが、正直、息子が今何処で何してるかなんてサッパリわからねぇよ」


桃太郎「気にならないんですか?」


男「そりゃ気になるさ。でも何処かで幸せにやって行ってくれてるなら、それでいい」


桃太郎「そいうもんなんですか?」


男「そいうもんだよ」


桃太郎「あ、女性はどうなったんですか? 別れたとか?」


男「なんで一発目の考えが別れるなんだよ……もういねぇよ。何処にも」


桃太郎「……すいません」


男「気にすんな。もうずいぶん前の話だ。皮肉なことにどんな丈夫な体でも、鬼でも、薬のない病には勝てやしない。……そんなにこの話が気になるか?」


桃太郎「僕はずっと両親は亡くなったと教えてもらってたのですが、本当は駆け落ちして、僕を預けたらしいんです。それをじっさま達はずっと隠してて……」


男「あーなるほどね。二人のことは嫌いになったか?」


桃太郎「ずっと嘘をついてたことには怒ってます」


男「でも何でかはもうわかってるんだろ?」


桃太郎「(頷く)」


男「じゃぁもういいじゃねぇか。許してやれよ」


桃太郎「はい……」


男「お、そうだ、そうだ。ほらよ、あの子からだ」


桃太郎「これ、小梅さんの御守り」


男「お前に必要な物だとよ」


桃太郎「小梅さん……」


男「さてと、俺もそろそろ行くかな」


桃太郎「え? 何処に?」


男「言っただろ? 俺は流れ者だ。この村を出て違う町や村に行くだけだ。お前さんはどうする? まだあの子を追うのか?」


桃太郎「いえ、追えば彼女に迷惑をかけるだけですし、きっと怒れます。それに僕にはここで、やらなくてはならないことがありますから」


男「苦しめってやつか?」


桃太郎「はい。彼女は僕に自分の犯してしまった罪に向き合い、反省する時間をくれたんです。だから残ります」


男「そうか、せいぜい頑張れよ。……あ、そうだ、お前さんとんだ勘違いしてるようだから言っといてやるよ。桃太郎って名はいい名前だ! 俺が保証してやる!」


桃太郎「え?」


男「大事にしろよ。じゃなきゃお前さんに名前を付けたあいつが悲しむからな」


桃太郎「僕の名付け親を知ってるんですか!? じゃぁやっぱり貴方は!」


男「んじゃ達者でな! 桃太郎!! また何処かで会おうぜ!」


桃太郎「あ! ちょっと!!」



男、退場



桃太郎「本当、分からない人だな……貴方もどうかお元気で!! ……また何処かで」



桃太郎退場。小梅、登場



小梅「まぁ今年も綺麗な桃の花が咲いてるわ。桃太郎様……あなたもきっと何処かで同じようなことを思ってるのかしら?」



桃太郎、登場



桃太郎「梅の花。これは白梅……小梅さん、今、貴方は何処で何をしているのですか? 他の誰かと幸せに暮らしているのですか? もう一度だけでいい貴方に一目会いたい。でもそう言えば貴方はきっと凄く怒るでしょう」


小梅「単純なあなたのことだから、今でも私のことを思ってくれるのでしょうね。そして一人でどうすればいいか考えているの」


桃太郎「僕は今でも、どうすれば償えるか考えています。でも答えは全然わかりません。だから少しでも長く精一杯生きてます」


小梅「私はあんなことを言ってしまったけど、貴方は最後まで約束を果たしてくれた」


桃太郎「小梅さん、僕はどんなことがあっても貴方の見方です。だから」


小梅・桃太郎「「ありがとう、どうかお幸せに」」



幕が下がる。



ーーENDーー

初心者の拙い文章ですが、楽しんで頂ければ幸いです。

本作品はユーザー様でなくても、コメント出来るように設定しおります。どなた様でも気軽に要望、ご意見、アドバイスがございましたらご連絡ください。


最後までお読み頂き誠に恐縮です。

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