⒌ 失態と失態
こんにちは、古石 セツナです。
さあ今回は朝が来るわけですが。
昨晩は桃色の事件は起きなかったですね。
まぁ、言いたいことはたくさんありますが……。
それでは、どうぞ!
空に蒼がかかってきた早朝。
千暁は屋敷の裏の訓練スペースにて、魔法の指南をしていた。昨日千暁に気絶させられた若い兵士が好奇心を押さえられずに話し掛けた結果である。
ところで。
ファイサリス家は武官貴族であり、アッティカにおいて、二番目に力のある貴族である。伯爵であるファイサリス家が、なぜ銀メダルに輝くほど力をもっているかといえば、それは一重に、アイオライト騎士学院を経営による。
アイオライト騎士学院は、アッティカが誕生したその時からあるパンセリノス皇国随一の学院であり、つまりファイサリス家もその時から存在するわけだ。もちろん、長い歴史だけが力の要因ではない。アイオライト騎士学院で才能を示し、無事に卒業の証である短剣を受け取ることの出来た者で、アッティカ出身のほとんどは、アッティカの南部騎士団の中核部隊である、『アウィンの碧剣』に入隊する。この『アウィンの碧剣』だが、実は元々ファイサリス家が樹立した部隊なのだ。部隊員全員が将のようなものなので、とてつもない権力が発生するのは当然のことだと言えよう。
巨大な力、伯爵の地位を逸脱した権力・武力を有しているのにも関わらず、なぜ侯爵や公爵に地位昇格しついないかは――――――申し訳ないが……詳細不明である。
して。
くだくだと語ってきたが、伝えたい事としては、ファイサリス伯爵家はとても力のある武官貴族なんだよ、と。――――――つまりそんなファイサリス伯爵家の訓練場は、すごく広いんだよ! で、ある。
訓練場は長方形で東西230メートル、南北280メートルであった。
で、広いからどう、というわけではない。ただ、せっかくなので説明しただけである。……視線が痛いのは気のせいだと信じたい。
「あー、転移魔法とは違うんだよ」
「え? 《テレポート》ではない?
あの、昨日剣を避けるのに使ってた、ヤツですよ?」
さらに言えば《テレポーテーション》でもない。
なお、《テレポート》は魔力を持たない物質を使用者のテリトリー(魔力を飛ばせる範囲)転移させ、《テレポーテーション》は、基本的に何でも一度行ったことにある場所なら転移させられる。もちろん、使用者のスペックがモロに影響されるが。
「そう、違うの。大体さ、足元に魔法陣なんて発現してなかっただろ」
「……そういえば、そうですね」
「オマエ、精神力いくつよ?」
「え、……ばらさないでくださいよ?
…………大体1450です」
「あー、無理。無理無理無理無理無理。どーあがいても無理。絶っっっ対無理。世界がひっくり返っても無理。成功するわけがねぇ。
最低でも、100000は必要だわ」
数値や諸々、ほぼアテネの受け売りである。千暁は大抵眠っている間はアテネと接触しているのだ。
「じゅッ、まん!?。
…………なら、僕らを気絶させた魔法をおしえてください」
「アレ企業機密だから(アビリティーだしな)。
てか、オマエじゃ出来ないよ。」
「そんなぁ。僕はこれでもアイオライトを上位1位で卒業したんですけどねぇ」
「あらそ。スゲーじゃん。
でも剣士なんだろ? しょうがねぇだろ。
良いだろ? 《飛閃》出来るようになったんだからよ」
「あ、はい。それについてはホントにありがとうございます」
「燃費と威力、精度、初速はまだまだだけどな」
「つーわけでそろそろ中級魔法を教えて欲しいんだけど?」
「はい。まずは――――――――――――――――…………………………」
◇ ◇ ◇
新米ファイサリス私兵のロイとの有意義なひと時を終えた千暁は、訓練場まで彼を案内してくれた若いメイドと共に屋敷に戻った。風呂で汗を流すのである。
メイド――――――彼女はどうやら千暁の世話係(監視の意味もあるだろう)のようだ。訓練している間も端で待機をしていたときに確信し、確認したところそうだと返された。そもそも朝に部屋の外で待機していた時に思い至るべきである。
風呂。
千暁は腰にタオルを巻き、メイドもタオルを巻いている。メイド服はカチューシャ以外脱ぐそうだ。
『濡れるので』
と。確かに理に適っている。
理には適っているが、状況としてうなずけるかどうか、という話になると、貴族社会敵には良くとも。千暁的には良くなかった。
昨日は寝た。無論、少年誌オッケーな意味で。
つまり、してない。いたしてない。(自主的にだが)おあずけをしたのだ。しかし、彼は健全な男子である。
離れて横になりはしたが、所詮、ベットの距離だ。
そばでかわいい子が寝息を立てている状況で溜まらないわけがない。
早朝に起きたのだって、眠りが浅かったからであり、訓練場に行ったのだって、溜まったものをストレスとして吐き出すためである。しかし訓練場では、当初に予定と違い、体はほとんど動かさずに終了してしまったが。
「お背中、大きいですね」
ごしごし……
「そうか…………」
正直、この状況は我慢が効かない。
「流します」
ザバァー……
なら、背中流してもらうの断れよ。と、いう話だが…………振り返ったら既にタオル姿だったのだ。正直言うと、タオルを巻く途中で、ちょっと見えてしまった。……ちょっとね。
結果、唸っている間に浴室に先に入られた。
ただ、千暁はそこでは何とか熱いパトスを抑えた。見えただけであるから。
洗ってもらうのも、タオル越しなので、何とか。
――――――――が、
ツルリッ
「きゃ!?」
ドン!
「おオ!?」
接触となれば話は別だ。
「もっ、申し訳ありm――――――」
「覚悟しろや」
ゴングが鳴った
◇ ◇ ◇
朝食前の食堂のテーブルで千暁と伯爵は向き合っていた。
伯爵は千暁をガン見していた。
理由はなんとなく、分かる。というか、分かる。心当たりありまくりである。恐らく、先に風呂から上がったメイド自身から聞いたのだろう。
「…………食ったか」
やがて伯爵は、言った。
伯爵の一言で、横の壁に下がっているメイドの頬に朱が刺しているのが視界の端に映った。
プライドを捨てたくはない千暁は正直に答えた。
「…………ああ、食べちまった」
「…………嫌がってる素振りはなかったか? 抵抗はされたか?」
「…………いや、辛うじて残ってた理性で、目を合わせたんだが、彼女から静かに閉じて手を回してきたよ…………」
「…………なんと。奥手かと思っていたが、やはり年頃の恋する乙女の力か」
「(なに!? オレは好かれていたのか)
…………てことは、処罰は無しになったり……するのか…………?」
「…………処罰、いやまさか……。同意の上なんだろう。むしろ儂の思い違いの可能性が完全にきえて良かったわい」
「…………責任という名の処罰はどうなんだ……」
「…………無論、存在する」
「(だよなぁ。メイドは平民だろうしなぁ……!)
…………分かった。で、一応訊くがその責任は……?」
「うむ。――――――――――――娘とはっ、結婚してもらおうッッッ!!!!」
「「「えっ!?」」」
反応したのは、千暁と、伯爵の後ろに下がっている伯爵のメイドと、
――――――食堂に入ってきたクラリスだった。
◇ ◇ ◇
千暁は伯爵に執務室の前まで連れてこられた。
伯爵は、部屋に入るとすぐに戻ってきた。
「…………ん」
差し出されたのは、一枚の紙。
~~~~~~
アイオライト騎士学院 入学資格証明書
以下の者を、アイオライト騎士学院騎士学院に入学する資格がある者として認める。
祈祷士 チアキ・ヤトミネ 16歳
学院理事長 ゴードン・O・ファイサリス
~~~~~~
「前言撤回ね。これ罰ね。儂に恥をかかせた罰ね。
儂の屋敷から通ってもらうから。帰るつもりでまとめてた荷物ほどいてね。
じゃ、儂、これから寝るから。ふて寝するから。じゃ」
先ほどからなぜか伯爵は幼児退行していた。
面食らったまま、千暁は扉のところの執事に問いかけた。
「……………………、伯爵は……?」
「お気になさらず。奥方様がどうにかなさいますので。しばらくすれば元にお戻りになられます」
「……これは?」
「ご入学おめでとうございます」
「あ、どうも」
「では、ヤトミネ様のメイドが復帰するまで、わたくしめがご案内しますので。
それではまず。食堂に戻りましょう」
千暁のメイドは、クラリスが登場する前の伯爵と千暁の会話によって気絶していた。
「ああ」
執事が歩き出した。
千暁はつられて足を動かしながら、紙を掲げて見つめ直した。
~~~~~~
アイオライト騎士学院 入学資格証明書
以下の者を、アイオライト騎士学院騎士学院に入学する資格がある者として認める。
祈祷士 チアキ・ヤトミネ 16歳
学院理事長 ゴードン・O・ファイサリス
~~~~~~
記されている内容は変わらない。
頬を抓ってみる。……痛い。
伯爵が理事長だったのか! など、たくさん思いはあったが、
(――――――棚ぼたじゃねぇかッ!!)
言いたいことはこれが一番だった。
=14=
メイドとでしたねぇ。
ニケ「わたしの存在は………」
ごめん、文字埋まっちゃった。出す予定だったんだよ。本当だよ。古石、ウソつかない。
古石も想定して無かったよ。いろいろとね。今回は、なるようになったね。
でもま、あの状況なら、千暁が獣になっちゃうのもしょうがないよね。
ニケ「…………(泣)」
次回出すよ! 次回!
ニケコールが増えちゃったしね!! 古石のせいだけどね(汗)!
ムヒがなくなってしまった今日この頃…………。