⒓ 対話の記憶(下)とちょっとした後日談
どうも。古石 セツナです。
今回は第一章の最終話になります。
それでは、どうぞ!
『はぁ…………。意思は堅いのですね。ネチアキ・ヤトミネ殿』
『そう、それでいいんだ』
『アッティカの守護神を引き継いで頂きたかったのですが……』
『却下だな。あきらめてくれ。
……オレからも質問いいか』
『はい、何でしょう?』
『――――――――どうしてニケは、 あんみつを知っていた?』
『あんみつ……、ですか』
『ニケに召喚されて間もなく、泣かせちまってな、』
『まあ、女の子を泣かせるのは感心しませんね』
『いいから聞け。
――――でな。泣きつかれて寝ちまったから仕方なく、ホント仕方なく、』
『本心は?』
『冗談じゃないくらい妹に似ていて気付いたら全力で甘やかしてた。
…………アンタ、話し聞く気あんのか?』
『ふふふ。
あまりに可愛くて、本能的におんぶしてしまったんですね? そしたら、ニケが寝言で、あんみつ……と言ったと』
『おいおい……。アンタもしかして今までずっとオレん中で見てたオチかよ』
『見る、というよりは共感するという方が正しいですね』
『は? 共感?』
『チアキ殿の五感をわたくしのシンクロさせているのですよ。
それで、あんみつの話ですが、』
『いつか根掘り葉掘り問い質してやろう。覗き魔め』
『……あ、あんみつの話ですが。――――――お察しの通り、ニケはあんみつを食べたことがあります』
『ふん。どうして?』
『わたくしがお土産にあげたのです』
『……………………は?』
『次元間移動のアイテムが手に入ったので、しばらく振りに地球に行ったのですよ』
『フットワーク軽くねぇか、女神さまよォ』
『元々、わたくしは地球の神ですから。
神話はご存知ですか、チアキ殿?』
『ギリシャ神話ならある程度知ってるぞ。他の神話は少し噛んだことがあるくらいだな』
『では、ギリシャ神話とローマ神話の関係について何か』
『ローマ神話はギリシャ神話に登場する神々の名前を変えただけのパクリだな。オリジナルのストーリーは少しはあるらしいが、オレは知らん。
アンタ――――アテネをローマ神話で言うとミネルヴァだったはずだ』
『ご名答。なんです、わたくしのこともよく知っているではありませんか。
ただ、――――――――神話は、その大部分が事実ではないので、あまり意味はありませんね』
『なんとなくわかってたよ。
ルーブル美術館にあるニケ像だけどな、全く似てなかったからな、ニケにさ』
『神というのは、他の存在の崇拝で生まれるのと、自力で生まれる者とで二種類あります。
わたくしは後者で、ニケは前者です。
さて、ギリシャ神話の神々は大半がわたくしと同じですが、ローマ神話の神々はそのほとんどがニケと同じ生まれです。
もう、察しの良いチアキ殿な――――』
『――――今の地球人類みたいなものか。
要するローマ神話軍勢が現れて息苦しくなったんだろ? 人口爆発ならず、神口爆発だな。人間は惑星地球化計画とか言って、惑星間の引っ越しをもくろんでるけど。アンタらは次元間をブッチして、新たに世界を創造したわけだ?
流石がは神、やる事のスケールが違う』
『まあまあ、チアキ殿は一を教わり十を理解するタイプですね。
あら、…………もうすぐ起きた方が良さそうよ』
『あ?』
『忘れましたか? ここはチアキ殿のまどろみの世界ですよ』
『……そうだったな。
じゃあ最後に一つ。
――――――――――――おすすめの魔法諸々を教えろ』
『そうですねぇ、優秀なのは――――――――――――――――…………………………。
――――このくらいでしょうか』
『……どーうも。参考にさせてもらうとする』
・
・
・
「あ、起きたのね。――――って、どうしたの? 変な夢でも見た?」
◇ ◇ ◇
ここは、南部統括冒険者ギルドの斜め向かいのレストラン。
主に高額クエストを成功させるなど、裕福な財布の紐が緩んだベテラン冒険者たちをターゲットにした店である。
薬草採集のクエストをやっと終えた千暁とアリーフィアスはこの店で昼食を取っていた。
彼らは午前の全てを使って、やっとこさ薬草の採集を終えたのだ。とは言っても、千暁は早々にノルマの二十五本を採集し終えて、何やら技の練習をしていたようだが。
経験の浅い千暁がアリーフィアスの何倍もの速さで薬草を見つけ出すことが出来たのは〝神眼〟のおかげに他ならない。このアビリティーは生物のみでなく、あらゆる物質の正体を暴くことが出来るのである(それなりにMPを使うのはご愛嬌だろう)。〝心眼〟でも見ることが出来るが、それは名前のみしか見ることが出来ず、詳細は見抜けない。
アリーフィアスも〝慧眼〟を持っているが、それは動物にしか使えないので、アリーフィアスは千暁と比べ遅れをとったわけである。
「マジでいらねぇのか?」
「うん、アタシは何だかんだ言って20億ティミーくらい持っているのよ」
「いや、しかしなァ」
千暁は白金貨の大量に入った麻袋を上げ下げしていた。入っている枚数は36枚ジャスト。白金貨は一枚100万ティミーなので、3600万ティミーだ。新しい家がポンっと建ってしまうレベルの大金である。
「いや、せめて1%くらい受け取れって」
「護衛クエストを終えての帰り道に森に寄り道するのを提案してのはヤトミネ君よ。それだけじゃなくて、クリスタルビヒーモスを見つけたのもヤトミネ君。倒したのもヤトミネ君。
…………アタシは、震えていただけだもの」
何に震えていたか。
それは体重五トンをゆうに超えるクリスタルビヒーモス…………ではなく、それを謎の力で空中で振り回していた千暁にである。その震えは恐怖なのか、感動なのか、はたまた両方なのか……アリーフィアスは自身の心を探れずにいた。それが、恐怖であることを恐れてだろう。
マナー違反なので質問はしていないが、いつか訪ねたいと彼女は思った。
「アンタ、もしかして落ち込んでる? いまスゲー人気者なのに」
「ヤトミネ君が功績を押し付けるからでしょぉ。アタシのやってきた事じゃないもの」
「それが原因か?」
「もう一つあるわ。というより今から言うのが本命ね」
「なんかあったのか?」
「なんかって、……あったわよ、大事件がね。
アタシはね、七百年間という時を生きて、それはそれはたくさんの強者を見てきたわ。そのたくさんの強者の中で突出した力を有していたのが、
――――女神アテネだったわ」
「…………………………会ったことあんのか」
「百五十年くらい前に魔王ルシファーの残党兵がここ、アッティカを襲ったの。
アタシはその時、聖騎士じゃなくて魔法士だったんだけどね。善戦虚しく前衛陣がズタボロになちゃって詠唱すらまともに唱えられない状況になったわ。友軍が次々崩れていくの…………、もう駄目だって思った。
それでアタシはどうしたと思う?
逃げたのよ、戦うことから。死んだふりをしたの。
笑っちゃうでしょ? アタシの半分も生きていない人たちが命を賭して戦っているのに、自分は杖を握ることを辞めたの。
そしたらね、
――――――――愚か者。って、声が聞こえたの」
「……それが?」
「そう、女神アテネ。
突然戦場に現れて、防衛軍側に活を入れて、光り輝く剣を振るって、ドラゴンのブレスだってアビリティー的な盾で難なく防いでた。ぐちゃぐちゃだった陣形を立て直して、ついには敵の指揮官だった魔族を打ち取ったの。
とっても、格好良かったわぁ」
「……んで、その格好良い女神アテネと落ち込むのと、どんな関係があるんだ」
「女神アテネみたいになりたくて、ジョブを聖騎士にして百五十年。アタシはレベルを75も上昇させたわ。それなり、いえ、あのころの何倍も強くなったわ」
「おう。アンタ、最高格の一人なんだろ」
「ええ、今はそうよ……。
でも、でもそれなのに…………」
呟くようにそう言うと、アリーフィアスは机に手をついて身を乗り出した。
「それなのに?」
自然体を装う内心、千暁は気圧されていた。
千暁には、アリーフィアスのカーマインの髪の毛が燃える炎に見えた。彼女は決して声を荒げたりはしていないが、……いかんせん距離が近すぎたのだ。
しかしアリーフィアスは気にしてた様子もなく更に顔をずいっと千暁に近づけた。
「アタシは17歳のヤトミネ君の足元にも及ばないっ!」
ッ――――だぁ――――――――
「おまっ!? 泣くこたねだろ!!?」
気を緩ませてお金を受け取ってもらおうと、飲ませたお酒。
失敗したかな。と、千暁は後悔した。
=8=
古石「もうこの裏の会話は恒例になりつつありますかね」
ニケ「……………………」← 休みだったのでいじけている。
古石「まあ、私としては定着してもしなくてもどちらでもいいのですが」
アテネ「わたくし実はあんみつそんなに好きじゃなかったんですよね」
古石「衝撃の事実!?」
アテネ「感想をよろしくお願いします」
古石「それはレッベカの役では!?」
祖母の家に蜂の巣があって大騒ぎした今日この頃…………。