⒑ 定まらない行方
はんにちは、古石 セツナです。
今回はニケのステータスが公開されているはずです。
自称千年は伊達じゃない(?)、とだけ書いておきます。
この回で、鋭い人はニケの内面が手を取るように理解できるかもしれません。
それでは、どーぞ!
アイオライト騎士学院。
朝のホームルーム。
「あー諸君。静かにしてください。でないと、紹介ができません」
「教授、ということは噂は本当なんですか」
「さようです、クラリス君。 ――――はい、静粛にっ」
再度の促しで静かになった教室に、第三学年Fクラス担当騎士教授、ロンバルディ・L・ブリーヒの声が響く。
「ふむ。諸君はすでに知っているようなので、前置きは不要ですか」
入室してください。と言うロンバルディ指示に応えて教室の扉が開く。
「「「「「おおっ…………」」」」」
腰に届きそうなほどの流麗な金髪をたなびかせて入ってきた女生徒に様々な意味が込められた吐息が漏れた。
「はいそこ、静粛にしてくだい。……えー、今日から我々のクラスに入ることになった――――ニルケ・アデルペーさんです。諸君より四つばかし歳下ではありますが、試験でマッドゴーレムを瞬殺していますので、この中では既に上位であり、コネなどを使っていこの場にいるのではないということを頭に入れておくように。くれぐれも騎士の心構えに反した行動は内容にしてください。
では、ニルケさんの席は、」
「ロンバルディ、ニルケは妾の隣に座るのじゃ」
上(後ろ)から二番目の席に座っている女生徒が騎士授教に声を掛けた。。
上下関係無視のため口とだが、先の第一学期で言っても無駄なことが分かっている上、ロンバルディ自身生徒との距離が縮まった気がして内心嬉しいので、叱責はしないようだ。
それに不登校気味になっている彼女に小言を言うと、完全な不登校になってしましそうで言うに言えないのだ。不登校の行き着く先は出席日数不足による退学である。
だから、気を使っているわけだ。
それだけ、彼女が優秀な人材であるということである。
「……レベッカ君。不登校が治ったと思ったらそういう訳ですか。
あきて、また不登校にならないでくださいよ。僕の評価が下がってしまうんですから。
ニルケさん。どうぞ、あの席に」
「は、はい」
ロンバルディはニルケが席についてこちらを向いたのを確認すると、教室全体を見渡すようにして指示を出した。
「では諸君、時間ももうありまあせん。各自一時限目と二時限目の授業場所に向かってください。
あ、無属性魔法の担当教授騎士は全員今日わけあって学院に来ていませんので、無属性をと考えていた生徒は他のところにするか、自習をしてください。
では、ホームルームはこれにて終了とします」
時間がない。そう、言われたのにも関わらず、ロンバルディが教室から姿を消すとゆうに八割以上の生徒がニルケのところに怒涛の勢いで集まった。
「マッドゴーレムを瞬殺したって本当!?」
「小さいのにスゲーな! レッベカさんと友達なのか!?
「ジョブはなんだ? 剣士か!? 魔法士か!? それとも魔弓士か!?」
「私たちのパーティに入らない!? 週一で冒険者ギルドに行くんだけど」
「祈祷士か魔弓士ならぜひ俺たちのところに来てくれないか!? 遊撃手がいなくて困っているんだ!」
「ちょっと! 男だらけのところに女の子一人引き込んでどうすんのよ! この変態」
「なんだと!? オレたちはそんなことしない!!」
「ふんっ、どーだか」
やいのやいの。
殺到する生徒の郡を前にコミュニケーション能力が低いニルケは隣のレベッカに抱き付いて救いを求めた。
「チアキさま゛~~~~!!」
「ニケ、――――じゃなくてニルケ。妾の耳元で叫ぶにはやめてくれんかの」
レベッカの要求は当然ニケの耳には届くことはなかった。
◇ ◇ ◇
クリスタルビヒーモスのいびつな巨体が森の木々や岩を問答無用でへし折りあるいは粉砕して、凄まじい速度で進んでゆく。
その、全身にある内の背中に突き出た魔法石がアリーフィアスの鼻先をかすめた。
はらはらと自身のカーマインの前髪が宙を舞う様子を彼女は放心しながら見つめた。
「あ、あぅあ……………………」
この世の終わりかのような表情でその場に座り込んでしまった彼女の額にはいくつもの冷や汗が流れていた。
しかしそれは当然の反応だ。アリーフィアスでなければ気絶ものである。
しかし、彼女のメンタルが常時人より優れているのを説明しても目の前の光景は変わらないわけで…………。
「はっはァ――ッッ!!」
アリーフィアスの視界には、一夜しっかりと睡眠をとった千暁がありあまる活力に任せ、愉快で仕方がないといった様子で笑っていた。
そして今、彼の目線の先では、クリスタルビヒーモスは進行方向を90度上に変えて、空に向かって進みだした。
既に魔物は天高くのぼり、豆粒サイズになっている。
「星が降ってくる、ってのは――――こういう感じかァッッッ!!」
時間にして六秒。上空五百メートルまで舞い上がったクリスタルビヒーモスは想像を絶する速度をもって地面に墜落した。明らかに通常の重力のみによる落下ではなかった。
衝撃で煙がもうもうと立ちあがり、周囲の木々のまだ青々とした葉が発生した風圧により千切れ飛ぶ。
「……っ。《ガスト》!」
アリーフィアスが詠唱を省略した風属性魔法を使った。数秒で視界が晴れるだろう。
「Sランクが他愛ないな。 LV.241は伊達じゃないってことか」
千暁はLV.241が伊達じゃないと言っているが、――――残念ながらそれは違う。
彼のレベルは確かに241ではある。しかし〝アテネの神格〟の効果でそのステータスは本来の十倍になっているはずだ。つまるところのLV.2410相当になっているのだ。まあ、次にレベルアップする時にどれだけの補正が掛かるかは分からないが、もうLV.241なのだから〝アテネの神格〟の恩恵は10倍ではなく、8倍に下がる。
「…………やっぱり規格外だわ……。
ウィザードワイバーンの時の戦い方ならまだしも、まともな戦闘でLV.513の相手を圧倒するなんて………………!」
「なあ、こいつクエストと無関係だが持ってきゃ精算してくれんだろ?」
「そ、そうよ」
「いやー。弱っているSランクモンスターをたまたま見つけて、単身でそれを討伐。
流石だな? バシウス様?」
「なっ!? またアタシが倒したことにするの!?」
「ウィザードワイバーン失敗した罰だな。てか、Fランクのオレが倒しましたって言って誰が信用するんだよ」
「そ、それは…………」
とたんに口が開かななるアリーフィアスをよそに、千暁は得物を亜空間開通魔法を発動させてそこに収納した。手を当てて、念じるだけの簡単なお仕事です。少しふざけを入れてみたが、実際は集中力をかなり使うのだ。MPだって使い手の腕のもよるが50ばかし使う。
想像を現実に昇華させる力――――精神力が九万超えの千暁だから息を吸うように発動できるわけであり、MPが五万近い千暁だから、気にせず無駄玉を打てるわけである。
「てゆーかバレたのはオルバにだけよ! 世間ではヤトミネ君の言った通りになってるわ」
「悪い。突発性難聴みたいだ。何言ってんだかさっぱり」
「嘘っ! 絶対聞こえてるでしょ!」
「え? アタシが倒しました?
よくわかってんじゃん。センキュー」
「も~~~~!!」
◇ ◇ ◇
早まったかもしれぬ…………。
初対面で目が合った時、思わず〝真眼〟を発動した。
【ニケ・アデルペー】
LV.297 種族…女神
HP : 6730/67300 衰弱90%
MP : 9590/95900 衰弱90%
攻撃力:2692 衰弱90%
防御力:6685 衰弱90%
精神力:8603 衰弱90%
瞬発力:9254 衰弱90%
神だった。
そして、全能力値に【衰弱】の状態異常がかかっていた。
ステータスは強力で、正常時では妾を軽く勝るだろう。
四百年前、女神アテネがルシファーに――――――いや、あのような男、認めぬ。
四百年前にルシファーが女神アテネを亡き者とした時、女神アテネが守護していた地に魔物が溢れて大混乱を引き起こしたという。
女神ニケ。
聞いたことのない女神であり、守護知があるのかどうかも分からないが、最悪の事態可能性がないわけではない。かの大混乱の二の舞をさせるわけにはいかないのじゃ。
「レベッカさぁん、起きてください~! 教授がニラんでますぅ~」
仕えている主がいる、早急に合流したい。などと言っていたが、それこそそれは嘘であろう。
神たる者が他に隷属などと、聞いたこともない。
嘘八百を並べて、妾の手の届く範囲…………アイオライト騎士学院に入学させた。
仮に本当だとしても、ここまで酷い状態異常を放っておく主のところになぞ、いかせてなる者か。
【ニケ・アデルペー】
LV.297 種族…女神
HP : 7403/67300 衰弱89%
MP :10539/95900 衰弱89%
攻撃力:2961 衰弱89%
防御力:7353 衰弱89%
精神力:9463 衰弱89%
瞬発力:10179 衰弱89%
ニケ入学してから一週間。見守るために仕方なく不登校を止め(正確には図書館通い)、一応学院に登校している。
状態異常はいい方向に向かっている。
ニケが女神であるのを知っているのは妾のみ。本人は神法の情報操作が出来ると言っていたので使わせた。故に、ほかの者にはLV.30くらいのステータスに見えるはずじゃ。〝慧眼〟を使えるものは少ししかいない上、〝心眼〟なぞ妾を除けば学院理事長代理しか使える者はいないから、用心しすぎかもしれぬが。
「おおお起きてくださぁ~い~!」
露呈して、クソ貴族たちが媚に来るよりましじゃ。純情なこの子をそのような汚い場へほり込めるものか。出来る輩がいたとしたら、それは鬼、いいや、死神レベルじゃの。
…………この女神は妾が誇りにかけて守り抜く。
「教授激オコですぅ! 真っ赤っかですよ~~!」
ニケの声を子守唄に、妾はまどろみから睡眠へと切り替えた。
=2=
皆さん、ビヒーモス(ビヒモス)ってわかりますか?
象、又はカバに似た巨大な幻獣ですね。水陸両生で、名の起源はヘブライ語で動物を意味するベハマからであり、温厚な性格だそうです。
ニケにスポットライトを多めに当てようかと悩む今日この頃…………。