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出会い

昔から一度もアイドルや好きな芸能人がいたことはない。

むしろイケメンと呼ばれる類の顔の男には、それだけでときめくこともなく、実際恋愛対象からも真っ先に除外してきた。


理由は簡単。


イケメンとの恋愛に、いいことなんて一つもない。

傷つくだけの恋に溺れる程、もう若くはないのだから。



そんな25歳の春。












ようやく起きる気配を見せた彼の、わずかにあいた唇がやけに艶やかで一瞬ドキリとしたのは確かだ。

だが、

(実物はテレビよりもっと綺麗…)

と思っただけだった。

男の人に対して綺麗とは失礼な話だとは思うけれど。

しかしここ、芸能の世界ではある意味最高の褒め言葉なのかもしれない。

彼はその中世的な容姿と唯一無二の音楽の才能を武器に、不動の地位を築いているのだから。

今の時代のイケメンNo.1なのは、誰がどうみても認めざるを得ない。





「…誰?」

不機嫌なのは寝起きだからか。

それとも知らない女がベッドサイドで顔を覗き込んでいたからか。

その両方だろう。

気だるそうに伸びをして、頭をふる。

白に近い金髪が朝日に輝いて、柔らかそうに舞った。


彼が言葉を発した瞬間、歌う時より少しだけ声が低く、ああ、男の子なんだなと当たり前のことを思った。


「もしかして、後任の家政婦?」

切れ長の色気をも醸し出すその両目を何度か瞬くと、私ではなく、なぜか扉の前に立って、部屋に入ろうともしない彼のマネージャーに向けて問う。

ニヤリ、とマネージャー…長野さんは笑った。



「家政婦ってのはあんまりな言い草だな。

ほれ、希望通り、黒髪美人を連れて来てやったんだから感謝しろよ?」

「………別に希望してない」

はぁ、と飽きれたようにため息をもらし、ベッドから上半身を起こすと、私を見た。


「ハル。」

唐突にそう言われて、右手を差し出された。

「はい?」

一瞬何を言われてるのかわからなかったけど、これは…きっと自己紹介ってやつなのかな。



(ハルを知らない人なんていないのに)



ハル。


17歳でデビュー。

その容姿と歌声、ダンス、どれをとっても歌手になるべく生まれて来た、天才シンガー。

5年たった今でも、その人気が衰えないのは

何よりも彼の生み出す音楽そのものが、常に大衆の心を掴んでやまないからだ。

彼に曲を作って欲しいと願う業界人の方が今では多いくらい、作曲家としての才能も高く評価されている。



そして、そんなハルの家政婦、もといマネージャー補佐として配属されたのが、この私。

この大手事務所で事務としてようやく慣れてきた三年目の春、まさかの異動を命じられ正直ハルより私の方が訳がわからないのだ。


長野さんいわく、「黒髪美人の言うことならハルは素直に聞くから」と。


天才ゆえか、音楽以外のことに対するハルの自堕落な生活っぷりは確かに女の人の方が細やかにフォローできるだろう。

(でもなんで黒髪?そして美人とか無駄なヨイショやめてほしい)


どう見積もっても中の中くらいの容姿でしかないのは自覚している。むしろ25歳にしては幼く見られることの多いコンプレックスも密かに持っている。

一度も脱色したことない艶やかな黒髪だけが、まぁ、確かに唯一誇れる所か。





「そっち。名前は?」

促されて、そう言えばまだだったと我に返る。

「サクラです」

いくら年下でも、相手はこれから補佐しなければならない大切なアーティストだ。

軽くしゃがんで目線を合わせ、とりあえず微笑みながらその手をとる。

握り返した手は、思いのほか暖かく長い指がキレイだった。


「…サクラ、…」

ハルが小さく呟く。



と、突然、引っ張られ、彼の腕の中にすっぽりと収められてしまった。

「!!!?」


「長野さーん。俺、サクラ気に入っちゃった♪」


耳元で、嬉しそうなハルの声。


「それは良かった」

「味見してい?」

「双方合意の上ならな」


頭上の会話がよく理解できないのは、思考回路が停止してしまったからだろうか。



「じゃあサクラちゃん、そんな訳で俺は先に事務所戻るんで、ハルの用意よろしくな。くれぐれも遊びすぎないように時間厳守でなー」


後方で楽しそうな長野さんの声と共に扉が閉められた。


「…………」


「サクラ、大丈夫だよ。朝の方が俺、凄いから」

「………」

「楽しもう…ね?」



「っ嫌ーーーーーーーー!!!!!!!」




小春日和の爽やかな朝。

高級マンションの一室、派手な平手の音から私たちの関係はスタートをした。




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