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月の雫“ルイシャ”と四燿星の男達  作者: 蒼水無月
第二章【第一部】
18/24

召喚状

お気に入り登録、また評価をありがとうございます<(_ _)>

   ホーイホイ  ホーイホイ


    きこえるかい  きこえるかい


   カミのいたずら  カミのこえ  


    この風はカミの風  この風はカミの笑いごえ


   木の葉のみどり  田んぼのみどり


    大地をながれる  あおい水





   ホーイホイ  ホーイホイ


    みえるかい  みえるかい


   カミのいたずら  カミの手が


    この風はカミの風  この風はカミの笑いごえ


   しゅくふくの花ばな  こがねの田んぼ

 

    ながれる川は  汗と涙




 

   ホーイホイ  ホーイホイ


    あそべや  あそべ    あそべや  あそべ


   カミのさかずき受けし  マルティネの大地の子



* * *



「りゅうーっ、こっちこっち!」


「そっちにげたぞーー」


「つめてーっ!」


「一匹つかまえたーー」


「ボクなんか二匹いっきだぞ!」


「ぶわぁーか、りゅうなんか四匹いっぺんだ!」


「そういうお前はどうなんだよー」


「うっせー」













「いやはや、あの腕白坊主どもにああやって付き合えるのはリュウ嬢くらいだなぁ」


「昔はアル君達に遊んで貰ってたけど、ここ数年間でそれも無理になってしまったからなあ」


「“四燿星”の称号を受けるようになってから、あの四人は大忙しだったもんな」


「ああ。感謝してるよ、まったく…昔はアル君達も腕白で手がかかったが、それがあんなに立派になっちまって」


「ほんとうにな。それにしても、アル達は良い子を見つけてきてくれた」


 やんちゃで遊び盛りな子供達の声を聞きながら、一服している大人達は汗を拭いつつそんなことを言い合っている。


 ここは、マルティネの西にある村で、アルトゥールの住まう家のある場所でもあった。


 そして尚且つ、西のガルニエラ領との交易に際してこの村は一番影響を受けている。ここの特産物はガルニエラ領と取引して手に入れた、貴金属や鉱物の類を加工物。それこそ日用品から装飾品までお手のモノ。


 そしてそれらの品々はマルティネ領内だけでなく、ガルニエラ領をはじめ諸領地に出回り評判が高い。それも、アルトゥール達が統率を取り始めたこの数年で実現したことだった。


 要するに村全体が小さな鍛冶場の厨房のような風情で、老若男女、マルティネの経済に大きく貢献している。


 ここの村人達も、変わった娘と思いながらもリュウのことを受け入れていた。特に、気負うことなく子供達と等身大に付き合ってくれるのは有り難い。


「どーもー」


「おや、アル。もう終わったのかい」


「書類の処理なんて、ちゃっちゃと済ませてきましたよ。なにが悲しくて一人、あの子達の楽しそ~な笑い声聞きながら部屋の中籠ってなきゃいけないのって感じだし」


「アルらしいねぇ」


「がはははははっ」


「そういえば、また例の“うたげ”の時期が近いんじゃないのかい?」


「あーうん、さっきその書類も見てきましたよ。なんで、そっちも人選しといてくださいね~」


「りょーかいりょーかい」


「じゃあ、なんだ?リュウ嬢も連れて行くんだろう?」


「そうなりますかねぇ。それで、例のものはどうなってます?」


「おお、それならもう直ぐ完成するぞ」


「やはり別の世界のモンだからか、見本にさせてもらったあの子のモンに似せるのはちぃっと苦労したが。なかなか、鍛え甲斐があったよ」


「そうともさ、お陰で新しいモンの発想も生まれたしなぁ」


「今は女房達が、最後の仕上げをしてるとこだ」


 ひょっこりやってきたアルトゥールと村人達が、なにやら楽しげに話しこんでいる。


 ところが


 ふと、遠くからこちらに向かって蹄の音が聴こえてきて、その場にいた全員がその方向へと目を向けた。


 子供達と川にいたリュウも直ぐに気づき、顔を上げてくる。


「カイトじゃない。なにかあった?」


 特に緊急事態が起きたわけでもなさそうなので、アルトゥールはのんびりと問いかける。


 すると、カイトは少し離れた場所に居るリュウにも聴こえるように、顎をしゃくりながら口を開いた。


「アル、リュウ。お前ら直ぐ屋敷に戻って来い。“召喚状”が届いた」


 召喚状、という響きに村人達は少しザワつき、一方のアルトゥールは「やっぱりね」と面白可笑しそうに苦笑する。馬上のカイトも、いつも以上に不敵な笑みだ。


 もちろん、リュウには全く意味がわからなかったが―――この直ぐ後に、その意味を知ることになる。















「王宮に、自分が?」


「ま、正しくは『マルティネの四燿星』と、マルティネ家の養女であり『真珠の騎士姫』であり、なんといってもオレ様達が目をつけたリュウを、だな」


 最後の下りが些か長ったらしいが―――“召喚状”というのは、どうやら王宮からの、ということらしい。


「この分じゃぁ、皇帝陛下にも謁見することになるんだろうが…サミエルの奴、まぁたいつもながら『来い』としか言ってこねぇな」


「サミエルというのは、このアトラスティア皇国の第一皇子のことだ」


「気負わなくって良いからねぇ、姫ちゃん。まぁ、ちょっと周りの取り巻き連中がウザいかもだけど」


「にしてもなー、やっぱ『真珠の騎士姫』とかの噂は広まってんだなー」


 カイト、クリストフ、アルトゥール、カールが順々に説明してくる。その間、アンヌがお茶と焼き菓子を持ってきてくれる。


「あらあら、それじゃあ本格的にリュウちゃんの正装とか、色々手配しなきゃじゃない?」


「そこは心配無用だぜ、アンヌ。既に手は打ってある」


「あらま、手回しの良いこと」


 要するに、こういうことだそうだ。


 皇国全土の中でもマルティネ領とそこを収めるマルティネ家は皇帝をはじめ国中があらゆる意味で注目しているところで、つまり、そこに養女として、しかも異世界からやってきた人間が加わったということは、「ああ、そうですか」で済ませられない話らしく。


 しかもそれだけでなく、リュウが『真珠の騎士姫』などという愛称で呼ばれるようになったその経緯も愛称自体も、既に人づてに伝わって皇帝の耳まで届いているとか。


 キハルの村での一件から、今日で二週間。リュウの怪我は大方完治しているというところ。


 それにしても、このマルティネから王宮のある皇国の中心地まで、早馬でも一昼夜はかかるというのに……人の噂の威力は凄まじい。


 とはいえ、リュウが養女になった時点でカイト達四人もアンヌも伯爵も、いずれ“召喚状”が来ることは予想済みだったという。


 だから、大して驚かない。


「出発は五日後だ。ここから馬で行く。まぁ二、三日で着くだろう。急で悪いが、行けるかリュウ?」


 カイトの問いかけに、リュウは色々と思考を巡らせる。


「行って、自分は何をすれば良い?それに、わかってると思うが、そういう場におそらく自分は不似合いなんだが」


「特別することなんざ、ねぇよ。要は、あっちがお前に興味持って会いたいって話だ。ただな、ちぃっと行く前に教えておきたいことは少しある。流石に、ここに居る時とはワケの違う場所だ」


「まぁでも、姫ちゃんは基本、そのままで良いけどねぇ。あーあ、陛下と皇子サマに会うのは良いけど、ちょっと気は引けるかも?」


「気負う必要はないが、それなりに準備が必要だ。カイト、これからリュウを牧場(まきば)に連れていけ。その間に、俺は例の仕立て屋に連絡を入れておく」


「あ、そうそう。ちょうど良かったよ、例のモノ、もう直ぐ出来上がるって。多分間に合うんじゃないかなぁ」


「王宮なんて久しぶりだなー。なぁなぁ、王宮だけじゃなくて市場も見に行くだろ?ついでに市場調査もしとこうぜ」


 四人が口々に話し合ってゆくのを、リュウは黙って眺める。


 なにやら自分が全てを理解していないところで話が進んでいるが、それはこれから教えられるのだろうし、自ずと知ることになるのだろうとこの場では敢えて質問を重ねることはしなかった。


 どうやら、またしても未知なる場所へと足を踏み入れることになりそうである。


 そう思いながら、けれど四人はそれぞれに意気揚々といった風情なのもあり、特になんの不安もなくリュウはアンヌの焼き菓子を手に取っていた。



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