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王が大臣たちを集めて話をした数日後、騎士隊にも噂は回ってきた。

「おい、聞いたかグレイ」

「ん、まあな」

「アデライン様が王子の花嫁……か」

はあ、とジェラルドはため息をついた。

「だが、まだそうと決まった訳ではない」

「だけどさ……」

俺の言葉にジェラルドはうらめしそうに反論する。

「あの王子サマが、アデライン様との婚姻を拒否すると思う?」

「……思わない」

王子は、優秀な王の息子としては、あまりにも平凡な男だった。やれと言われたこと以外のことはやらない、考えもつかないという、王たるに相応しいとは到底言えない王子である。

そんな王子が、よほどの醜女ならともかく、アデライン様との婚姻を断る訳がない。

そして、王もそれをわかっていて才媛であるアデライン様を選んだのだろう。装飾品など着飾ることにしか興味がない他の娘たちと婚姻を結ばせるより、王家が安泰だからだ。

「まったく、アデライン様もやっかいなことに巻き込まれたもんだね?」

「あぁ、まったくだな」

あの、まったく地位や権力や名声といったことに何ら関心のなさそうな娘は、こんな権力争いに巻き込まれるのを望まないだろう。

でも、この世界で生きていくためには個人の気持ちは諦めなくてはならないのだ。

「で?諦めるの、グレイは」

「……そうしかないだろう。かなり不本意だが」

かなり、の部分を強く言ってしまったのは仕方のないことだと思う。

「へぇ?諦めちゃうの?まぁライバルが減るけど」

ジェラルドは鼻でふふんと笑った。

「あんないい娘、そうそういないよ?王子サマなんかの花嫁にはもったいないよね」

俺は目だけ動かしてジェラルドを見た。

「そんなことはわかりきっているが……珍しいな、ジェラルドが1人の女に執着するなんて」

顔がいいだけに、1人の女への執着がないという悪癖を持つ友に言うと、当人は皮肉っぽく笑った。

「まあね。だって……あんな都合のいいカモは初めてだから」

「……はぁ!?」

俺は目をむいた。

ジェラルドは肩を軽くすくめてみせた。

「だってそうだろう?家は名家で実力もある。本人だって文句のつけどころがない娘じゃないか。それに正直で……付け込みやすいからね」

「ふざけるな!」

俺は我を忘れてジェラルドに掴みかかった。

胸ぐらを掴む。

ジェラルドは悪びれた風もなく、俺の目を見返した。

「俺だって最初はいい娘だなって思ったし、今も思うけど、正直言ってあの娘は素直すぎて逆に面倒なんだよね。でもカモにはなってくれそうだなって」

一旦ジェラルドは言葉を切り、胸ぐらを掴んでいる俺の手に手をかけた。

「お前だって言ったじゃないか。俺が1人の女に執着するなんて珍しいって」

力ずくで手を離させられる。その力でジェラルドのボタンがちぎれて俺の手の中に残った。

ぎゅっとその手を握り締める。

「お前がそこまで嫌な男だとは知らなかった」

「俺についてまた知識が1つ増えたわけだね」

「……出ていけ」

俺は冷たく言った。

「出ていけよ。お前みたいな最低なやつと同じ空気を吸いたくない」

「そうさせて頂くさ」

バタン。

音を立ててドアがしまる。

俺はそのドアを見つめて、手に握り締めていたボタンを床に投げつけた。

かん、と小さい音がして、ボタンは床に転がる。

「ふざけるな……」

ドアをもう一度睨み付けてから俺は荒々しく椅子に腰掛けて机の上の書類を片付け始めた。


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