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決意を固めている男たちがいる中、王宮では王が大臣を集めて話をしていた。
「もう息子も結婚してもよい年じゃ。そこでそろそろ妃を探そうと思う」
大臣たちが騒めく。
1人の大臣が挙手した。
「妃に関しては、既に候補がいらっしゃるのでございますか。もしいらっしゃらないのであれば、私の娘を是非とも妃に……」
それを聞いた他の大臣たちも我こそはと挙手する。
「いや、貴殿の娘より我が娘を」
「私の娘だろう」
「いや、私の……」
次々と展開される会話の中、王が口を開いた。
「もちろん、候補は決まっておる」
話をしていた声がぴたっと止んだ。
恐る恐るといった様子で大臣の1人が尋ねる。
「そ、それはどなた様でいらっしゃいますか」
「それはな、メーベル・レ・アデライン嬢じゃ」
それだけ言って王が口を閉じたので、大臣たちはまさかといった表情で顔を見合わせた。
「まさか……候補はアデライン嬢1人……?」
王が頷くのを見て、大臣たちは慌てた。
無理もない。候補が1人ということは、もう妃は99%メーベル・レ・アデライン嬢に決定ということだからだ。
何か事故でも起きて、アデライン嬢がいなくならない限り。
頭で忙しく計算をめぐらせながら大臣たちが理由を尋ねた。
「今日、アデライン伯の代わりとしてメーベル嬢が来てな、聡明そうだし、息子の妃としてふさわしい容姿を持っているからの」
理由を聞いて、大半の大臣は納得せざるを得なかった。
毎日舞踏会三昧だった大臣たちの娘とは違い、メーベル嬢は名門大学を首席で卒業した才媛で、おまけに妬んだり羨んだりするレベルを通り越すほどの美人なのだ。
しかし、舞踏会にまったくと言っていいほど出席しないため、地位などには興味がないと思われており、大臣たちのライバル視の視線は少なかった。
……が、王自らが指名したとあってはさすがのメーベル嬢とて大臣たちや大臣たちの娘の敵視からは逃れられないだろう。
「で、殿下……それでは、皇太子殿下のご意志は?」
悪あがきのような大臣の言葉に、しかし王はあぁ、と頷いた。
「そうじゃった。息子の意志を訊いてみないことには決まらぬな。余ひとりが良くても息子が嫌なら、また考え直さねばなるまい」
場の空気が緩む。
とりあえず猶予は延ばされた。
その間に打つべき策を、大臣たちはめまぐるしく考えながら解散したのだった。