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王立学院の養護教諭  作者: ボブ


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1.王子の苦悩③

「先生、私は異常人間なのですか?」



泣きながら自分の体に起こることを説明した彼は、深呼吸をした後尋ねてきた。

どうか異常人間なんて言わないでくれ、縋るかのような視線が私を突き刺してくる。


ノエルはもはや尋ねるまでもない、明らかなPTSDである。医者ではない私でさえも、ジャンヌの視線に射抜かれたあの瞬間がトラウマになっている、なんてすぐに理解した。


ただ、私は彼になんと伝えようか悩んでいるのだ。

彼が自分を異常性がある人間だ、と悩むのも同じで、この世界において精神医学の発達はほぼないに等しい。


そうなると、この国の最高医療が提供されるはずの王子様であっても、彼の心の傷によって引き起こされている症状を治療することはできない。


一介の養護教諭が彼にそれをなんと伝えようか悩んでいるのにノエルは気づいていない。恐らくば『異常人間である』ことをどうやって伝えようか悩んでいる、と見えているのかもしれない。


真後ろに立つ護衛も少し不安そうな視線を私に向けていた。




「…ノエルくん、よく聞いてくれる?」

「は、はい…」



「あなたのそれは異常人間ではないので、まずは落ち着いてね。ただちょっとしたまあ…壁?みたいなのがあるんだよ。」

「かべ?」


きょとん、とした顔で聞き直してくる彼はもう王族のベールが解かれていた。


「そう。乳母が自分を見つめながら死んだ。ノエルくんの頭はその強い記憶が消せなくて大きなストレスというものに代わって、とにかく身体を休ませてくれって訴えているんだよ。強い記憶が、あなたの中の壁になって平穏を邪魔をしてくる。」

「ストレスってなんですか?」

「たとえば…今私が持っているこの紙、これをくしゃくしゃに丸める…これがいわゆる圧力だよね。

ノエルくんの心、いや脳かな、がこの紙と同じようにくしゃくしゃにされてしまってる。脳は元々くしゃくしゃだけどね、はは。物の例えだよ。」



ノエルくんは、思い当たる節があるのか、しばらく考えた後また涙が流れてきた。今度は溢れ出したような涙ではなく、優しく流れる安堵の涙。


「…ただね、ノエルくん。私はこのことをたまたま知っていたからわかったんだけど、王宮内にいるお医者様がそれをご存知でなかったから、今君はそうやって悩んでしまっているのよ。」



人間は大昔、理性と知性を手に入れたと同時に、脳の容量も増え、弱い身体に引き換えて大きな頭脳を手に入れた。

様々なことを覚えて、活用させるために。


しかし全部覚えるのは難しいから、重要でないことはすぐに忘れるように記憶の整理を始めるようになった。


トラウマは、本来『忘れてはならない』、二度とそのような恐怖を抱かないために脳が強い記憶として残している。


「本当はゆっくり休んで、記憶が薄まるようにしたらいいのだけど、ノエルくんは学業の他にも小さな公務に行ったり、デビュタントも迎えてないのに休みもなく働いているから今までのストレスも乗っかってきたんだわきっと。」


13歳の頃、大好きな母同然の乳母に裏切られ、大きなトラウマを抱えながら仕事と学業をこなす毎日。

誰も寄り添う人がおらず、信じることができないまま、思春期が加速する14歳になられた。


そもそも14歳というまだまだ若い子がこんなふうに心に傷を抱えていたのにも周りが気づいてあげられない環境が不憫でならない。


私は傲慢にもどうしてもそれを解決してあげたい、と思ってしまった。

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