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王立学院の養護教諭  作者: ボブ


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1.王子の苦悩②

遡ること一年前。

王宮内では中々大きな揉め事が起きた。

それはもう静まりつつあるものの、今も後処理で忙しいらしい。


ノエルの乳母があろうことかノエルの目の前で亡き者にされた。

ノエルにとって乳母のジャンヌはもはや産みの母である王妃ガブリエラよりも信頼を寄せている大事な大事な存在だった。


残念なことにノエルの乳母であっても決して国葬になることはなかった。



なぜなら、彼女はスパイ容疑で斬首されたのだから。





 


「…と、いうのはおそらく先生もご存知ですよね。」



王子の乳母ジャンヌのスパイ事件は、そのスキャンダラスな内容から王宮内にとどまることなく王都まで広まったその時期は、もれなく皆その話をしていた。


当然この学園内はもっと騒がれており、ノエルはしばらく学園を休むとの連絡があったのを私も覚えている。


「ここからの話は内密にして欲しいのです。」

「内密…わかった。」


私はノエルの背中側にある大きな窓と、扉の方にカーテンと共に盗聴防止のバリアを張った。ノエルは大きな目を少し見開いた。


「…先生は魔法が使えるのですね。」

「まあ大したものはかけられないから。」


グランベル王国にはそれほど数は多くないが、魔法使いが存在する。とは言っても私のように簡単な魔法しかかけられない魔法使いが大多数で、強い魔力を持つのは王族くらいしかいない。


しかもその魔法の使用もガッチガチに法で固められてるので好き勝手にかけられるかと聞かれると全く否、である。


私は養護教諭だし子どものカウンセリング業務も担っているので、生徒が聞かれたくない話をするときには盗聴防止の魔法をかけても罪に問われない。


王族から内緒話を持ちかけられるケースは流石に想定外だけど別に咎められることもないだろう。


ふと私はノエルの手元を見た。男の子らしい骨ばった手ではあるものの、王族らしく美しい数ひとつない手は、指先がうにゃうにゃと落ち着きがない。

更によく見たら震えていた。


「…ノエルくん、落ち着こうか。」

「せ、先生…。」


王族ともあろう方が、こちらを見て涙を流した。




「ジャンヌは一年前私の目の前でころされました。こちらの目を見た彼女の顔が今も脳裏に焼き付いて離れないのです。」





__________


ぼろぼろ、と大粒の涙をこぼす彼の姿は痛ましく、ただの友人ならばすぐに抱きしめていたことだろう。

その後俯いてただただ泣き続ける彼は落ち着きを取り戻したのでゆっくり話を聞き出した。



「…時々、私が、私でないような感覚に襲われるのです。」

「ほう?」


乳母のジャンヌは、死に際、自身が育てた息子同様の王子のノエルのことをジッと大きな目で見つめたままいったらしい。


何も言葉を発することなく、両の眼がまだ幼いノエルのことを獲物を見つけた猫のように見つめていた。


その異常性にノエルが震えているのを見た護衛騎士がすぐにその場を離れさせたが遅かった。



その晩からノエルは毎夜、夢にジャンヌが出てきてはその目がずっと自分を監視するようになった。

それが怖くなったら今度は寝ることができなくなった。

更に夜のみならず、昼間は随分とイラつくようになり、周りに当たり散らすようになった。


周囲の人間はこんな子が将来の国を背負って立つのにふさわしいのか、と眉間に皺を寄せてひそひそと話すようになった。


ノエルは更にそれが嫌になり、あの場から離れさせてくれた護衛騎士以外の臣下の者を排除した。


王宮内で出される食事には手をつけることができず、学園内の忙しない食堂でしか食事をとることができなくなった。

他にも食べる人がいる上に、忙しい場所なら毒や薬などを混入される恐れがないだろうとノエルが自分で判断したらしい。


その後もやることなすこと全部が仇になり、気がつけば一年が経過していた。



「先生、僕は王宮内の医師も信じることができない。どうすればいいのでしょうか…。」



王子ノエルは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)にかかっていた。

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