第6話『最強の妨害』
「また会いましたね。まさか『魔導師』の所にいるなんて」
「――っ!」
「っと。そんなに敵意を見せないでくださいよ。僕は何も悪いことしてないでしょ?」
「お前が俺をこの世界に飛ばし――っ!?」
飄々とした態度で、まるで「僕は間違ってますか?」というような顔でいた男に苛立ち、カナタは殴りかかろうとした。だが、男はそれを軽くいなし、カナタの足を蹴って転ばす。
「お、前……ッ!」
立とうとするが、出来ない。上から強力な力で抑えられているかのように、身体を起こせないのだ。
「すみませんね。乱暴はしたくないんですが」
「……どの口で?」
カナタをこんな世界に連れてきておいて、乱暴をしたくないとは何を言っているんだ。起き上がれず苦しんでいるカナタを見下しながら、男は話し始めた。
「こんなところで過ごしてもらっても困るんですよ。言ったでしょう? やってもらいたいことがあると」
「嫌だね。どうせろくなことじゃないだろ」
「――へぇ、それをあなたが言いますか。ま、良いでしょう。一緒に来ていただきますよ」
男の魔の手が、カナタを掴もうと近づく。だが、
「おい」
その瞬間、『魔導師』によって放たれた閃光のように輝く魔法が、それを妨げた。
「誰だよお前。そいつに何か用か?」
「――――」
「無視かよ。なんだお前」
「『魔導師』か。手荒な真似はしたくないんだけど、僕の邪魔するなら君を殺るよ?」
不気味に笑う男を見て、グレイスもまたニヤリと口角を上げた。
「ああ、良いぜ。出来るもんなら――な!」
――瞬間、屋敷の扉にいたはずのグレイスが目の前まで来ていた。グレイスは右足に炎を纏い、蹴りあげる。男は手でそれを受け止め、上空へと飛ばされていった。
「生意気な奴だね。――」
(――ッ、この感覚は……)
男が何かを呟いた。その瞬間、追いかけるために飛び上がったグレイスは遠くへ飛ばされてしまった。その技にグレイスは違和感を感じた。
だが、この程度でやられる『魔導師』ではない。
魔力を足先に流し、空を蹴る。そして加速したスピードと共に、
「エクスプロード!」
炎魔法最高火力のそれが放たれ、空が真っ赤に染った。空には誰もいない。グレイスは地面に着地すると、倒れたままのカナタを支えた。
「おい、立てるか?」
「う、うん。ありがと……」
カナタの腕を首に回し、ゆっくり立ち上がるグレイス。その後ろを、
「あれで倒せるわけないだろ?」
男がどこからか取り出した剣が刺さった。――はずだった。
「――っと。危ねえな馬鹿野郎。後ろからなんて卑怯な真似しやがって」
「――なるほどね」
刃はグレイスの背中に当たっているが、貫通しない。強く押し当ててもだ。それを察した男は不敵な笑みを浮かべ、剣を離す。
(攻撃が効かないのは面倒だ。――ま、良いか)
「待て、逃がさねえぞ」
「物分りの悪いやつだな。僕が帰ってあげようとしてるのに止めるのか? 何を考えてるのか分からない。お前に構ってる場合じゃな――」
――瞬間、右手側から紫色の閃光が走り、男が左に吹き飛ばされていった。紫電をまとっている現れた少年。それは――
「あ! えっと……ラインたちの友達の人!」
「ん? 君は確か……ああ、ラインたちの屋敷にいた人だね。どうしてここにいるの?」
それは、青みがかった銀髪で剣を腰に携えている、あの少年だった。どうしてここにいるのかという問いに、カナタが口を開ける。
「実は――」
「その話はどうでもいい。あいつが先だ」
だが、説明しようとしたところをグレイスが遮り、三人の目は飛ばされた男へと向く。かなりの速度で蹴飛ばされたはずだが、欠伸をしてピンピンしながら立っていた。
「また邪魔が増えたか」
そう呟く男に、ラインたちの友達はこう切り返す。
「ここで何をするつもりだったの? 君が誰か知らないけど、一度拘束させてもらう」
「落ち着こうよ『剣聖』さん。君とやり合うのは気が引けるかな。それに、僕は争いに来たわけじゃないのに、そこの『魔導師』が戦闘をふっかけて来たんだよ?」
「喧嘩売ってきたのはお前だろ。こいつを狙ってたみたいだが、何の用だ?」
カナタを指さすグレイスを見て、男は顎に手を当て、
「君に言う義理はない。――じゃあさようなら。いずれまた会うことになるだろうけど」
――そう言い残し、男は瞬間移動したかのように消えてしまった。
「――行っちゃったね」
「――まあ良い。今日はもう寝ようぜ。うちで適当に寝ていいぞ」
「い、良いんですか? じゃ、じゃあ失礼します……」
「あーそうだ」
知らん人が襲ってきたというのに、気にせず寝ようとしているグレイスの神経の図太さにも驚くが、まさか屋敷に入れて貰えるとは思わなかった。
頭を下げたカナタが屋敷に行こうとすると、グレイスに呼び止められてしまう。
「敬語気持ち悪いから普通に喋れ」
「あ、は……うん」
敬語をダメ出しされるとは……。タメ口で話されるの許さなそうな人だと思っていたのだが、間違いだったようだ。
敬語を外したカナタを手で追い払うようにし、カナタは屋敷の扉に向かった。
――その後ろ姿を見届け、『魔導師』は隣の少年――『剣聖』に目を向ける。
「――で、お前は何しに来たんだ?」
「さっき、ラインと一緒に行動してたんだけどね。ラインからこれを渡されて。グレイスに渡すように言われたんだ」
「はぁ? あいつが来いよ……。えっと、――へぇ、なるほどな」
『剣聖』が渡した手紙には、この世界の文字で何かが書かれていた。それを見て、『魔導師』はニヤリと笑った。
「気持ち悪い顔してるよ?」
「うっせえな悪口だろそれ! ぶっ飛ばすぞ!」
「ごめんごめん。――で、どうする? 僕も一緒に居ようか?」
「バーカ。大丈夫だって。――それより、ラインに伝えといてくれ。――」
グレイスの言葉を聞いて、『剣聖』は軽く笑い、
「うん。分かった」
と答えた。そして、『剣聖』は膝を曲げ、空を見上げると――
光の一閃のように暗闇に消えていった。
「――ったく、相変わらず馬鹿みたいな身体能力してやがる。にしてもねぇ……。ま、いいだろ」
そう呟き、『魔導師』もまた、暗闇へと消えていった。




