第5話『初めての魔法』
――『魔導師』グレイス・エヴァンスによる魔法の訓練が開始した。
とは言っても、いきなり魔法を使用するなんてことはカナタには出来ない。どうすれば魔法が使えるのかそもそも知らないし。
今のカナタに必要なのは、まず魔法がどのようなものか理解することだ。
そのため、『魔導師』は魔法の説明をすることに決めた。
「めちゃくちゃ端的に言うが、とりあえず魔力があればなんとか魔法は使える。で、見たところお前は魔力あるし、使えないことはないな」
(魔力あるんだ俺……。異世界人なのに)
「えっと、じゃあどうやって魔法使えば良いんですか?」
「急かすなよ。まずはお前がこの感覚を理解出来るかどうかだ。――フレイムスパーク」
グレイスがそう詠唱すると、彼の指先から炎が生成され、弾丸のように遠くに放たれた。これが、魔法というものだ。
だが見たところで使える気はしない。この感覚を理解出来るかと言われたが、どの感覚? とカナタは不思議そうにしている。すると、グレイスは丁寧に話し始めた。
「魔力は常に全身に流れてる。指を構えた時に、それを指先に集中させるんだ。で、さっきみたいに詠唱すれば魔力が魔法に変換されて出てくるってわけ」
(指先に集中……)
グレイスのアドバイスを受けて、カナタは指先を遠くに向ける。そして、詠唱した――が、上手くいかない。
――そりゃそうだ。この世界の誰もが出来る、自分の魔力のコントロール。それが、異世界から来たカナタには理解できずにいるからだ。指先に魔力を持っていくという感覚が分からない。
「――そこからか。魔力のコントロールすら出来ないって今までどんな生活してきたんだよ……。――仕方ねえな。先に教えてやる」
ゆっくり近づいてくるグレイスが怖い。怒ってんのか怒ってないのか分からない表情をしていて、不気味に感じてしまう。動けずにいると、グレイスがカナタの肩に触れた。
その瞬間――
「――え? なにこれ……」
「俺がいつも見てる視点だ。魔力の流れがよく見えるだろ? 自分の身体のも」
グレイスに触れられた瞬間、視界が一気に変化した。色覚が変わるとか、そういう変化ではない。ただ、目の前にいるグレイスから青白い炎のようなものがゆらゆらと溢れ出ているのが目に入ったのだ。
それだけではない。グレイスの体内から、彼の指に魔力が集まっていくのが見えるようになった。
「これが、みんなが見てる視点?」
「ああ、そうだな。ま、ここまで見えるのは俺だけだ。みんな相手と自分の魔力が見えるが、魔力が多いか少ないかくらいしか分からない。でも、俺はこんなふうに正確に見えるんだ」
「へー……」
グレイスの説明を聞き流しながら周りを見渡す。そんなに変化はない。ただ、グレイスや自分から溢れる魔力が見えるようになっただけだ。
「じゃあさっきの俺と同じように、魔法を撃ってみろ」
「う、うん。わかった」
(魔力を指先に集めて……詠唱か)
力を入れると、魔力が段々と指先に向かっていくのが目に入る。取り乱さないように心を落ち着かせ、魔力の流れを見守る。
そして、魔力が指先に溜まった瞬間、
「――フレイムスパーク」
炎魔法を詠唱し、炎のような弾丸が遠くへと飛ばされたのだった。
「お、飲み込み早いじゃねえかよ。それが出来たなら他のは応用するだけだ」
感心したようにグレイスが呟く。
「他の魔法ってどんなのがあるんですか?」
「まずは属性魔法だな。炎、水、氷、雷、風、光、闇の七つある。ま、闇魔法は心が闇に染まってる奴しか使えねえんだけどな。――例外はあるけど」
「例外?」
「ああ。俺の知り合いは使えるんだよ。――それはいいとして。後は防御魔法、治癒魔法、飛行魔法、強化魔法ってところか?」
「多」
「だから、闇以外の属性魔法、防御魔法、治癒魔法だけ覚えろ。他は後回しでいい」
グレイスにそう言われ、カナタは合計八つの魔法を覚えることとなったのだった。
そして、グレイスは屋敷に向かって歩いていく。
「今日は終わりだ。魔法が使えるようになっただけだがな。明日からは覚悟しとけ」
「は、はい……」
屋敷に入っていくグレイスを見届けると、カナタは大きなため息を付く。なんか、疲れた。魔力を操るという前代未聞の体験をし、ちゃんと異世界にいるんだなぁと思う。
――そういえば、今日はどこで寝ればいいんだ? ラインたちのところに戻って良いのだろうか。
あそこまではまあまあ遠かった。それを往復するのは結構きつい。
かといって、ここに泊まっても良いのだろうか。あの怖い『魔導師』にぶちギレられる気がしてたまらない。
(やっべぇ、どうしよ)
幸い、今日は寒くもなんともない。適当なところで寝ても大丈夫だろう。
そう考えたカナタの肩を、誰かが叩いた。
グレイスかと思い、振り返ったカナタ。だがその瞳には、アイツが映っていた。
「――また久しぶりですね。こんな所で会うなんて」
「――な、んで、お前が……」
――それは、夜凪叶向をこの世界へと送った張本人であったのだ。




