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第4話『地獄の一週間の始まり』

「――カナタって、この世界の人じゃないよね?」


「え」


 口を開いたアレスに真っ直ぐ見つめられ、そう尋ねられた。

 この世界の人達にも、異世界という概念はあるのか……などと思いつつも、放心状態になってしまった。


 なぜ、その事が分かった? 特に不思議なことはしていない。――もしかすると、ラインとセツナにここを案内してもらったとき、世界について何も知らなかったのが変だったのだろうか。


 そう考えながら、カナタは冷や汗を頬に流し、アレスの瞳をじっと見つめる。アレスの言ったことに対して、残りの面々も驚かず、カナタを見ている。彼女らも、気づいていたのかもしれない。


 ――わざわざ隠す必要はない。ただカナタは元の世界に戻りたいだけなのだから。

 

「――ああ。俺は別の世界から来たよ。なんで、分かったの?」


「僕は、というより、僕たち四つ子はちょっと他より特別だからさ。そういうことは分かるんだよね」


「すっげえな……。――あ、もしかして俺を元の世界に帰してくれたり……?」


 カナタが希望を持ったような瞳でアレスを見つめ、そう呟く。しかし、彼はセツナとレンゲと目を合わし、首を振った。


「――ごめん。出来ない」


「――そ、うだよな。ああ、分かった」


 彼らですら、カナタを元の世界に戻せないらしい。そりゃそうだ。そんなこと、神くらいにしか出来ないだろう。


「でも――」

 

 残念そうに顔を下に向けていると、アレスがそう呟いた。そして、


「代わりに手伝いたいんだ。君が帰れるようにさ。そのために、どうやってこの世界に来たのか教えてくれない?」


「どうやって、か……」


 カナタの脳内には、昨日の記憶が映像のように浮かんでいる。そしてまばたきすると、カナタはアレスを見つめ、事の顛末を話し始めた。


「――なるほど。親友の家に向かっていたら、謎の男に話しかけられ、逃げようとしたら真っ黒な穴にこの世界に送り込まれた……」


「ああ。だいたいそんな感じ」


「その男ってどんな見た目だった?」


「綺麗な男だったな。丁寧に敬語で話してたし。あとは、えっと……あ、なんか俺にやってもらいたいことがあるって言ってたな」


 セツナの質問にそう返すと、彼女は冷静に、

 

「……そっか」


 と返した。


「――手がかりはないね。と、いうわけで。ねぇカナタ」


「ん?」


「君、魔法学園に入学する気はない?」


「へ?」


 突然そんな事を言われ、カナタは言葉が出なくなった。なんでこの流れでそうなるの? というように不思議な顔をしている。


「――この世界は君の世界よりも危険だからさ。君も魔法くらい習っておいた方がいいよ。――戦わないといけなくなるかもしてないし」


 ――なんか物騒だが、アレスの意見には同意する。昨日だって、盗賊に襲われたし、あの時も魔法が使えればなにか違ったのかもしれない。

 それに、


「僕たちの通う学園は、レガリア王国最高の魔法学園だ。君が帰るために、何か情報を掴めるかもしれないよ」


 それなら、やるしかない。元々勉強は苦手では無いし、元の世界では使えなかった魔法にも興味を惹かれる。だから、カナタはこう答えた。


「――ああ、やってやるよ」

 

◆◇◆◇


「――で? こいつを魔法学園(うち)に入れるために魔法を教えろってか?」


「うん。頼んでいいかな?」


 アレスによって連れていかれたのは、またもや広い土地にある屋敷だった。

 そこの庭園で、アレスは目の前にいる銀髪の少年と話していた。整った顔立ちをしているが、口が悪く、なんか怖い。

 

 どうしてアレスがここに連れてきたのか。

 その理由としては、彼こそがこの国で、いや、世界でも最強な『魔導師』の家系――エヴァンス家の子であり、現在の『魔導師』であるからだ。


「はぁ、仕方ない。おい、お前」


「は、はい」


 呆れたような顔で話しかけられ、カナタはビクッとしながら反応する。すると、

 

「お前、魔法使ったことないんだよな?」


 と聞いてきた。もちろんカナタは「全くない」と答えると、少年はため息をつく。


「ま、いい。ただ、俺は全く甘くないからな? 早く終わらせたいしキツくやるぞ」


「――グレイス、あんまりいじめちゃダメだよ?」


「俺はそんなことしねえよ。アッシュじゃあるまいし」


 腕を組み、いじめると思われたのが心外なのか、不機嫌な顔をしているグレイス。だが、そんな彼を見て笑顔でいられるアレスは凄い仲が良いのだろう。

 あるいは――


「さて、俺に任せとけ。お前みたいなやつでも一週間でそこそこくらいのやつに育ててやるよ」


「――あ、はい。よろしくお願いします」

 

 ――そして、鬼の一週間が始まろうとしていた。


◆◇◆◇


 ファルレフィア邸の図書室で、ラインは一人の女性と会話していた。白銀の髪と瞳を持ち、神々しい見た目をした美女。椅子に座り、立っているラインを見つめながら話し始めた。


「――そっか。ヨナギ・カナタ君はグレイスのところに行ったんだね」


「ああ。でも、大丈夫かあいつ?」


「大丈夫だよ。心配しなくても。――君たちはどうするの?」


「色々調べるよ。そっちはどうする?」


 ラインが女性にそう言うと、女はゆっくり立ち上がり、呟いた。


「――私も、やるべきことをしないとね」


 ――ラインの瞳には、覚悟を決めた女の姿が映っていた。

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