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第12話『魔法学園入学試験』


 今日は、ヨナギ・カナタの入学試験日だ。緊張しながらも、いつも通りの朝を迎え、朝食をとり、身支度を済ませた。

 そして今は、彼が受ける魔法学園――聖煌魔法(せいこうまほう)学園までグレイスと歩いている。


「転入試験は普通に受ける時よりめちゃくちゃ難しいらしいからな。しっかり気を引き締めてやれよ?」


「うん。――あ」


「なんだよ急に立ち止まるな」


 突然声を上げて立ち止まったカナタに振り向き、ギロッと睨むグレイス。それはもちろん怖かったが、カナタは一つ気になることがあった。

 どうして今まで不思議に思わなかったのかというほどのことだ。

 それは、


「そういえば、そもそも俺って願書とか出してなくない? 今更かよとは思うけどさ、もしかして受けられないんじゃ……」


 そう。そもそも、カナタは彼のことについて書かれているものを何も提出していない。今更かとは思うが、異世界で魔法学園に入るなどという普通に生きていれば絶対に経験しないことに遭遇し、そこまで頭が回らなかった。


 どうするべきか。そう悩むカナタを横目に、グレイスは「あー」と口にした。


「お前聞いてなかったのか? ラインたちが勝手に作って送ったらしいぜ?」


「は? え、そ、そうなんだ」


 カナタが別の世界から来た人だと気づいたのは、ラインたち四つ子が初めてだ。気づいた理由は、四人が特別だからとかアレスが言っていたが、それならまあ、カナタのことを知っていてもおかしくはない……のかもしれない。


 何はともあれ、受験資格はあるということだ。胸を撫で下ろし、再びグレイスと共に進んでいく。


「――よし、着いたぞ。ここだ」


「うわぁ……めっちゃ広い……」


 魔法学園の校門に辿り着くと、カナタはそのデカさに圧倒された。首を横に振っても遠くまで続く敷地に、バカみたいにでかい校舎と、広い校庭がある。

 声が出ず、立ち止まっていると、グレイスに背中を叩かれた。


「止まんな。早く行ってこい」


「痛っ」


 結構痛かった。背中をかきながら、カナタは校門をゆっくり通る。すると、グレイスが突然声をかけてカナタを止めた。


「え、どうしたの?」


「お前の入試担当の先生は俺の担任だが、あの人普通に雷落としてくるからな。素直に従っといた方がいいぞ」


 (……だから、昨日のアッシュといい、なんで直前でそんな話をしてくるんだよ!?)


 そう心の中で叫ぶ。雷が落ちるってことは、それだけ怖く怒る先生なのだろう。めちゃくちゃゴツかったりするのか。

 そう心配になりながら、カナタは歩いていく。緊張しながらも、何とか心を落ち着かせるために目を閉じた。


「――ふぅ。大丈夫大丈夫。いける。俺ならやれる。――痛ぇ!? ご、ごめんなさ……」


 自分に言い聞かせていると、突然誰かにぶつかった。咄嗟に目を開けて謝罪し、その男を見る。すると、男はカナタを値踏みするように見つめ、呟いた。


「お前がヨナギ・カナタだな? 俺は入試担当のヴァルディだ。よろしくな」


「は、はい。ヨナギ・カナタです。よろしくお願いします」


 なんと、彼がカナタの試験担当の教師らしい。見たところ、普通の男性だ。三十代半ばくらいの見た目に見える。ゴツくもなく、中肉中背で全く怒りそうな感じの人ではない。


 (アッシュもグレイスも言い過ぎじゃないか? めちゃくちゃ優しそうだし。――あ、でも、こんな人の方が意外と怖いのかもな。見た目じゃ判断できないし)


 アッシュの言うようなスパルタだったり、グレイスの言うような怖そうな人ではなかった。まあ、見た目だけでは判断はできない。

 それに、今日のカナタは入試を受けに来ている。先生がどんな性格だろうと今はどうでもいい。

 今日は全力で試験を受けるだけだ。


「着いてこい」


「は、はい」


 そう言って歩いていく先生の後ろについていくと、野球場二つ三つ分のデカさの校庭に出た。


「ここが試験会場だ。お前には三つの試験を受けてもらう。早速初めて良いか?」


「大丈夫です」


 そうは言ったものの、さすがに緊張してきた。心臓がバクバクしているのを感じる。

 落ち着こう。平静を保とう。胸に手を当て、心の中で何度もそう唱える。

 すると、先生口を開いた。


「準備は整ったみたいだな。――ではこれより、第一の試験を始める」

 


◆◇◆◇



 一方その頃。休みの日ということもあり、ラインたち四つ子はファルレフィア邸のリビングで過ごしていた。


 ソファーにゆったりと座っている長男のラインと、末妹のレンゲを見つめ、次男のアレスは言った。


「カナタは入学試験を受けに行ったみたいだね。グレイスから学んだことをしっかり活かせるかな?」


「さあ、どうだろうな。アッシュが言うには、属性魔法、防御魔法、治癒魔法はとりあえず全部詰め込まれたらしいけど。俺らは転入試験がどんなものか知らないし、カナタが合格できるか分からないな。――そういえば、セレナとエルフィーネはどんな試験を受けたんだ?」

 

 四つ子ももちろん魔法学園生だ。入学試験は受けたが、転入試験は受けていないので、試験の違いが分からない。しかし、転入試験の方が数倍は難しいとも聞いたことがある。


 ラインがそれをメイドの二人に尋ねた理由。それは、彼女ら二人は転入試験を受けて魔法学園に入学しているからだ。


「そうですね。(わたくし)たちが受けた試験では、一つ目が闇以外の全ての属性魔法と、様々な魔法の精度などを見るもので、二つ目が先生の放った魔法を即座に真似るものでした。最後は『権能』について色々と質問を受けましたね」


「私たちが受けたときと試験内容全然違うね!」


 セレナの説明を聞き、驚いた顔で声をあげたレンゲにみんなが頷く。


「ま〜去年の話なので今年はどうなのか分からないですけどね〜」


 と、気だるそうなメイドであるエルフィーネが呟く。


「そうだとしても、受かって貰わないと困るからね。やってもらわないといけないことがあるから」

 

 セツナの発言で、騒がしかった場の空気が一気に静まる。

 やってもらわなければならないこと。それは、カナタにしてもらわないといけないことという意味だろう。そして、この場にいる六人がそれに賛成するように無言の時が流れた。


 


 ――ヨナギ・カナタは知らない。彼の内に秘められた"何か"が狙われているということを。


 

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