第10話『魔法の修行』
――午後、カナタはエヴァンス邸の庭で、『魔導師』のグレイスと共にいた。
午前は『剣聖』と戦い、『権能』とかいう特殊能力を知ったカナタ。
今日のグレイスの訓練は、治癒魔法と防御魔法、そして、『権能』を使った戦い方を作ることらしい。
「まずは防御魔法をやるから見てろ」
そう言って、グレイスが腕を横に振ると青白いバリアのようなものが瞬時に貼られた。
「コツが分かれば簡単だ。お前、属性魔法は使えるだろ?」
「ああ。使えるな」
「その時、どうやって魔法を出す?」
……どうやって? その質問に、カナタは頭を回転させて考える。炎魔法を撃った時は、指先に魔力を集中させる。そして詠唱すると魔力が炎に変換されて撃った訳だ。
「詠唱して、放出する?」
カナタがそう答えると、グレイスは「ああ」と頷く。
「それと一緒だ。魔力をまずは手に集中させる。そして、自分を守るイメージをしろ。そしたら、あとは魔力を体外に流すだけ。どうだ? 簡単だろ? 一度やってみろ」
「ああ、やってみる」
まずは魔力を手に流す。次は自分を守るイメージ、か。グレイスが貼った防御魔法の形や見た目は、既にカナタの記憶に入っている。それで自分を守るイメージを考えながら、炎魔法を撃つ時のように魔力を体内から体外へ出す。すると――
「お、出来るじゃねえか! ……ただまあ、ちっちゃいからもうちょっと大きくできるようにしないとな」
一発で成功してしまった。ただ、できた防御魔法は掌二つ分程度の大きさしかなかった。それでも、一応防御魔法はできるようになったため、グレイスは次に進むことを決めた。
「じゃあ次は治癒魔法だな。防御魔法より難しいぞ。まずは――」
次の瞬間、グレイスが魔法を放ち、それが彼の腕を掠った。切り傷のようなものができ、血が流れ始める。
「だ、大丈夫かよ!?」
「バカか。治癒魔法するに決まってんだろ。要領はほかの魔法と一緒だ。まずは怪我してる部分に魔力を集める。そしたら、皮膚を魔力で繋げて、体から出た血の分を魔力で補完する。ま、こんなもんだ」
「は、はぁ……。――って!?」
そんなふうに治すのかという感じで見ていたカナタ。瞬間、頬を魔法が掠り、切り傷が出来た。
「さあ、治してみろ」
突然魔法をぶっぱなしてくるグレイスを「まじかこいつ」と思いながらも、彼がしたようにまずは魔力を頬に集める。もちろん、そこまではいい。
だが、傷が塞がらない。
(あれ? 傷が治らない……。どうなってんだ……?)
「皮膚を構築しようとするな。繋げる感覚でやれ」
繋げる感覚。そう言われて、カナタは自分が皮膚を作って治そうとしていたことにハッと気づいた。再び集中し、切れた皮膚同士をくっつける。あとは血を魔力で補完すると――
「治……った?」
「ああ。出来てる。やるじゃねえかお前。数日でここまで出来るようになるとは」
「これが、治癒魔法か……」
新しい感覚に静かに驚き、治った皮膚を触る。そうしていると、グレイスは突然「あ」と呟いた。
「言っとくが、もし腕を失ったりしても治癒魔法で新しく腕を生やすのは無理だからな」
「え、無理なの?」
治癒魔法というくらいなのだから、それくらいできると思っていた。だが無理と言われ、カナタはそう答える。
「まあ、失った腕がまだ繋がる状態ならなんとかなるけど、新しく再生させるのは簡単に無理だ。魔法学園でも俺しかできない」
「な、なんでだ?」
「傷を塞ぐのには魔力をあんまり使わないし、みんなすぐ出来る。だが、失ったものを治すのはかなりの魔力と想像力が必要だ」
そう言って、グレイスは続ける。
「例えば、お前の総魔力を100とするだろ? 属性魔法だったり、防御魔法を使うのがそれぞれ魔力が5かかるとしよう。傷を塞ぐだけなら15くらいで済むが、新しく生やすには90くらい必要ってわけ。要は、燃費が悪すぎる」
丁寧な説明を聞き、カナタは納得する。そうなると、あまり大きな怪我は出来ない。そんなに魔力を消費してしまったら、何にも出来ないし。――それなら、どうしてグレイスは腕を生やすなんて芸当が出来るのか。
「じゃあ、どうしてグレイスは失った部位も生やせるの?」
「ああ、俺の魔力は無限だから」
「は」
これには流石に言葉が出なくなってしまう。無限の魔力ということは、もちろん魔力切れが起こることはない。燃費がヤバすぎる治癒魔法も何度も使用出来るということだ。
「ほら、驚いてばかりでいるんじゃねえよ。次は俺と戦ってもらう。殺さないようにはするし、腕を失くしたりとかはしないから安心していい。ただ、徹底的にボコすからな」
……もう逃げ出したい。そう思ってしまうが、やるしかない。
「……わかった。やろう」
「ああ。じゃあ早速始めるぜ。――フレイムスパーク」
瞬間、炎の弾丸が放たれた。小さいながらも、防御魔法でしっかり防ぎ、カナタはグレイスに指を構える。
「フレイムス――」
「アクアパレット」
「え!?」
カナタの炎魔法を打ち消すように、グレイスは水魔法を詠唱し、水の弾丸で炎の弾丸を消した。
(そういえば俺、炎魔法しか習ってなかった……)
習ってない属性魔法を撃たれ、一瞬だけぽかんとしてしまう。しかし、そんな事はどうでもいいかのように、グレイスは指を向けていた。
「ウィンドカッター」
「ちょ!?」
見えなかった。透明な風の刃が空気を切り裂きながらカナタの腕に当たり、切り傷を与える。
「他の属性魔法を知らないからって、戦いを止めるんじゃねえ。応用しろ。フリーズニードル」
「――っ!」
今度は複数生成された氷の針が高速でカナタに飛んでくる。防御魔法で全て受けながらも、全ての攻撃が早すぎて反撃の機会が掴めない。
「え?」
離れていたグレイスが、目の前にいた。その手に腕を触れられたと思ったら、
「サンダークラッシュ」
「うぅっ!?」
雷魔法が使われ、全身に衝撃が走る。痺れで身体が鈍った一瞬の間に、グレイスの蹴りがカナタを遠くへ吹き飛ばす。
「防御魔法は使えてるし、炎魔法も使えてる。まあ問題はねえけど、そのままだったら普通に死ぬぞ。次は少し強く行く。何とかしろよ? ――インフェルノ」
次の瞬間、地面から燃え上がる火柱が大量に現れ、カナタを取り囲んだ。
絶体絶命。そう表現していいだろう。カナタの防御魔法の大きさでは、これらを防ぐことはできない。
だが、カナタは焦っていない。ゆっくり立ち上がり、空から降り注ぐ炎を見上げ、詠唱した。
「――シャドウ・エクリプス」
「なっ――」
それは、この世界で、心が闇に染まっている者しか扱えないはずの闇魔法であった――




