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第9話『『権能』』


 ――真っ暗な廊下で、小さな足音が聞こえる。この屋敷は、『魔導師』グレイス・エヴァンスが住む屋敷だ。だが、歩いているのは彼ではない。


 真っ暗で顔がよく見えないが、真っ白な髪が特徴的で輝いて見えた。


 少年が歩く先は、突然倒れたヨナギ・カナタが、現在眠っている部屋。

 ゆっくりと進んでいくと、少年の隣には白銀の長い髪を持つ女がどこからともなく現れた。


「私の役目は終わったよ。君はどうする?」


「俺はあいつに『権能』を与える」


 女性が歩きながら少年に尋ねると、彼はそう答えた。

 

 『権能』。それは、世界に産まれた者が、世界を生み出した『創世神』によってランダムに与えられる能力だ。グレイスや『剣聖』はもちろん、全人類に必ず与えられている。


 その力をカナタに与えようというのが、この謎の男の目的らしい。


 カナタを起こさないように扉を開け、ベッドまで近づく。そこにはスヤスヤと眠っているカナタがいて、起きていないと分かって安堵する。


「――さて」


 そう呟き、男がカナタに触れる。その瞬間、眩い金色の光がカナタを包み込んだ。五秒程度光っただろうか。段々と光は落ち、元の暗い部屋に戻っていった。


「何の『権能』を与えたの?」


「――そうだな。まあ、すぐに分かるさ。あいつには伝えとくか」


 ――女性の質問には答えず、少年は瞬間移動のように部屋から消えた。


◆◇◆◇


 ――『剣聖』の長剣が腰に触れた時、カナタは「死んだ」と思った。



 カナタから放出された、紫色のエネルギー。それが長剣を砕き、カナタの命を守ったのだ。


「――――」


 砕かれた長剣をただじっと見る『剣聖』。十数秒そうしていた彼だが、その瞳はカナタに向けられた。

 

「――ッ」


 身体が怯んでしまう。さっきまで、殺意のこもった目で見られていたし、殺されかけた。ラインたちとも仲が良さそうだし、メイドのセレナさんも「大丈夫な方です」とか言っていたのに。

 身体が動かない。地面に手と尻をつけて見上げていると、『剣聖』は折れた長剣ではない、もう一つの剣を腰に帯刀した。

 そして、


「ごめん。ちょっとやりすぎちゃったかな?」


「は?」


 突然そんなことを言われ、カナタはそう返す。また攻撃されると思っていたので、ちょっとした放心状態になってしまった。


 だが、そんなカナタを気にもとめず、『剣聖』は話し始めた。


「グレイスが帰ってくるまでに、君の『権能』を探るように言われてね。魔法を使ったことの無い君が、『権能』を知るわけないと思ったから、ちょっと手荒な真似をしたんだ」


 と、語った。ということは、彼はカナタを殺す気はないし、ただ『権能』を探りたかっただけということだ。

 それならそうとはっきり言って……。


 ――いや、そもそも『権能』ってなんだ?


 そう思ったカナタに気づいたのか、『剣聖』はクスッと笑い、目を合わせた。


「やっぱりね。『権能』が何か知らないんだろう?」


「あ、ああ。知らない」


「この世界は、はるか昔に『創世神』によって創られたんだ。そして、人間だけじゃない色んな種族も生み出した。そんな僕たちは、産まれた時に二つの『権能』っていう能力を授かるんだ」


 『権能』という異能力。この異世界にはそんな力まであるのかと感心するカナタ。顎に手を当て、アッシュに尋ねる。

 

「えっと……なんか特殊な力みたいな感じ?」


「そうだね。そんなところだよ。――で、今の戦いを通して、君の『権能』の一つは《破壊》だね。僕の剣を壊したし。そしてもう一つは、多分《創造》かな?」


「な、なんでそうなるんだ?」


「《創造》と《破壊》はセットみたいなものだからね。片方だけを持ってる人なんていないよ。――まあ、例外はあるんだけどね」


「へぇ……」


 ご丁寧に教えてもらったが、どうやったら使えるのかとか全くわからない。

 聞いたところでは強そうな力だが、どんなことができるのだろうか。

 というか、そもそも地球人のカナタはこの世界で生まれたわけではない。そんな力を授かっているはずもないのだ。ただ、『剣聖』がカナタと戦った上で「ある」と言うのだから、持っているのかもしれない。


「――それってどうやって使えばいいんだ?」


「うーん……どうやってって言われたら難しいね。僕にも三つ『権能』があるけど、二つは子供の頃から使ってたし、自然に出来るからね。悪いけど、使う感覚は自分で探すしかないよ」


「そうなんだ……。ありがとな」


 感謝を述べ、ゆっくりと立ち上がる。斬りかかってきたりと怖かったが、本当に殺意があった訳ではない。それに、ラインたちとも仲が良さそうだし、悪い人ではないのだろう。

 殺されなかったことに安堵し、胸を抑えて目を瞑ると、後ろから頭をコンと叩かれた。


「悪い悪い。遅れた。お前の『権能』が分かったみたいだな。これでちゃんと教えられる。ありがとな、アッシュ」


 それは、ようやく帰ってきた『魔導師』グレイス・エヴァンスだった。

 

「構わないよ。カナタにはちょっと怖い思いをさせちゃったんだけどね」


「……お前何したんだ? 俺は『権能』を聞き出せって言っただけだぞ? まさか剣を振ったり……」


「振ったね。――そんな顔しないでよ。カナタは魔法を使えないんだし、『権能』のことも知らないと思ったからさ。戦えば自然と使えるようになると思ったんだ」


 グレイスの問いにそう返す『権能』を、グレイスは引いたような目で見ていた。まさかそんなことをするとは全く思ってなかったのだろう。


「はぁ、まあいいか。どうせ、カナタにはちょっと痛い思いをしてもらう必要があるからな」


「……は? え? ど、どういう意味だ?」


 ため息をついたグレイスがそう述べ、カナタをじっと見つめる。意味がわからず疑問を投げかけると、グレイスは口を開いた。


「お前は防御魔法も治癒魔法も覚えなきゃなんねえ。どっちも一回で成功出来るもんじゃないし、何回かは俺の攻撃が当たる可能性があるってことだ。気を付けろよ」


 ――さらに恐ろしい訓練が始まる予感がした。


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