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第8話『『剣聖』との戦い』

作品タイトル変更しました。よろしくお願いします


 ――カナタが目を覚ますと、なぜかベッドの上にいた。右側の窓からは陽光が差し込んできて、朝になったばかりのようだ。


「なんで、俺ここに……。図書室から出たはずじゃ……」


 カナタの持つ最新の記憶は、図書室で倒れたところをグレイスに助けられたというものだ。そこからどうやってこの部屋に来たのか、全く記憶にない。

 気絶でもしていたのだろうか。――とりあえず、グレイスを探そう。


 腹に力を込め、ゆっくり体を起こす。寝起きのため、少々動きが危なっかしいが、何とか立ち上がり、歩き始めた。


 十メートルほど離れたところにあるドアまで近づき、ドアノブを捻る。そしてガチャっと開けると、


「――うおっ!?」


 と、思わずそう声をあげてしまった。なぜならそこにいたのは『剣聖』などと呼ばれていた少年だったのだ。

 驚きの声を出したカナタを見て、少年は悪いことをしてしまったような顔をした。


「あ、ごめん。驚かせるつもりはなかったんだ」


「な、なんでここに?」


「グレイスに頼まれてね。君が寝てる間、またあの男が襲ってきたら僕しか対処できないからって」


 あの男というのは、カナタをこの世界に送ったあいつだ。先日は手も足も出ず抑えられたカナタだったが、目の前にいる彼ならあいつに対抗出来るのだろうか。カナタと同い歳くらいにみえるのに。

 まあ、異世界人と比べてはいけない。それよりも気になることがある。


「えっと、俺がどれだけここにいたか知ってる?」

 

「突然気絶した君をこの部屋に運んだのが昨日の出来事だよ。だから、丸一日経ってるね」

 

「……まじで?」


「まじだよ」


 そんなに長い間気を失っていたのか……。一日時間を無駄にしてしまったのはまずい。元の世界に戻るために、できるだけ大勢から情報を集めたい。そのための魔法学園入学だが、それがまた遠のいてしまう。


「グレイスがどこにいるか分かる? 魔法を教えてもらわないと」


「今出かけてるね。少し遅くなるって言ってたけど……君は帰ってくるまで待てないみたいだね。そんなに魔法を習いたいの?」


「ああ。やらなきゃいけないことがあるから」


 カナタが胸を張ってそう言うと、『剣聖』は明るい笑顔を向けた。


「それじゃあ、グレイスが戻ってくるまで僕と魔法の訓練をしようか。学んでも実践出来ないと意味ないからね」


「そうだな。実践できないと……。ってもしかして……?」


 何やら嫌な予感がする。まさか――


「それじゃあ、僕と戦ってみようか」


 腰に取り付けてある剣に左手を納め、笑顔でそう言うのだった。


◆◇◆◇


 エヴァンス邸の広い庭に出ると、カナタと『剣聖』は距離を取り、お互いを見つめた。『剣聖』が腰の剣に手を伸ばすと、カナタはビビった様子で声をかけた。


「そ、その剣使うつもり?」


「うん。あ、大丈夫だよ。君のことは斬らないから安心して」


 そう言ってはくれるが、『剣聖』とか呼ばれてる人が剣を振ったらどうなるのか想像できない。ただ、一瞬で命を奪われることは確かだ。

 まあグダグダは言ってられないので、カナタは『剣聖』に手を構えた。


 記憶。記憶を読むんだ。一昨日、グレイスに見せてもらったあの景色を。全身に流れる魔力を指先に集中させ、詠唱する。


「フレイムスパーク」


 瞬間、炎の弾丸が指先から弾け、『剣聖』のもとに飛ばされた。

 

「すごいね。初めて魔法を使うのに、成功してるよ」


 『剣聖』の周りには青白いバリアのようなものが貼ってあり、弾丸を軽く防いだ。防御魔法なのだろう。だが、精一杯頑張った魔法をいとも簡単に防がれるのはちょっとへこんでしまう。


「――それじゃあ、今度は僕から行くよ」

 

 そう言って、『剣聖』は右足を前に出し、構える。沈黙の空気が流れる中、『剣聖』は一気に距離を詰めてきた。


「っ!? 速っ!?」


 全く見えなかった。カナタに向かって一直線に走ったはずだが、まるで瞬間移動したかのようだった。


 さらに、剣で斬るつもりはないと言っていたくせに、右手に持つそれを思いっきり振り回してきたのだ。

 

「ちょ!?」


「大丈夫、君には絶対当てないから」


 なんとか身体を地面に倒し、剣筋を避けたカナタに『剣聖』は笑顔でそう言った。


 (そう言われても、平然と出来るわけないだろ!?)


 ずっと笑顔の『剣聖』だが、カナタは背筋がゾクッとするほどの恐怖を感じている。気のせいかもしれないが、ずっと殺意を向けられているような気がする。


「――っ」


 立ち上がり、焦りと緊張で唾を飲み込むと、距離を詰めたはずの彼は再び後ろに下がっていた。


 おそらく、さっきと同様にまた距離を詰めてくるだろう。あの速度を目で追うのは不可能だ。掌に魔力を集中させておく。近づいてきた一瞬でカウンターをしよう。


 .そう考え、右掌を勘づかれないよう構える。何か動きを見せた瞬間に合わせろ。合わせろ。合わせ――


「――っ!?」


 ――ちゃんと見ていた。だが、『剣聖』はカナタの背中にいた。何も、動きを見せた素振りはなかった。後ろを向いてカウンターなどといった芸当を、カナタは出来ない。ただ首だけ動かし、後ろを見てみる。

 そこには、殺気のこもった瞳で長剣を容赦なく振りかざす『剣聖』がいた。


 (やっ、ば……)


 鋼の刃が腰に当たったのを感じた。このまま一気に腰が切断され――



 ることはなかった。何が起きたのか分からない。ただ大きな爆発音と共に、剣が砕ける音がしただけだ。地面に倒れ込み、ゆっくり顔を見上げる。


 視線を向けた先にいる『剣聖』は、ただ折れた長剣をじっと見つめるだけだった――

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