5−2. 文明の光
「はじめてきたけど、きれいなもんだね。まるで星みたいだ」
ティムがそう言って感心する。夜の闇に沈む王都を、街灯や家々の無数の橙の灯りが飾り立てている。汚れた大気に妨げられて、北極星ぐらいしかみることのできない空の代わりと言わんばかりだ。門番に鼻薬をかがせて出入り口の鍵をあけさせたが、さほど不審がられる様子もなかったのは、この光景をみたいと思う人間がそれなりにいるという証左だろう。
なお、五百段もの階段を上って肩で息をしている身としては、美しい夜景に感動する余裕も感性もない。子供の体力は大した物である。
立っているのは大聖堂のドームの上部外周だ。大聖堂は千年以上前に建てられて以降、たびたび焼き払われ、落雷にあい、大火で燃え落ちるといった災禍に見舞われてきた。それらにもめげずにその都度再建され、今がある。かつては倍近くの高さがあったというが、現在の高さでもなお、王都で一、二を争う高層建造物であった。
息を整えた後、エーテルグラスをかけ、金属の手すり越しに王都を見下ろす。昼夜問わず飛び交うエーテルは視界いっぱいにちらちらと燐光をふりまいている。エーテル由来の責白色の光は概ね均一だが、家々の灯りが集まる部分は薄い。エーテルが灯りのエネルギーとして費消されるからだ。
同じくエーテルグラスをかけたティムと手分けして、ドームの周囲をゆっくりと巡りながら街区の景色を凝視する。運河が流れる南側とその向こうは田園地帯であり、輝く黒に沈んでいる。圧巻なのは西から北の住宅街で、地価の高いそちらは橙の灯りがカーペットのように広がっている。
「あれかなぁ?」
10分ほども黙って狭いドームの外周通路を巡っていただろうか、ティムが声を上げる。
傍らに立ち、ティムの視界と同じ高さにかがんで、指さす方を見る。
「あの灯り、他と色が違う」
すぐには見つけられず、エーテルグラスをかけたり外したりして間違い探しのように見比べる。と、コインの半分ほどの大きさの青白い光が、橙色の光に混じってあるのがわかる。北西の方向だ。その場で地図を広げ、方位磁石を置き、青白い光の方向に向けて地図上に直線を引く。
「でかした。そのまま見失わないようにしろ」
頻繁に青白い光を確認しながら、ゆっくりとドームのらせん階段を降りる。エーテルの青白い光は構造物を突き抜けて確認できるため、方向さえわかっていれば捕捉はさほど難しくはなかった。
大聖堂を出た後、西に向かう。中央市街は治安がよく、大通りであれば夜でも出歩くに支障はない。二、三百mほど進み、大きな交差点で立ち止まる。再び地図を広げ、青白い光の方向を確認し、線を引く。先ほど引いた線との交点が、光のある場所だ。直線距離で1kmもなく、さほど遠くはない。
「今からいく?」
「いや、今日はもう遅い。場所のあたりさえつけば十分だ。帰るぞ」
踵を返すと、ティムが素直に付き従う。
「で、あれ何なのさ?この距離でみつけられるって結構おっきそうだけど。前に見つけた装置とおんなじようなもん?そろそろ教えてもらってもよくない?」
丁稚奉公できくような口の利き方ではないが、他人に育ちをどうこう言えるものでもない。
「あれは多分、新型炉だろうな」
「ふーん。それで何か問題ありそうなの?前に危ないって言ってたよね」
「さて、普通なら問題はない。何しろ、動かないからな」
「動かないの?なんで?」
「理由は無数にあるが、ざっくりと言うと、処理が複雑すぎて紋章回路を組みきれない上に、そもそもの紋章回路に欠陥がある。仮に実現すれば大きなエネルギーが取り出せるが、炉の素材が無数に連続する処理のたった一度が終わるまで耐えられない、あたりだな。まぁ、あと二百年は無理だ」
「じゃあ、危ないって何さ。いろいろ言いつかって手間かけて調べてるなりの理由があるんでしょ?」
頭の後ろで手を組みながら、こちらを見上げてくる。
「普通じゃなきゃ、動かせるかもしれん」
「すごいじゃん」
「100%失敗する。で、爆発する。規模はでかい。大事故だ」
ティムがうへぇ、と苦虫を噛み潰したような顔をする。
「そりゃ早く止めた方がいいね。聞いてくれればだけど。失敗すると思ってやる奴はいないからね。てか、ダメ元でも今から言いに行った方がよくない?」
義侠心に溢れる意見に、抗議の声を無視してティム頭髪をわしゃわしゃとかき回して応える。
「まだ少し猶予はある。動かすのは、夏至の夜だとさ」




