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壊れ回路の錬金技師  作者: 相沢 静


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4-5 フィールド・ワーク(後)

「お仕事をお探しで?」

 ティーカップを二客持って出てきたバーリーが、こちらの視線の先を読み取って水を向けてくる。ちょうど良い、とばかりに返事を返した。

「いえ、もうしばらくゆっくりしようと思っています。ただ、今後のために少し市況をお伺いしても?」

「そうですね、相変わらず錬金技師(れんきんぎし)の需要は旺盛(おうせい)ですよ。蒸気機関に燃焼石(ねんしょうせき)を放り込むだけの作業員から、紋章回路の保守管理要員、工場での設置設計や安全管理責任者、みんな人手不足ですな。もちろん、新しい回路の設計職や研究職も引く手あまたですよ」

「何かこれは、という求人はありましたか?給金が特別(はず)むとか」

「そうですね…ウィリアムさんのお眼鏡に適いそうなものは正直今は。少し前までなら良さそうなものがあったんですがね」

「というと?」

「それこそお辞めになるちょっと前くらいの時期までは、この夏までの期間限定での研究職・技術職募集があったんですよ。それも一人二人ではなく、人数不問という形で。期間限定だけあって、通常の三倍の給金がついていました。うちからも何人か紹介したんですが、いやいや中々に審査が厳しくて。かなり専門的な知識を求められたようで、ダメでした。ウィリアムさんなら、きっと採用されたのでは、と思います。ウィリアムさんは、どこかの商会なり研究所なりが力を入れた取り組みをやる、といった話は聞いていましたか?」

 バーリーは手元の紅茶に砂糖を三杯も入れてティースプーンで溶かし込む。肉体労働をそれほどするとは思えないのに、そんなに糖分をとって大丈夫なのだろうか。

「いえ、覚えはないですね。そもそもそんな短期間で研究部隊(チーム)を組成してたち上げて成果を出す、というのはあまり聞きませんね。募集はどちらからあったんですか?」

「それが間に仲介を噛ませていて、元の依頼主がどこかはわかりませんでした。普通は宣伝も兼ねて堂々と集めるものなので、妙な感じでしたね。それが理由で応募を差し控えた方もいらっしゃいましたよ」

「なるほど」

 入れてもらった紅茶に口をつける。東の大国から大量に運ばれる茶葉は等級も様々だが、残念ながら味をどうこう感じる教養はない。

「それで、本日はどういったご用命でしょう」

 見計らってバーリーが問いかけてくる。

「研究用に精錬された上質の賢石(リッチ・ストーン)を少々融通(ゆうずう)してもらいたく。こちらは昨今の相場はどうですか?」

「専門家に申すのも恐縮ですが、やはり質と大きさによりけりですな。先ほど少し言いましたが、全般的には右肩上がりです。上質、ということですとAAA、AAあたりは近頃は落ち着き気味ですね」

 傍らの帳面を開き、バーリーが言う。

「少し拝見しても?」

 やや不躾(ぶしつけ)なお願いも、バーリーは(うなず)き帳面を渡してくれた。びっしりと手書きで日付と等級と大きさごとの重さあたり価格が書かれている。調達部門にいた訳ではないので、それほど確かな記憶ではないが、大分高くなっているように思える。

 過去二、三年遡って追ってみたところ、最上級のAAAと次ぐ品質のAAは昨年大きく値を伸ばしていた。そもそも高価すぎて大量に消費するものではなく、流通量はそれほど大きくない。まとまった需要が発生したのだろうか。バーリーの言うとおり、今年に入ってからは伸びは落ち着いていて、他の低等級の価格の伸びを待っているかのようだ。

「すぐに手に入るAAAはどれくらいですか?大きさはさほどこだわりません」

 帳面を返し、問いかける。

「そうですね…、大きさ問わず、ということでしたら二〇キロといったところでしょうか」

 バーリーは別の帳面を確かめながら答えてくれる。こちらは在庫帳だろう。定常で見込まれる需要を()(はか)りながら、知り合いといえども初回取引で融通できる範囲がそれだけ、ということだ。

「全部もらえますか」

 バーリーがやや驚いたような顔をする。AAAともなれば、価格は金とは言わないがその10分の1ほどもする。個人が手を出すには高価だ。

「あと、腕の良い錬金技師と冶金(やきん)技師を何人か紹介して下さい。それぞれ三人ほどいてくれると助かります」

 バーリーは理由を詮索(せんさく)するような野暮なこともせず、快諾してくれた。あらためて在庫としてある賢石(リッチ・ストーン)の大きさと重さから総額を計算し、技師たちの紹介料も含めてこちらに金額を提示する。相当な金額だったが頷きで返し、小切手を切った上で、こちらの住所を伝え配送を依頼した。数日中には届けるという約束と技師たちの連絡先をもらい、握手をして店を出た。


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