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壊れ回路の錬金技師  作者: 相沢 静


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4-4 フィールド・ワーク(中)

「繊維業にガラス販売業、紡績機械業か」

 どの人物も資本家で、多くと同じく元は庶民階級から成り上がっている。近所で評判も聞き込むように言ってあったが、吝嗇(りんしょく)や傲慢、狭量といった人物評の他、特別不審なところはないようだ。全て同一人物なり、同じ職業組合に属するなりしていれば良かったのだが、そう都合良くはいかない。建物の所有者から装置を試作した意図なりを調べていくのは筋が悪そうだ。お宅の所有物件に入ったら変な装置があったんですが、どうでしょう?と聞いて回るわけにはいかない。

 残りのメモには新聞広告の引き写しが書かれていた。昨年頭以降の、冶金(やきん)技術者に向けた募集広告だ。かなり多い。冶金(やきん)技術者は鉄鋼業・鉱業・機械工業など重工業産業で必要とされる。錬金技師と同じく、引っ張りだこな職種だ。

 何個かに一つ、異様に報酬の高い募集がある。相場は実に他の3〜5倍。募集会社は様々で、いずれも職場は東部辺縁区とある。ただ、それらの特異な求人は昨年の冬に入ってぱったりと途絶えていた。

 紋章工学を駆使して、誰かが何かをやろうとしていることは間違いない。発見した装置をみるに研究所から手に入れた知識と成果を下敷きにしているのも確かだ。そして、少なくとも関わっているのは一個人だけではない。相当な資金力を背景に、複数人の技術者や職人を動かしている。その中にはどうも天才級の設計者もいる。

 わからないことだらけだが、一番分からないのはやはり目的だ。単なる知的好奇心や酔狂でやるには大がかりすぎる。研究所は強欲である。仮に金銭で買い取ったとして、あそこでの投資規模を考えると、驚くような額をふっかけられただろう。また、試作の装置ひとつ作るにも、家一つ建てるくらいの費用がかかるはずだ。加えて試作品はあくまで試作品。きちんと稼働する装置に仕立てようと思うと、さらに大きな投資が必要だ。

 そこまで費用をかけた結果、得られるものは、何もない。活用価値は0で、ちり紙を買うほどの金も産まない。買い取った研究結果を読めば、そう理解できるはずだ。まともな技術者の観点では、実現に進むのは全くの茶番である。

 では、茶番をどうすれば現実(リアリティショー)に引き上げられるのか。ペテンに掛けて金満家から金を引き出すことはできるかもしれない。かつて、中世の錬金術師が時の権力者にやったように。投機筋を巻き込めば、単なる花の球根が家ほどの価格になった球根相場や、奴隷貿易会社への投機を呼び込んだ南海泡沫事件にならって巨万の富を動かすこともできるだろうか。

 経済が理由であれば、放っておけば良い。さまざまな悲喜交々(ひきこもごも)が引き起こされ、しばらく世は騒然となるかもしれないが、ただそれだけだ。社会の仕組みは相当に柔軟で弾力性がある。特に、金融に関するところは。それで()()()()()()()()()()()()()

 では、発想を変えて、もし世の中を変えようとしたら何が必要だ?今まではどうだった?そう、例えば抜本的に体制が変わった海峡の向こうの革命では、何が起こったのか。植民している先で我が国が行っていることは何か。

 可能性として、避けていた思考に思い至った途端、脳裏に忘れようにも忘れられない光景が浮かぶ。ほの暗い鉄の群れの中に輝く光輝(こうき)、どよめきと、浮かぶ笑み。視界が赤くなり、動悸が音として聞こえ、息が詰まる——。

「で、どうする?」

 やや怪訝(けげん)そうなティムの声で、現実に引き戻された。目をしばたたせて頭を左右に軽くふる。

 乗りかかった舟という。()められて泥舟に追いやられた不快さがあるが、それを上回るふつふつとした怒りが湧き上がる。無遠慮に踏み込んできた者には、それ相応の報いがあって然るべきだ。

「……調査はもういい。やってほしい作業がある」


 その店は中央市街の西南の外れにあった。住まいからは直線距離でも5kmはある。馬車から降り、番地と標識を頼りに大通りから何本か入った石畳の道を進む。荷の出し入れのための大きな両開きの扉の隣に、普段使い用の扉があり、その上に『バーリー賢石(リッチ・ストーン)卸売店』という看板が掛けられている。

 ドアノブを回し、扉の上部につけられた鈴を鳴らしつつ店内に入る。整備されているとは言っても、地価の高い中央地区のこと、家屋は敷地一杯まで使って建てられており、隣家との境からは明かりがとれない。昼間というのに、エーテル灯が煌々(こうこう)(とも)っていた。

「いらっしゃい」

 奥からそろそろ老年に達しようかという眼鏡をかけた小柄な男が出てきた。力仕事や汚れ仕事は下男にさせるのか、賢石(リッチ・ストーン)を取り扱っているにしてはこぎれいな格好だ。こちらをみて、瞳孔(どうこう)を少し右上に向けた後、視線を戻して言葉を継ぐ。

「カーターさん、お久しぶりで。この店で会うのは初めてですな。確か、研究所は昨年末にお辞めになられたとか」

「バーリーさん、久しぶりです。ええ、まぁ今はちょっと気楽に過ごさせてもらってます。取引先でもないので、ウィリアムで結構ですよ」

「お元気そうで何よりです。私の方はお陰様で研究所への納品は続いておりまして、先日も伺いましたよ。昨今は質の良い賢石(リッチ・ストーン)への需要はうなぎ登りで、仕入れ値もなかなか落ち着きません。そんな中、先月に鉱山で崩落があって、弱りましたよ」

 バーリーは手振りで商談用スペースに案内してくれた後、ちょっとお待ちを、と言い置き裏に回る。

 バーリーを待つ間、店内を観察する。賢石(リッチ・ストーン)の価格表が大きくカウンターの上に掲げられ、壁際には等級ごとの賢石(リッチ・ストーン)の見本が置かれている。加工用品も手広く扱っているようで、大小様々な(のみ)(たがね)(きり)(のこぎり)などが並べられている。窓側にはボードが()るされ、紙片が画鋲(がびょう)でいくつも留められていた。どれも『求人』という見出しだ。小売りや卸売り店では、往々にして関連する職業の紹介・斡旋(あっせん)も手がけている。予想通り、バーリーの店も同様のようだ。

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