第4話ですわ!
義姉たちは、シンデレラのことが大好きだ。
そりゃそうだろう。初対面で顎クイをかますほどなのだから。
できるものであれば、自分たちの母親からこの子を守ってあげたい。
ただ、シンデレラを身を挺して守ることは2人にできなかった。
理由は二つだけ。
大好きだから。そして、恐ろしいから。
新しい父親と再婚するまでの約10年間、父親もわからないような自分たちを女で1つで育ててくれたのは他でもない母であった。
古い記憶の中にも、母に愛された記憶が数え切れないほどある。
今でも実際、2人は母親に一般家庭と同様の多少の諍いはあれど、暴力は受けたことがなかった。
2人にとって、母親は優しい人間であった。
あれさえなければ、最高の母親だったことだろう。
シンデレラの父親が死んだ後の、シンデレラへの暴力。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
始まりは、父親が死んで1週間後。
肉親が両方世を去った悲しみからいまだに立ち直れず、部屋に引きこもっていたシンデレラに、母親は冷たく言い放った。
「いつまで泣いているの!いいかげん泣き止みなさい。」
今まで、母親のそんな冷ややかな声と視線をを聞いたことのなかったシンデレラは一瞬涙を止めるが、しばらくするとまたじんわりと目に涙を浮かべ始めた。
それにイラついたのだろうか。母親はシンデレラの頬を思いっきり叩いた。
静まり返ったシンデレラの部屋に、高らかに破裂音が響く。彼女の陶器のような左頬は、真っ赤に腫れ上がった。
母親は、その場から何事もなかったかのように去っていき、母親の声を聞いてやってきたエルキナとシュリーの2人は、部屋で蹲っているシンデレラを見つけた。
何が起こったのかと、困惑しつつもシンデレラに尋ねると、彼女は父親が亡くなる以前のような笑顔でこう言った。
「お義母様が私の目を覚ましてくださったのですわ!」
全くもって自分たちの母親に対して憎悪を持っていないまま、ただ純粋とシンデレラは何が起きたかを説明していく。
説明が終わる頃には2人の顔が真っ青になっていたことは言うまでもない。
すぐさま2人は母親の元に行き、なぜそんな事をしたのかと問う。
すると、母親は思っていたよりあっさりと自分の非を認め2人に謝った。
そうして、その日のディナータイム――
「……」
エルキナが厳しい表情で母親を睨みつける。
「お母様。…どうしてシンデレラがいないのでしょうか?」
用意された食事を口に入れるのを止め、そっけない顔をして母親は言った。
「そうね。強いて言うなら…私は貴方達が何をしようと怒ることはない。正確にいえば、その怒りは全て違う方向に行くってことよ。」
そして、また何事もなかったかのように、ナイフとフォークを動かし始めた。
まだ10歳のエルキナには2回りも年上の母親を屈服させることはできなかった訳だ。
それから釘を刺された。
‘また同じような事をすれば、シンデレラがまた酷い目に遭う’と。
結局、暗い空気のままディナータイムは終了した。
シンデレラがいじめられ始めた頃こそ、2人も必死で母親を止めようとしたが、結局その報いが帰ってくるのは自分たちが守るべきはずのシンデレラであったのだ。
苦渋の決断を強いられた。
2人は表面上は母親と共にイビリに参加している、シンデレラをいじめる姉たちとなった。
けれども、母のストレスがイビリによって発散された後。母が退出すると、2人は母の様子を伺いながらバレないようにシンデレラの心のケアをするようになった。
シンデレラ本人の気づいていない母親への異常なまでの信頼、その裏側に潜んでいるシンデレラの母親に対する恐怖まで。
彼女が壊れてしまわないよう細心の注意を払ってシンデレラを守るようになったのだ。




