第1話ですわ!
⍉↯⟆ற・エルヒルデはいつものように優しい継母達と4人で仲良く団欒しながら夕食をとっていた。
「あら、⍉↯⟆ற。口にソースがついていますよ?ほら。」
そう言いながら轟くように鮮やかな金髪をもつ⍉↯⟆றとは真逆の漆黒の髪色をした義母ハンナが、彼女の右頬についたソースをハンカチで優しく拭き取った。
「もう、⍉↯⟆றったら…もう直ぐ11歳になるんだから、レディーらしく、ね?」
母親と同じ艶やかな黒髪を持つ二人の義姉もまた笑っている。
呆れつつも穏やかに微笑む継母達の瞳には確かに愛情がこもっていると、彼女は思っていたらしい。
ふいに1番上の姉・エルキナが心配そうに呟いた。
「お義父様、今日のうちに帰ってこられるのかしら…」
その日、レーデリア王国では珍しく酷い雨が降っていた。
朝から夕食の時間までずっと雨が続き、時々雷の音もしていたので、⍉↯⟆றも父親が無事に帰ってこれるか気が気ではなかった。
エルヒルデ家は、このレーデリア王国で古くから貿易商として財をなし、王国でも随一の資産を持つ家である。
貴族と比べてもその財産は莫大であり、噂では国家予算2年分を蓄えているとか、いないとか。
そのため、⍉↯⟆றの父親は1年のうち、自国にいることの方が少ないほどあちこちを飛び回っており⍉↯⟆ற達の住む大きな屋敷に帰ってくるのも、1年に1度あればいい方である。
そんな父が1年ぶりに帰ってくるとの知らせを受けて、⍉↯⟆றは胸を躍らせていた。
この日のために新しく買ってもらった純白の生地に色とりどりの造花が飾り付けられたドレスを着て待っていた。
けれども窓から外を覗いても大雨のせいで外もまともに見る事もできない。
もしかしたら今日のうちにお父様が来るのは難しいかもしれない、と思い少々沈んだ気分でいると、玄関の方から何やら騒がしい声が聞こえてきた。
「もしかして、お父様が帰ってきたんじゃない?!」
2番目の姉・シュリーが食卓を立ち玄関のある一階へと階段を降りていく。
それに続いて、⍉↯⟆றも慌てて2階から身を乗り出して、父親を探した。
けれども慌ただしい様子の使用人達の中にはいくら探せども⍉↯⟆றそっくりの金髪は見つからない。
使用人の1人が顔を窓の外の天気よりも真っ暗にして、大声で叫んだ。
「お嬢様っ!奥様っ!旦那様が…旦那様の乗った馬車が、帰ってこられる途中で、崖から落ちた、と…」
よく見ると、玄関前には使用人に囲まれているびしょ濡れになった男性が1人。
父親と共に大陸を飛び回っていた従者は、以前見たときのような快活な笑顔は見る影もない、呆然とした表情をしている。
片手で、赤黒く染まったコートを持っていた。
父親が昨年屋敷から出発する日に羽織っていたベージュ色だったは|ず
《・》のコートであった。
「お父様…!お父様ぁ!」
⍉↯⟆றは自分の新しい服が汚れることにも構わず父親のコートを抱きしめて泣き続けた。




