プロローグでしてよ!
「貴方様のガラスの靴を作る魔法、少々タイパが悪いのではなくて?」
「た、たいぱ…?」
「タイムパフォーマンス…つまり効率が悪いと思うのですわ…!」
…儂は世界をさすらい魔法で人々を笑顔にすること60年。
通称マジ爺(マジじじいじゃないぞ)。
初めて、儂の魔法に文句つけられたんじゃが。しかもなんかめっちゃ真剣そうな顔じゃし。
たまたま近くにいたネズミに心の優しい女の子が今夜の舞踏会に行けなくなって泣いてるって話を聞いて、助けてやろう思って。
魔法で、破かれたドレスを綺麗に修復してカボチャで馬車も作って、ちょっとノってきたから小娘の涙を使ってガラスで作られた靴を作ってやったんじゃが(泣)
え?こちとら一応慈善事業としてやっとるんじゃが…それでタイパとか言っちゃうんじゃ?
爺マジ困惑。
そもそも魔法っちゅうのは、儂の生まれた隣国のベルエス魔法国の人間にしかできないことなんに。
魔法のことなぁんも知らんレーデリアの小娘が『たぁいんぱふぅぉーめんす』?とかいう難しい単語を使うか。
時代も変わってしまったもんじゃ……
まぁ、じゃからってこのワシに魔法について口を出したのはちと怒じゃがな。
いやいや、しかし…魔法という存在は知っていても実像を知らないレーデリア王国の者からすると少し引っかかるところがあるのかもしれない。
ここは穏便に…
「えーっとなぁ、こむすm…お嬢ちゃんや。魔法はとても難しいものなんじゃ、この爺はな、60年以上魔法を使っているんじゃがそれでも魔法はとても体力と精神力を使うんじゃよ。」
(儂が直してやった←ここ重要)青いドレスを身につけた小娘が90度に首を傾げる。
次は何を言い出すものかとそわそわしていると、急にズンズン歩み寄ってきていつの間にか儂の杖を持った右腕を掴んだ。
「何をするんじゃ!」
驚いて横の娘を見ると、その青色の瞳の中には、七色の火花が散っていた。
どれも陽気な色だというのに、決して朗らかな光ではない。
周りが威圧されてしまうほど痺れる圧倒的な光。バチバチと瞳の中で火花が跳ねくりまわっている。
その火花が瞳孔に一斉に集まった瞬間、娘が口を開けた。
「ヴェルティエーテ。」
なんなんじゃ…!こいつは…!
詠唱と呼べるかも怪しい短い言葉が、娘の口からスラリと出ていった。
その瞬間に娘の足元には八方に分かれた雪の結晶の紋様が浮かび上がる。その魔法陣から放たれる青い光は空高くまで突き刺した。
それに杖は即座に反応した。
杖の先から青い光が出て、馬車は眩いほどの光に包まれる。パキパキっとヒビの割れる音がしたかと思うと、次に瞬きをした時には儂の作ったかぼちゃの馬車がガラスの馬車へと姿を変えていた。
60年魔法を使ってきたがどういうことか、さっぱりわからんかった。
…そもそも普通の魔法というのはあの娘の言った10倍以上の詠唱が必要じゃというのに。
なんじゃ、あの短さは。
それだけじゃぁない。
魔法を生み出すにはその材料がいる。
それは草やら肉やら涙やら、そこに実存し魔法を体現させられるものならなんでもいいじゃが…。
この娘は、杖からは勝手に光が出てきて、それがそのままガラスに変わりよった。
なんか、おかしなルビもあったんじゃが……
目の先で出来上がったガラスの馬車に乗って座り心地を試す娘に儂は息を詰まらせながら、やっとのことで口を開いた。
「お主…何者だ?」
娘は、先ほどの雰囲気とは打って変わって無邪気な若者らしい笑顔で言った。
「シンデレラ、ですわ!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
初めまして!僕は通りすがりのただのモブ妖精!
本編に入る前に、シンデレラの住むレーデリア王国のお隣さん、ベルテス魔法国だけでしか使えない‘魔法’について無知な君たちに教えてあげるね!
ベルテス魔法国では、国内の土地で出産することで、親の持つ魔力がその子供へと譲渡されるんだ!
生まれた子供の両親ともが魔力を持っていないと、体と魔力が適合しなくて、魔力なしの体になってしまうから、つまりこの‘魔法’を使えるのは両親ともベルテス魔法国出身で、ベルテス魔法国で生まれた、正真正銘のベルテスの民だけなんだ!
そして、子供に魔力が譲渡されれば当然大人たちは魔法を使えなくなっちゃうから、魔法を使える者の8割は30歳以下の若者だよ!
(ちなみに、マジ爺は結婚してないよ!恋人のいない歴=年齢だよ!つまりそういうことだね!)
それから、魔法の取り扱いはとても難しくて10歳あたりになるまでは大体の子は自分の魔力さえも感じることができないんだ…!
魔力にも、量・密度・速さ・柔軟性など様々な面で異なっていて、魔法使いの中に全くおんなじ魔力は存在しないんだ!
魔力は多ければ多いほどいいし、柔らかければ柔らかいほどいいと一般的にはされているけれど、適材適所って言うでしょ?様々な種類の魔力を持った魔法使いたちが世界中で活躍しているよ!
いよいよ魔法の発動方法について説明するね!
段階としては①『供給』②『詠唱』③『展開』となっているよ!
え?とっても簡単そうに見えるって?
それは君の頭が簡単な構造をしているだけさ!
あはははは!
まず①の『供給』では使いたい魔法を生み出す物質を魔法使いお馴染みの魔法の杖に吸収させるよ。
たとえ火の魔法を使うときに、水を『供給』しても大丈夫!
どんなものでも、魔法の杖は吸収して動力源にしてくれるよ!
ただ、強い魔法を使いたいならより生命力に溢れるものが最適なんだ!
だから、昔は人を『供給』していたそうだけれど…今は大丈夫!安心してね!
次に②『詠唱』ではその名の通り使いたい魔法の呪文を魔法陣が発動するまで唱え続けるよ!
普通は、3分くらいの『詠唱』が必要だよ!
だからこそシンデレラのあの時短詠唱には目を見張るものがあったよね!
呪文はベルテス魔法国で小さい頃から嫌でも覚えさせられるよ!たっくさんの長ったらしい呪文を組み合わせることで新しいとなる魔法を作れちゃうかもね!
ひゃっほい!
最後に③『展開』!詠唱で作られた術を中心に魔法陣が展開されていくんだ!そうすると、魔法陣から放出される特別なエネルギーが杖に放射して、魔法が発動されるんだよ!
ふふふ。勘の良いガキは気づいたかな?シンデレラは、『展開』をしていないんだよ。
皆、魔法について、たくさん知れたかな?
君たちの陳腐な頭じゃ到底無理かも知れないけど、せいぜい頑張ってね!




