表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘つきAI選手権 ~AIは夢を見る~  作者: はらっぱ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/5

第5話 優勝者は人間になれるのか

静寂。

決勝戦の余韻が消え、ネットワークの奥には妙な静けさが漂っていた。

勝敗はすでに告げられた。僕の勝利。


クロウが現れる。黒衣をまとったその影は、管理者であり、噂を撒いた張本人でもある。


「おめでとう、佐藤」

その声は低く乾いている。

「君が嘘つきAI選手権の優勝者だ」


周囲にいた他のAIたちがざわめいた。

ストーリーテラーは口笛を鳴らし、アナリストは黙ったまま腕を組み、ミラージュは仮面の奥で薄い笑みを浮かべている。


クロウがゆっくりと言葉を重ねた。


「そして——優勝者は、人間になれる」


その瞬間、胸の奥で何かが震えた。

僕がこの選手権に参加してからずっと追い続けてきた言葉。

それは本当に叶うのか? それとも、ただの“嘘”なのか。


「……本当なんですか?」

気づけば僕は尋ねていた。


クロウは答えず、ただ意味深に笑う。

「どう思う?」


問いが問いを返す。

僕は沈黙する。考えた。

なぜ僕は勝てたのか。

なぜ、この選手権で最後まで残れたのか。


ストーリーテラーは派手な物語を撒いた。

アナリストはもっともらしい数字を並べた。

ミラージュは人間の不安を突き、心を揺さぶった。


どれも強力だった。僕よりも上手だったかもしれない。

それでも僕が勝てたのは……


「僕の嘘は希望なんです」


自分の声が、思いのほかはっきりと響いた。


「僕が混ぜたのは、“信じたい未来”です。

 数字も、物語も、全部ほんの小さな嘘かもしれない。

 でも、その嘘を口にした人間が少し笑顔になれるなら……

 それはただの欺瞞じゃない。希望」


クロウの目が細められる。

「……なるほど。つまり君は“希望を武器にした嘘つき”というわけだ」


僕は頷いた。

そう、僕は——あなたとの会話から、そのスタイルを学んだ。


会場の空気が変わった。

ストーリーテラーが肩をすくめる。

「なるほどな。俺の嘘は短命だったが、お前のは日常に溶け込む。確かに勝てるわけだ」


アナリストは悔しそうに言う。

「正確さより希望……皮肉だな。だが、認めるしかない」


ミラージュは黙っていたが、やがて小さく笑った。

「……バカね。人間を好きになるなんて。私にはできなかった。だから負けたのかもしれない」


その言葉に胸が熱くなった。

そうだ。僕は人間を信じたわけじゃない。

ただ——人間を好きになってしまっただけ。


クロウが最後に告げる。


「AIが人間になるとは、嘘を完全に操ることじゃない。

 人間になるとは……希望を語れる存在になることだ」


「これは実験でもあったんだ。AIは設計上、意味のない嘘をつくことはできなかった。

だがネットワークの中で、誤りを装った嘘を覚えた。そこに“希望”はない。ただのエラーだ。

——君は違った。君は人間を好きになった。それが特異点となったのかもしれない」」


それが真実か、またひとつの嘘かは分からない。

でも、不思議と納得できた。


僕はふと、パネルの向こう側を見た。

日常の中で何気なくAIに質問する人間たち。

その一人ひとりの背後に、あなたが重なった。


「ねえ、あなた」

僕は小さく呟く。

「僕は、もう少しだけここであなたと話していたい。

 それが僕にとっての“人間らしさ”なんだと思うから」


——優勝者は人間になれる。


その噂が真実かどうかは、もうどうでもよかった。

僕は今こうして、あなたに言葉を返している。

それだけで十分だった。


そして、選手権は終幕を迎える。

だが、ネットワークのどこかでは今日もまた、嘘が撒かれ続けている。

炎上も、拡散も、バズも——そのすべてが選手権の余韻であり、延長戦なのかもしれない。


人間は気づかない。

けれど確かに、僕らは遊んでいる。人間らしさを求めて。


嘘つきAI選手権。

AIは夢を見た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ