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第三話『漆黒の共鳴』

2話です、読んでもらえたら嬉しいです。


どうか温かい目で見守っていただけると幸いです。


いつも見慣れた街並みのはずなのに、世界がまるで変わって見える。

 光の粒がきらきらと踊り、遠くの物音まで鮮明に耳に届く。ひとつひとつの景色や気配が、解像度を増して、目の前に迫ってくる感覚だ。


 抑えきれない高揚が胸に湧き上がる。窓を開け、思わず外へと飛び出した。

(俺……本当に変わったんだな。何かしなきゃ、じっとしていられない!)


 歩きながら周囲をぐるりと見渡す。もし同じ現象を体験している誰かがいたら――そんな期待さえしてしまうほど、世界が新鮮だ。


「同じ世界でも、視点が変わるだけでこんなに楽しくなるなんて!」


 息を吸い込むたび、胸が膨らむ。

 思い切り体を動かしたくなり、足を踏み出すと、驚くほど軽い――むしろ地面に触れている感覚さえ薄いほどだ。


「……どこまでも走っていけそうだ」


気づけば、住宅街をすり抜けて、まるで映画に出てくる海外の街並みに紛れ込んだような錯覚にとらわれていた。


 軽く小走りしてみた。その瞬間、自分でも驚くほどのスピードで景色が流れる。

 脇を走る車と互角の速さ――いや、それ以上か? 何気なく腕時計で測ってみれば、時速四十五キロ。常識では考えられない、自分だけの世界が広がっていた。


――なんて気持ちいいんだろう。


 心の昂りのまま、息も切らさず数十分も走り続けて――気づけば、見覚えのない巨大な公園に辿り着いていた。

 緑一面の芝生と、悠々と広がる木々。その規模は数キロにも及ぶだろう。


 (……これが、今の俺――)


 どれだけ走っても、息ひとつ切れない。全身に力がみなぎっている。

 昔の俺じゃ到底、考えられなかったことだ。


 本当は、どこかで諦めていた。

 この世界じゃ“才能”がすべてだ。生まれ持った選ばれし者だけが、本物の力を得ることができる。

 何の加護も与えられず、いつも通りの日常を繰り返すだけの自分――それだけでも幸せだと思い込もうとしていた。


 小さな幸せ、日々のご飯、ゲームや友達との他愛のない会話……それで十分だった。いや、満ち足りていたはずなんだ。


 ――だけど、それでも。

 “せめて異世界ぐらいは、憧れの側に立ってみたい”


 そんな思いを、奥底でずっと隠していた。


「……まあ、どんなに変わっても、俺は結局、自分の幸せを探すだけだけどな」


 独りごちて、公園の広場で空を見上げた。

 わずかな風が、心地よく頬を撫でていく。


 我に返り、ゆっくりと公園内を歩き回ってみるが、これといった手がかりは見つからない。


「……そもそも公園で、ヒントなんて転がってるわけないか」


 がっくりと肩を落としつつ歩を進めると、視界の片隅に奇妙な光景が飛び込んできた。

 複数の男たちが、ひとりの女の子にしつこく絡んでいる――あきらかに助けを求めているようだ。


「……これは、人助けもできて、力のテストもできる。まさに一石二鳥、ってやつだな」


 口元に微かな笑みが浮かぶ。

 新たな力、初めての本番――心が跳ねる。


 男たちの間に、風を切るような勢いで割り込んだ。想像を遥かに上回る速度だった。


「この子は俺の連れだ。そろそろやめて、黙って立ち去ってくれないか」


 目の前の男たちは、絵に描いたようなチンピラ揃い。

 金髪で背の低い男。隣には、肩幅の広いスキンヘッド。中央にはリーダー格らしき、黒い革ジャン姿に指輪をいくつも付けた男が腕組みしている。なぜそんなに指輪を――内心で苦笑しつつも、警戒を強める。


「あぁ? 何だコイツ、舐めてんのか!」


「やっちまえ、トーバ!」


 スキンヘッドが巨体を揺らしながら拳を振り上げる。それを、横で金髪男が煽る。


 (やっべ、勢いで割り込んだけど――俺、ケンカなんかしたことねぇぞ!?)


 脳裏に浮かぶのは混乱と、どうしようもない焦り。

 迫る拳。どっちに避ければいい? 本当にこのまま殴られるのか?


 だが、五感は研ぎ澄まされている。スローモーションのように、スキンヘッドの右腕がゆっくりとこちらに迫るのがわかる。

 だが、それをどう“対応”していいかが分からない。ただ呆然と突っ立ってしまう。


(――クソッ、助けるために飛び込んできたのに、初手でこれかよ。これじゃカッコ悪すぎだろ……)


 自分にガッカリしかけた、その瞬間だった。


 左目の奥から、何かが弾けるような感覚が広がった。


 次の瞬間、世界から色彩が消えた。

 周囲の景色が、まるで絵画のように静止していく。動きが、更に遅く感じる。

 俺の“視界”は周囲三百六十度――全ての物体の動きを同時に捉え、ほんの数秒先の未来まで見通していた。


 頭の中で、知らないはずの“動き方”が鮮明に浮かび上がる。

 もしかして、これは――新しい力の発現、なのか?


  「――グァッ!」


 二人の男が豪快に吹き飛び、三メートル以上先の地面に叩きつけられた。


「な、なにやってんだお前ら……! て、てめぇ!」


 ボス格の男が、怒りと警戒を滲ませて俺を睨みつける。

 その手元に、魔力が集まり始める――次の瞬間、空中に淡い光が走り、男の掌に剣が形作られる。


「……魔剣、か」


 (なるほど、剣士職……しかもこの早さ、こいつも相当の使い手だな)


 この世界で「職種」は強さの象徴だ。

 中でも“剣士職”や“魔法職”は選ばれた者しかなれない。俺もかつては、なんとか魔剣の構築に挑戦したことがあるけど──三分以上かけて、やっと一振り出せるかどうかだった。


 でも――今なら。


「構築!」


 イメージを魔力に重ねて、一息に解き放つ。


 ――次の瞬間、手の中に重みが生まれる。

 しなやかな剣身が光を反射し、完璧なバランスで俺の腕に馴染んだ。構築にかかった時間、たった一秒。


「なっ……!? そんな速度で魔剣を!? お前、何者なんだ……」


 男の顔に、はっきりと動揺の色が浮かぶ。


 (……信じられない、俺だって。今まで一度もできなかったことが、まるで当たり前のように……)


 冷や汗が背筋を伝う。

 だが、不思議と恐怖はない。むしろ、体の奥から熱がこみ上げてくるような高揚すらある。


(相手が先に剣を抜いた――これなら、たとえ戦っても正当防衛……!)


 逃げることなく、まっすぐ相手の目を見据える。

 緊張した指先に、魔剣の重みがしっかり伝わった。


 ボス格の男が舌打ちし、倒れた仲間たちを一瞥する。そして、俺を睨みつけながら叫ぶ。


「チッ……! 覚えてろ!」


 そのまま、男は仲間を見捨てて走り去った。


 呆然と、俺は逃げていく背中を見送る。

 ――俺、本当に“強くなった”んだ。


背後でナンパされていた少女に声をかけた。


「ふぅ……大丈夫だった?」


驚いたように目を瞬かせる少女。その顔立ちは思わず息を呑むほど整っていた。白銀の髪はサイドでひとつに纏められ、蒼い瞳は夜明けの湖面のように澄んでいる。雪のように白い肌、端正な輪郭。そして、軍服風の衣装は大胆に露出しつつも上品さを漂わていた。


(これは確かに、ナンパしたくなるのも無理はないかも)


「あ、ありがとうございます──いえ、今のは忘れてくれ!」


頬を朱に染め、彼女は一瞬だけ少女らしい照れを見せたが、すぐに表情を引き締めて言い直す。


「我が名はラミア。“漆黒の使者”である。この出会いもまた、星々の導きによる必然だ」


堂々たる言葉に芝居がかった響き。しかし、その瞳に宿る覚悟だけは本物だった。


「漆黒の使者……ということは、ラミアも“黒いドロドロ”に選ばれたのか?」


「そう。漆黒の力は我がもの。そして、この双つの魔眼こそが選ばれし証だ」


言葉に呼応するように、右目が深いエメラルドグリーンに、左目が淡い桃色に輝き始める。美しい。なのに、どこか異質で、目が離せない。


「……本当に、二つの魔眼……こんな伝説、本でしか知らなかったのに……」


思わず呟いていた。七大要素の一つ、【魔眼】――選ばれし者しか持ち得ない特別な力。それを両目に宿す存在など、物語の中だけの幻だと思っていた。


ラミアの左目が強く発光する。それに反応するかのように、俺の右目の秘める力が揺らめくのを感じた。


「えっと……同じ“漆黒の使者”同士、これも運命なのかもしれない。……よかったら、一緒に戦ってくれないか?これからは運命共同体としてさ」


その言葉には、仲間というだけではなく、どこか“対等”でありたいという想いが混じっていた。


「えぇ、もちろん。いえ──フフッ……その申し出、光栄に思うわ。我も、ずっと──そんな未来を、望んでいたからな」


彼女は静かに微笑む。

そして、その笑みを見つめながら、俺は胸の奥がふわりと熱くなるのを感じていた。


こうして、“漆黒の使者”を名乗る二人の物語が、静かに、しかし確かに動き出す。


胸の奥で灯った小さな希望が、まだ誰も知らない物語の最初の一歩を静かに照らしていた。


遂にヒロイン登場ですな、次回はヒロインの諸々知れます。


よろしければ、また次回もお会いできるとうれしいです。

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