討伐対象
魔物の攻撃を避けながら、魔物を観察する。
巨大な体躯、枝分かれした二本の角、三対六歩の足、その足に備わっている、鋭い蹄。
「ザィナーオサ……うーん、キヒカ、左からいこう」
「ホー」
ザィナーオサは魔法攻撃が有効なのもあって、学生時代から何度か倒したことがある。
とりあえず、まずは二本の角を折りたいのでキヒカと狙いを合わせて攻撃していく。
杖を回して握り直して、上を見上げて左の角に狙いを合わせる。キヒカが身体を大きくしてザィナーオサへ襲い掛かっているので、魔法の発動を邪魔されることはないだろう。
「標準 固定 攻撃 追尾 強化 分割 二段 発射」
パキン、と音を立てて魔法が二つに割れ、飛んでいく。
左右に振って放ったので、別の軌道を描いて飛んでいった魔法弾は、残念ながらどちらも撃ち落とされてしまった。
まぁ、攻撃の本命は私じゃないので構わない。
「ホー!」
二つの魔法弾を打ち落としたザィナーオサの真上から、キヒカが急降下してきて角に襲い掛かかった。
キヒカは魔法も使えるので、攻撃は有効なのだ。鉤爪に魔法を込めて急降下と同時に攻撃してくるキヒカの戦闘方法には、テルセロもちょっと青ざめたくらいの攻撃力がある。
悲鳴を上げて頭を振ったザィナーオサから離れて、キヒカが再び上に移動していく。
「ホー」
「防御 強化 追尾 一段 展開」
一応防御も張ってから、先ほどと同じ攻撃魔法を展開する。
今度は、一発撃った後時間を空けて二発目を打ち込む。
一発目と二発目の間にキヒカの攻撃が入ったことで、防御が間に合わなかったのか二発目が命中。ザィナーオサは再び悲鳴を上げて後退りした。
キヒカと私を同時に攻撃しようとしているようだが、キヒカは空で私は地上にいる。
ついでに基本形で相手を挟むように移動するので、同時に狙うのは困難だろう。
どちらかに意識を向けていると逆側に隙が出来るので、隙のある方が攻撃をする。学生時代からやり慣れたいつもの攻撃パターンだ。
「ホー!」
「うん、お願い」
身体を大きくしたキヒカが、ザィナーオサに飛びかかっていく。
そちらに意識を向けている間に、私は移動用に少しだけ作っていた魔法を撤去して、地面に降りた。
そして杖を地面に突き刺して魔法を練り上げていく。完成まで動けないけれど、そこはキヒカとあらかじめ展開しておいた防御魔法がどうにかしてくれるだろう。
「呪文 変化 地 分割 九段 乗算 九段 発動」
バキバキと音を立てて、地面が割れていく。
ザィナーオサの立っている地面も割れていき、そこから逃げようと足を動かしたところをキヒカに攻撃されて動きを止められている。
足止めされている間に地面は割れて、そこからはもがけばもがくほど割れた地面に埋まっていく状態になっていった。
「キァェァアアア!!」
「防音」
抜け出せないと気付いたのか大きく叫んだザィナーオサの声を遮断して、再び飛びかかったキヒカを目で追いつつ地面から杖を引き抜く。
そしてもう一度浮いて、割れた地面の上を飛ぶ。
「ホー!」
「対象 選択 攻撃 強化 発動」
キヒカへ杖を向けて、爪の先に宿った魔法をこちらから大きくする。
足を取られ逃げきれなかったザィナーオサの角に鉤爪が当たり、角がバキバキと音を立てて折れ、地面に落ちて行った。
その瞬間防音を貫通するくらいの叫び声をあげたザィナーオサの傍から、キヒカがこちらに飛んできた。
「ホホ―」
「あ、角。流石キヒカ」
「ホー」
落とした角をしっかり回収してくれたらしいキヒカの頭を撫でて、少し距離を取る。
そろそろ黙るだろうけれど、叫んでいる間は危険なので小休憩だ。
ちらりと確認した感じ、騎士団の人たちは大丈夫そうだし、なんなら弓で意識を逸らせる用意までしてくれている。用意は出来ているけれど、キヒカが飛びまわっているから撃たないでいるのだろう。
「角、騎士団の人に渡してくれる?」
「ホー」
私はこの後も動き回るし、ザィナーオサの角は利用価値も高いので騎士団で回収したいだろう。
キヒカが角を運んでくれている間に叫び声は段々小さくなっていく。そろそろ休憩も終わり、攻撃を再開する頃だろうか。
「右の角も折っちゃおう」
「ホホ―!」
キヒカもやる気十分だ。角が折れればザィナーオサの討伐は半分以上終わった状態と言っていい。
左右の角を折ると、首の後ろにある魔力の流れを攻撃できるようになるのだ。角に流れていた魔力が行き場を失って首の後ろに溜まるので、それまで有効でなかった攻撃が通るようになる。
そこまで行けば騎士団の人たちも攻撃が出来るだろうか、なんて考えながらふわふわ浮いて飛んでくる攻撃を避けていたら、後ろから人が駆け寄ってきた。
何かあったんだろうか、なんて呑気に考えていたのだけれど、その魔力に覚えがあったのでフラフラするのをやめて後ろに下がり、防御壁の中へとその人を誘導する。
……背が高いせいで頭がギリギリだ。私に合わせて展開したから。
「テルセロ」
「当然のような顔して居るなぁお前は……」
「救援要請かと思って」
「まぁ、もし来れるんならと思って送りはしたけどよ」
駆け込んできたテルセロが、呆れたように言う。
もしや呼ばれたわけではなかっただろうかと思ったけれど、呼ばれたという判断で間違ってはいなかったようだ。
良かった良かった、なんて思いつつ、テルセロにも討伐を手伝ってもらうことにした。学生時代に一緒に戦闘に出たこともあったし、テルセロは魔法も使えるので適性もばっちりである。