かまど完成
キッチンの修復二日目は、昨日に引き続きかまどの掃除から始まった。
昨日でほとんど終わっていた使えるレンガと割れたレンガの寄り分けは早々に終わって、今日はいよいよレンガを組んでいくことになる。
野営の時とは違ってしっかり固めるので、まずはそれ用の粘土のようなものを練っていく。
乾けば水にも火にも強くなるこれは、粉を水で練れば簡単に作れる。それ用に調合された物が売られているから素人でも安心だ。
これも含めて、必要な物を全て教えてくれた大工さんには感謝である。
塗るための道具も一応買ってきたので、せっせと練り上げたそれをまずは一番下の部分に出来た隙間に塗り込んだ。
その後はレンガのかけた部分に接着剤として粘土のようなそれを塗り、その上にレンガを乗せてはみ出た粘土を回収して綺麗に均す。
どのくらいの量を乗せればいいのかとか、細かい所が分からないので中々手間取りながら少しずつレンガを積んでいき、とりあえず乗せたレンガがズレないように乾くのを待つことにした。
しっかり乾ききるのに、一日くらいかかるだろうか。
かまどが復活するのは何日後になるのやら、と考えながら、ふと思いついたことがあったので寝室に戻って魔法陣用の紙とインクを引っ張り出した。
相変わらず作業するのは床だが、まぁそれはいい。床で魔法陣を書くのにも慣れて来たところだし。
なんて、一人で内心呟きながら広げた紙にこれから書いていく魔法陣について考えを巡らせた。
書きたいのは、送風の魔法陣だ。かまどのあたりに風を送りこめれば、乾くのも早くなるんじゃないかと思ったのだ。
「うーん……簡単な送風でいいかな」
「ホー、ホー」
「そうだね、適当な箱にでも張って使おうかなって思ってるよ」
「ホー」
「そっか、その方がいいね」
風の向きを指定して作れば、他にも何かと使い道はありそうだ。キヒカに言われて気が付いたので、魔法陣の上の方に方向を指定する紋様を入れて下から上に風が吹くようにしておく。
箱か何かに張り付けて、魔法陣の上の方がかまどに向くように設置すればいいだろう。
下から吹いて行くから、下の方に熱源を置けば温風を出すことも出来そうだ。
「出来た。どうかな」
「ホー」
「ありがとう」
キヒカからも褒められて私は大満足だ。満足した心のまま魔法陣を乾くまで放置して、その間に魔法陣を張り付ける箱を用意することにした。
そこそこ丈夫な箱なら何でもいいと思うので、荷物を漁って良い物がないか探してみる。
あんまり重くない方が動かしやすくて良いだろうと思うのだけれど、軽すぎるとズレそうだから少しの重さは欲しい。
「うーん……キヒカ、何が良いかな?」
「ホーホー」
「なるほど」
外に投げた古い家具、あれをばらして好みの大きさの箱を作ればいいと。流石キヒカは発想が柔軟だ。
あれはそのうちばらして薪にするくらいしか使い道も無かったし、いつかは片付けないといけない物だから使える物があるなら使った方がいいだろう。
早速外に投げた家具を確認に行き、我ながら雑に積んだなぁとちょっと呆れる。
おんなじ位置に投げただけの元家具たちは、ごちゃごちゃとした山になっていた。
この中から使える物を探すのも中々骨が折れそうだが、真っすぐな板を六枚くらい確保出来ればいいと考えればそこまで難しくもなさそうだ。
「ホー」
「流石キヒカ、早い」
なんて考えている間にキヒカが早速一枚目を見つけてくれたので、魔法で浮かせて回収する。
クローゼットの板とか椅子の座面とか、使えそうな大きさの板を六枚確保したら、それらをとりあえず一旦洗っていく。
魔法でさばさば洗って水に汚れが出なくなってきたら、今度は魔法で乾かしておく。
かまどがしっかり乾くまでずっと魔法を使い続けるのは大変だけれど、板六枚を乾かすのはそこまで大変ではないのでさっくりやってしまう。
重さも大きさも違うし、なにより板は軽くて動かせるので、魔法で作った風の中をグルグル回せるのだ。
乾けーと緩く声を出しながら風の中で板を回し、乾いたら次は使わなかった元家具の木片を燃やして煙で板を燻していく。
ついでにこのタイミングで六枚の板を重ねて同じ大きさに切り、綺麗に箱が組めるようにしておいた。
煙の中で板をくるくる回しながら燻していると、煙が嫌だったのかキヒカは屋根の上に行ってしまった。やたらと止まり慣れている様子だけれど、もしかして私が寝ていたりして見ていない時の定位置だったりするんだろうか。
しばらくそうして板を燻して、良い感じになったら火を消して板を組んでいく。
釘とトンカチは手持ちにあるので寝室に板を持って行って箱型にしていき、完成した箱に乾いていた魔法陣を張り付ける。
それ用に作ったこともあって、大きさはピッタリだ。もし軽くて動いてしまうようなら、箱の中に物でも入れて重くしよう。
そんなわけで完成した送風魔法陣をキッチンに置きに行き、その日は就寝した。
翌日からもちまちまかまどを組んで、数日後にようやくかまどが完成した。
感動から意味も無く火を焚いてその様子を眺め、これで料理も出来るようになったぞと満足の息を吐きながらテーブルセットも設置して、ついに使える部屋が二部屋に増えたのだった。