天気によりけり
ざあざあと雨が降る音が響く家の中。
今日は、昨日の夕方から降り始めた雨が強さを増して振り続けていた。
この天気では杭を立てようとえっちらおっちら頑張ることも出来ないので、一日大人しく引きこもるか、とリビングでのんびり過ごしている。
木槌を手に入れてから数日が経ち、晴れた日は一日二本、どうにかこうにか杭を立てて回っている。
それでもまだ四分の一終わったかどうか、と言った感じなので終わる前に冬が来そうな予感がする。どうにか出来るように頑張りはするけれども。
今日は早速、その「どうにかする」の一つで、試したい事があるのだ。
取り出したのは魔法陣のインク。いつも使っているやつ。
そして今回書くのは、加速の魔法陣である。木槌に魔法陣を張り付けて、加速させたらちょっとは打ち込むのが楽になるんじゃなかろうか、という思い付きだ。
もしもこれが上手くいったら木槌に直接魔法陣を彫り込むつもりでいる。木だから彫れるのだ。
「さて、加速……とりあえず簡単なのから順番に作ってみよう」
「ホー」
どうせ他にすることも無いので、幾つか魔法陣を作ってみて晴れたらそれぞれ試してみることにした。
使わなかった魔法陣も、そのうち何かに使えるかもしれないし。使えなくても別に構わないけれど。
目的に合わせて魔法陣を弄っている時間は好きなので、これは半分趣味なのだ。もう半分は少しでも楽をして効率を上げたいという切なる願いである。
「ホー」
「そうだね、ロープも準備しないといけないし……花、多めに取ってきておこうかなぁ」
「ホホ―」
魔法陣を書きながらキヒカとのんびり話をして、枯れてしまう前にもう少しビョシの花を採集しておくことにした。ロープを染め始めてから足りないことに気付いたら、多分とても大変なので。
他の事にも使えるしあって困る物でもない。それに、置き場所にも困っていない。
それなら多めに取って来ておくのが正解だろう。せっかく背負える籠も買ったし、あれを背負って採取に行こう。
「後はー……そうだ、手紙を送る方法、考えてみようかな」
「ホー」
シンディに手紙を送るのに、何か道具を作ってみようか、とは前から考えていたのだ。
暇な時に何となくどんなものにしたいか、どういう機能が必要かを考えておいてみよう。
……とりあえず、防水はいるだろう。雨の中飛ばしてびちゃびちゃになったら元も子もないし。
なんて考えながら、書き上がった加速の魔法陣を邪魔にならない場所に動かす。
お守りを作ったりいつものように魔法陣を家具や道具に仕込んだりで、乾かす場所を確保したい気分にもなってくる。
今は量もそこまで多くは無いので適当に広げているけれど、これがもし今後もっと増えるようなら乾かす専用の場所を確保した方がいいかもしれない。
「乾燥棚……作ろうと思えば作れるだろうけど……」
「ホー。ホー」
「うん、買うなら王都だし、作った方が早いよね」
「ホー」
そうなるといよいよ家具を手作りすることになる。
出来るだろうか。……道具くらいなら自分で作ることもあるし、慎重にやればどうにかなるだろうか。
失敗してもどうせ私が使うだけなのだし、気楽にやってみるのがいいかもしれない。
「まぁ、作るかも分からないけど」
「ホー」
あくまでも今後作る数が増えたら、の予定だ。今すぐ材料を考えないといけない訳でもない。
必要になるか、何となく気が向いたら考えて作ってみる、くらいでいいだろう。
と、そんなことを言いながら二枚目の魔法陣も書きあげて、邪魔にならない所にずらす。
そんな風に何種類か加速の魔法陣を書き上げて、机の上が手狭になってきたところで手を止めた。
まぁ、これだけあればどれかしら使える物はあるだろう。逆にこれだけ試して全て上手くいかないのなら、魔法陣を仕込むのはやめた方がいい、という事だ。
とりあえず試すには十分な数が出来たので、インクをしまってソファに移動する。
ぐるりと肩を回しながらソファに腰を下ろして、膝の上に来たキヒカを撫でて暖炉の炎をぼんやり眺める。とても落ち着く。
それでこの後、何をしようか。とりあえずやろうと思っていたことはやったので、この後が全くの未定なのだ。
「うーん……読書でもしようかなぁ」
「ホー」
何となく思いついたままに本棚に本を取りに行く。
本棚もまだまだスカスカだ。次に町に行ったら本屋にも寄ろうか。
なんて思いつつソファに戻ってきたら、キヒカは木箱の中に納まって目を閉じていた。上からキヒカ用のブランケットをかけたら、ちょっととろけた。可愛い。
雨音と暖炉の薪が爆ぜる音で眠くなるのはとても分かる。
なので、寝ているキヒカの邪魔をしないように私も静かに本を読むことにした。
たまにはこうしてのんびり過ごすのも悪くはない。その日の天気で行動を決められるのは、スローライフならではなんじゃなかろうか。
少なくともここに来るまでは出来なかったことなので、堪能させてもらうとしよう。
暖炉の傍でのんびり読書に耽るのは、中々の贅沢だ。