杭を立てる
町に行ってきた翌日。私はしっかり上着を着こんでポケットに懐炉を入れて、ステラさんから貰った手袋をつけて外に出てきていた。
目的はもちろん、家の外に杭を立てるためだ。
てっぺんに2と書かれた杭を持って、逆の手には買ってきた木槌を持って杭を立てる予定地に向かう。
私の杖は作業の邪魔になるので置いて来ようと思ったのだけれど、キヒカが持ってついてきてくれた。
眠くなったら適当な所に立てて止まり木にしてほしい。杖は大事だけれど、キヒカの方が大事なので眠いのを我慢してまで運ばなくてもいいのだ。
そんなことを言いつつ場所を確認して杭を地面に刺し、上から木槌で叩いて地面の中に埋めていく。
「……おお、進みがいい」
「ホー」
トンカチで頑張った一本目とは手応えが違う。これなら頑張ればどうにか出来る、と思えるくらいには違う。
とりあえず怪我だけしないようにせっせと杭を打ち込んで行って、昼休憩を挟む前には魔石が見えなくなる位置まで打ち込むことが出来た。
一日頑張って一本だったのが、一日で二本打ち込めるとなったら効率は二倍だ。
これならどうにか、ちょっと休憩しつつやっていけるのではなかろうか。
そう思ってキヒカに目を向けると、キヒカは一本目の杭の上に器用に杖を立てかけて寝ていた。杖を立てかけた杭の上に自分も乗って寝ているなんて、とても器用だ。
杖を持ってキヒカを抱え、お昼ご飯を食べるために家に戻る。
木槌は玄関に置いて、キヒカはダイニングの椅子に座らせ、手を洗って料理の支度を始めた。
今日は、ちょっと作りたいものがあるのだ。午前中ずっと杭を打ち込んでいたので腕は疲れているけれど、簡単らしいし作ってみることにする。
まずは卵を茹でて、その間に玉ねぎを刻む。
そしてギーミャスとウトザを混ぜてソースを作り、ちょっと塩コショウを入れて味を調整。
良い感じだったのでその中に刻んだ玉ねぎを入れ、黄身までしっかり火の通った茹で卵の殻を向いたら刻んでこれもソースの中に入れた。
そしてそれらを混ぜて、均等に混ざったらパンにバターを塗って表面を軽く焼き、その上に作った卵ソースを乗っけて完成だ。
これ、いつもキヒカに木の実をくれる乾物屋さんのお姉さんが教えてくれたのだけれど、聞いてすごく食べたくなったので忘れないうちに早速作ってみた。
椅子に座って早速一口齧ると、卵の風味が口いっぱいに広がって、ちょっと辛い玉ねぎもいい感じのアクセントになっている。
簡単だしこれは良い物だ。これからちょこちょこ作りそうな予感がする。
夢中で食べている途中でちょっと上の卵が皿に落下したりもしたけれど、美味しく食べきってふぅ、と息を吐いた。
「ホー」
「うん、美味しかった」
「ホー」
いつもより食べるのが早かったからか、キヒカに感想を聞かれた。
なんだかちょっとキヒカが嬉しそうなのは何故なのだろう。首を傾げつつ、食器を洗ってちょっと休憩することにした。
食後すぐには動きたくないのだ。急いでどうにかなるものでもないし、どうせ半日で一本しか杭は立たないのだし。
「さてと……ちょっとお守りの準備でもしようかな」
「ホー」
暖炉に火を入れて部屋の中に温風が回るように送風の魔法陣を発動させ、作業台に向かう。
作業台横のチェストから紙と魔法陣用のインクと筆を取り出して広げ、まずは紙をいい感じの大きさに切っていく。
そして売り物用にと決めた魔法陣を書きあげて、インクが乾くまで余計なものがつかないように置いておく。
本当に簡単なつくりにしているので、準備にそこまで時間はかからない。
一枚ずつ書いているとむしろ面倒なので書く時は纏めて書くようにしているし、大体毎回六個ずつ作る感じで落ち着きそうだ。
インクが乾くのを待つ間に、もう必要ない物を片付けて作業台の上には布を乗せる。
布は細長く切っていて、底面は布が繋がるので縫うのは三辺で良いようにしている。細長い布が六枚出来たらでっかい布のロールを仕舞い、縫い糸を取り出して布と糸を魔法で浮かせた。
この後魔法陣と魔石を入れるので上は開けておいて、左右を縫って閉じる。
そして私が作ったと分かるようにマークを入れて、先に魔石を入れておいた。
あとはインクの乾いた魔法陣を畳んで入れて、上を縫ってしまえば完成だ。
夕方にはインクも乾くかな、なんて思いつつ作業台の上を整理して、そろそろ三本目の杭を立てに行くか……と立ち上がった。
キヒカはリビングで寝てるかなと思ったのだけれど、ついて来るらしいので暖炉の火は消しておく。
杭はリビングの一角に積んであるので、てっぺんに3と彫られた杭を持ってリビングを出た。そして、玄関に放置していた木槌を持って外に出る。
曇り空だけれど、この後崩れる感じはしないので作業に問題は無さそうだ。
「さて……キヒカ、位置の確認手伝って」
「ホー」
キヒカに上から確認してもらって杭の位置を確認して、予定地点に杭を突き刺した。
最初はぶれないように慎重に叩いていって、ある程度進んで安定してきたら力を込めていく。
中々重労働なのだけれど、これも終わる頃には慣れた作業になるのだろうか。




