杭を作る
まだちょっと眠い目をこすりながら朝ごはんを食べて、昨日買ってきた惣菜は美味しかったなぁ、なんてぼんやり思いを馳せる。
これから町に行くたびに買ってきてしまいそうだ。
ちなみに昨日の夜、キヒカにはお肉をあげた。二人で豪華な夕食を食べてお風呂に入ってぐっすり眠って、今である。
「さて……杭の準備をしないとね」
「ホー」
朝ご飯を食べ終えたので、食器を洗いつつ眠気を振り払って杭の準備をすることにした。
そのために、まずは懐炉の準備である。
食器を洗い終わって冷え切った手を擦りつつリビングに向かい、暖炉に火を入れてその中に懐炉の魔石を放り込んだ。
そしたら魔石が熱を蓄えるのを待つ間、出来る準備を進めておこう。
今回、家を守るために杭に刻む魔法陣をキヒカと一緒に考えて、あーでもないこーでもないと議論を重ね……結論として、魔法陣を刻むのをやめた。
魔法陣ではなく、魔法文字を一つドカンと刻んで魔石を打ち込んで、それで守ることにしたのだ。
魔法文字は魔法陣の構成にも使われるもので、普通は魔法陣のようにあれこれ組み合わせて使うのだけれど、単体で使える物もある。
使い勝手はまちまちだけれど魔石とかだと魔法陣より魔法文字の方が刻まれがちだったりもするので、使用に問題はないのだ。
魔法陣で詳しい範囲、効果の指定をすることは諦めて、一文字でとりあえず守れる範囲を守るという方法である。
私が刻んで魔石と一緒に打ち込めば、ある程度強力にはなるはずだ。
道具作りの魔法使いなので他より魔法文字との相性もいいし、これまでもやって来たので。
「いっぱいあるね」
「ホー」
そのための準備として、まずは今回お守り用に買ってきた小さな魔石の中で使えそうなものをより分けていくことにした。
今回はこれ一つだとちょっと魔力が足りないので、複数打ち込んで使うことにしたのだ。
杭ひとつに複数なので使う量は結構多くなる。そして、同じ杭に打ち込む魔石はなるべく似た魔力の物がいい。
なのでまずはより分けないといけないのである。
幸い売っていた物を感謝も込めていっぱい買ったので、足りなくなることは無いだろう。
キヒカも手伝ってくれているのでせっせとより分けて、その中でも相性の良さそうなものを横に配置するように並べていく。
家の周りに杭を立てて回ると決めて、その計画をキヒカと話し合うために紙に幾つの杭が必要なのかを書き出して位置を決めていたので、その上に魔石を乗せていく。
相性を考えて乗せたりずらしたりするこれが手間で、だけど楽しい所だ。
楽しんでやっていると終わるのも早く、予定している杭の数の分、魔石の準備が出来た。
「これはこのままにして……よし、外に行こう」
「ホー」
懐炉の石を暖炉から取り出して、袋に入れて上着を羽織る。左右のポケットにそれぞれ懐炉を入れたら準備は完了だ。買ってきた木材とのこぎりを持って外に出る。
外は寒いけれど、日が出ているから動いていればマシになるだろう。
そう信じて、とりあえず木材を買ってきた状態から半分の長さに切ることにした。ちょっと長いんだよね。
木材を切るくらいならもうすっかり慣れたので、せっせと全てを切っていく。
これも結構な量があるので、中々大変だ。でも動いていたら暖かくなってきたので、そのまま熱を逃がさないように腕を動かし続ける。
どうにか全てを切り終えたら、切ったところを今度は鋭角にしていく。杭なので、これを地面に突き刺さないといけないので。
「魔法でやったらこのままでも刺さるかな?」
「ホー……ホホ―」
穴を掘ってから刺して埋めれば、このままでも行ける。なるほど、それもありだ。
でも魔法で穴を掘るのと、木を削ってから地面に打ち込んでいくのとだと、どっちが楽なのだろう。
結局どっちもどっちか。一個穴掘ってみて決めようかな。
「一個目の予定地……ここだね」
「ホー」
のこぎりを置いて杖を持ち、一つ目の杭の予定地に立つ。
狙いを定めて、しっかり集中して魔力を練り上げて地面へと放った。
「攻撃 鋭利 物体 拘束 浮遊 一段」
ドゴ、とかボコ、みたいな音がして、狙った先の地面が削り取られる。そのまま浮いた土は掘り返した穴の横に置いて、穴を覗き込んだ。
……ちょっと深いけど、これならちょっと埋め直してしまえば使えるのでは。
余分に削れてもいるけれど、それも埋め直せばいい。最終的には埋めるのだし。
「ホー」
「どうしたの?」
「ホー、ホー」
「……確かに、そうだね」
こっちの方が楽そう、と思っていたのだけれど、キヒカに言われてスコップが無い事に気が付いた。手元に在るのは小さなものだけで、両手で持って使うようなものは無い。
となると、この穴を埋めるのは割と手間……だろうか。
「……大人しく、先端削って打ち込もうか」
「ホー」
その方がいい、と言われたので、掘った地面は魔法でならして木材の先を削って杭にする作業を進めることにした。
これも中々手間だ。ナイフでちまちま削っていくので、木くずが凄くて家の中では出来ないし。
動くのをやめると寒いので、外作業用に適当な木材を組んで簡易的な椅子を作り、薪を燃して焚火をしつつ木を削ることにした。木くずは出る端から燃やしていく。
中々大変だけれど、これが終われば室内で作業できるのでとりあえずこれだけでも早めに終わらせてしまいたい。
キヒカはお日様と焚火の暖かさでうとうとしていたので、そのまま寝かせることにした。
何せフクロウなので。夜行性なので。