家の守り
作った懐炉が思ったよりもいい感じだったので、あの後懐炉を三つに増やし、外に出る時は上着の左右のポケットに懐炉を入れていくようになった。
最後の一個はキヒカ用になっていて、余っていた木材で小さな箱を作り、その中に懐炉を置いてブランケットを敷き、キヒカが箱の中にいる時は上からもブランケットをかけてぬくぬくな空間を作っている。
なんだかキヒカが嬉しそうなので私も嬉しい。あれは快適なのもあるけれど、ちょっと楽しくなっている感じの反応だった。可愛い。
とまぁ、そんな感じで懐炉を増やして、私は外での活動の快適さを上げようとしていた。
冬が本格的になる前にどうにか防衛策を整えたいのだ。寒さの中での作業は堪えるだろうし、備えあれば、というやつである。
そんなわけで、これから冬に向けて魔物対策をどうするかについて、お昼ご飯を食べながらキヒカと会議をすることにした。
ダイニングの向かい側の席は、もうすっかりキヒカ用になっている。クッションでも置けば高さが出てキヒカも顔を出しやすくなるだろうか。
なんて考えつつ、ちゃんと防衛についての考えを声に出した。
「杭にマジキュルを組み込んで地面に立てるのが簡単かな……」
「ホー、ホホー」
「そうだね、準備は必要だし、魔法陣はよく考えないと」
規模が規模だけに、ちょっと作ってみようと気軽にやることも出来ない。
一応家の中には結構前に防衛用の魔法陣を仕込んだりもしているのだけれど、杭を打ち込むだけだと仕切られている空間ではないから強い魔法陣は効果を発揮しないだろう。
とはいえ、弱いものを作っても大して意味がない。あまり大きくなると私の専門からは外れてしまうので、色々確認しながらやっていくべきだろうか。
「ホー」
「間を埋める物……ロープでもいいかな?」
「ホー、ホー」
「そうだね、ルヒの蔦でもあればいいんだけど……育てる時間、あると思う?」
「ホー……」
杭だけ立てて、その間を紐でもなんでもいいから繋いで埋めてしまえば、一応空間の仕切りは出来る。
やるのなら魔法にも適性のあるルヒの蔦が良いのだけれど、あれは自然に生えている事はあまりないから育てるか買い込むかしないといけない。
成長が早い植物ではあるけれど、これから冬だし今年中には間に合わないだろう。
「森で何か、魔力のある植物って見なかった?」
「ホー……ホーホゥ」
「ビョシか……集めて、煮出して、紐を染めて……一応、冬でも出来そう」
「ホー」
「とりあえず紐の確保かな」
「ホー」
紐と木材は買ってくるとして、ビョシの花は今のうちに集めておいた方がいいだろうか。
今日は天気もいいし、ちょうどお昼ご飯も食べ終わった所だったので、森に行ってみることにした。
キヒカが案内してくれるので、上着を着こんでポケットにしっかり懐炉を入れたら杖を持って家を出る。
採取に使える籠なんかがあったらいいのだけれど、今家にある籠は編み物の道具を入れている物だけなので使えないのだ。
材料さえあれば編めることには編めるのだけれど、私が作るのならやっぱりルヒの蔦を育てて魔法を編みこんだものにしたいので、籠は町で買ってくる方が良さそうだ。
キヒカの寝床はあの木箱を気に入っているみたいだから、あのままにしておく。
なので籠は一つか二つあればいいだろう。背負うタイプでもいいな。
なんて、考えつつ森に入り、キヒカの案内に従って進んで行く。ほぼ毎夜行っているだけはあって、キヒカは森の中にとても詳しかった。
「ホー」
「そうなんだ、じゃあ春には摘めるね」
「ホー」
今は実っていないけれど、木の実の生る茂みも知っているらしく、春になったらそれを摘んでジャムにでもしようと、そんな話をしながら進む。
そうしてしばらく進んで行くと、木が少し減って日差しがよく入る一角に到着した。
ここが目的地なようなので地面に目を向けると、確かにビョシの花が咲いている。
「結構あるね」
「ホー」
「そうだね、浮かせられる分だけ持って行こう」
籠は無いので、摘んだ花は魔法で浮かせて運んでいく。
花がふわふわと宙に浮いているのは綺麗なのだけれど、手間のわりに効率は良くないので今後も採取するならやっぱり籠は欲しい所だ。
とはいえ、まぁとりあえず必要になるだろう分を浮かせることには成功した。普段から物を浮かせまくっている成果だろうか。
ある程度摘んでもまだ結構咲いているので、今後もお世話になりそうだ。
なんて思いつつ、浮かせた花が木に引っかかって置いて行かれないように注意しつつ家に戻ることにした。
戻ったらこれを何本かまとめて括り、干して少し乾かすことになる。
「そこまでやったら、魔法陣考えよう」
「ホー」
ふわふわと浮いた花を目で追っているキヒカを撫でながら歩いて森を抜け、家に戻って適当な紐で花を括っていく。
束になったらそれを別の紐で一列につなげ、リビングの壁に引っ掛けた。
まだ乾いていないけれどドライフラワーだ。道具作りでは結構花も使うので、これはしょっちゅうやっていた作業である。
一種類だけとはいえ壁に花が掛かると、なんだか工房感が増してくる。
嫌な感じでも無いので、今後も使える花を見つけたらこうして吊るしていってもいいかもしれない。