キッチンのあれこれ
大工さんに色々と教えて貰って修理に必要な物を揃えた後は、別のお店に行ってみることにした。
シンクと浴槽を新しく探したいと言ったらお店を教えてくれたのだ。どこまでも優しい大工さんだった。なんなら、今後何か困ったことがあれば、と大工さんのお店まで教えて貰った。
何かあれば遠慮なく頼ろう、と決めて教えて貰ったお店を探しに行く。
少し歩いて教えて貰った場所にあるお店に入り、まずはシンクから見ることにした。
というか、浴槽の方は曖昧な大きさしか把握していないのに買ってしまっても良いのか、という疑問が少しある。
浴室に収まればとりあえずいいんだろうか。それなら、多分大丈夫だと思うんだけれども。
壁って素人が一人で作れるのかな、なんて考えながらキッチンのシンクを探してウロウロして、良さそうな大きさの物が集まった一角で足を止める。
それなりに深さがあって、広めの物がいいな。今までは料理なんてほとんどしていなかったけれど、スローライフなのだから料理もしっかり作ってみたい。
「何かお探しですか?」
「キッチンのシンクを新調しようと思って」
どれが良いだろうか、なにか選ぶ基準とかあるんだろうか、と考えていたら店員さんに声を掛けられた。
材質とかはよく分からないので、聞かれるまま質問に答えていたらオススメを紹介された。ちょっと値段は高めだけれど、硬くて汚れを落としやすい素材だそうだ。
白くてピカピカだけれど、少し暖かい感じの色をしている。
同じ材質で色が少し青っぽい物やもう少し小さい物もあるようだけれど、最初に見せてもらった物が気に入ってしまったのでそれを買うことにした。
即決で買うと言ったら驚かれたから、普通はもっと考えるんだろうな。
なんとなく、言い訳のように古いシンクが壊れてもう使えないのだと言いつつ、ついでに浴槽の事も相談する。
こっちは大きさを計ってからにしようかと思っていることも言ってみたら、店員さんは何かを考えるように顎に手を当てた。
「素材にこだわりはございますか?当店には、木や陶器、石造りの物に加えて魔物素材を加工したものもございますよ」
「……おすすめはどれですか?」
材質とか、今まで気にしたことが無かったので何も分からない。何も分からないので、店員さんの話を聞いて決めることにした。
色々と話を聞きながら店の中を移動して浴槽を見に行き、置かれている様々な浴槽に目を丸くする。すごいな、いっぱいある。
大きさも形も様々だ。四角い物も、丸い物もある。三角形のものある。見ているだけで一日くらいは潰せそうなくらい色々ある。
これは、自分で決めようと思ったら何をどうしたらいいか分からなくて一向に決まらなくなるやつだ。
キヒカもその気配を感じ取ったのか、肩の上でホーと一声鳴いた。
「このあたりは最新の加工技術で魔物素材を加工した物でして、空なら動かせるほど軽いのでお掃除がしやすいんですよ」
「そんなに軽いんですか」
置かれている物を動かしてみてもいいらしいので、実際に動かしてみる。本当に軽い。流石に私の腕力では持ち上がらなかったけれど動かせはしたし、魔法で浮かせてしまえば重さは感じないんじゃなかろうか。
とはいえ、家の浴室に元々あるものを外して新しく置くとなると、その空間に新しく床を敷くのも難しい気がする。
やっぱりどうなっているのかを確かめてから決めた方がいいんだろうか。
大きさを計って、あの浴槽を外せるかを確かめて、その後に設置する物を決める……流れ、になるんだろうか。分からないけれども。
悩みながら浴槽を見て回って、丸いのが可愛いな、なんて思ったりしつつ今回は買わずにシンクだけを購入した。既に買ってある荷物と纏めて浮かせて運び、店を出て次に向かうのは最初に行った店だ。
テーブルセットはあの店で探そうと決めていた。
荷物を浮かせて、肩にキヒカを止めて歩いていると、人からの視線を感じるけれど、特に気にせず歩いて進む。見られはするけれど、魔法使いだと納得してすぐに外される視線がほとんどなのだ。
それにキヒカを肩に止めて歩いていると見られるのは王都で慣れた。何せ学生の頃からの事だ。流石に慣れるし、気にするのも面倒になる。
今日もキヒカが視線を集めているなぁ、なんてのんびり考えながらベッドを買った家具屋さんに入り、テーブルセットを探して店の中を進む。
そこまで大きくなくていいけれど、丈夫な物がいい。
椅子は一つでもいいかと思ったけれど、もしかしたらキヒカが座るかもしれないし、誰かがそのうち家に来ることもあるかもしれないから二つあった方がいいだろうか。
色々考えながら、テーブルと椅子がセットで置いてある一角で足を止めた。
やっぱり大人数用の物が目立つ。椅子が六脚とか置いてある物が多い。そんなに要らない。というか、そんなに置けない。場所がないのだ、良い感じにこじんまりした家を選んだから。
それにでっかいテーブルを一人で使うのは凄い寂しそうだし。
なんて、独り言のように呟きながらあれこれ見て回った結果、二人用と思われるテーブルセットを店の端っこで見つけた。
端っこに置かれてはいるけれど、放置されていた感じはない。しっかり磨かれて、綺麗に保たれている。
「……綺麗」
「ホー」
テーブルの天板の横の部分と、椅子の背もたれに同じデザインの彫刻がされている。
それが凄く綺麗で、木の色味ととても合っていて、天板に触れてみるとつやつやですべすべで。随分と気に入ってしまったので、それを買って帰ることにした。
店員さんに声を掛けたらハッとした顔をされたんだけれど、もしかしてベッドを即決で買って帰った女として覚えられていたりするんだろうか。