冬が来た
朝、目が覚めると部屋がやたらと寒かった。
昨日の夜もいつも通り寝室に暖房を入れて寝たはずなのに、なぜ今日はこんなにも寒いのか。
なんて考えながらベッドを降りて暖房の傍に寄る。傍に来ると、ちゃんと暖かい。壊れたわけではないようだ。
「……外が寒いのか」
「ホー」
「おはようキヒカ」
「ホー」
キヒカが寝室に入って来たのでとりあえず抱えて撫で、カーテンを開けてみる。
……なるほど、これは寒いわけだ。
外は雪。地面にも、薄っすらと白い膜が出来ていた。
認識したら余計に寒くなってきたので、着替えてご飯を食べることにした。
キヒカはこの天気の中外に出ていたようだけれど、先ほど抱えた時に冷たいとは思わなかったので先に暖炉に火を入れて温まっていたのだろう。
薪もまた作らないと、と考えながら着替えをすませ、寒い寒いと言いつつキッチンに行ってかまどに火を入れる。
「寒い……キヒカ、何か食べる?」
「ホー」
要らないらしい。森で何か食べて来たんだろう。断られてしまったので自分の分だけ朝食を作り、食後のお茶用にお湯も沸かしておいた。
完成した朝食を食べつつ白く染まっていく外を眺め、食べ終わった後はお茶を飲みつつ今日の予定を決める。
もともと何かやることが決まっている日ではなかったので、家の中に籠っていていいだろう。
「編み物でもしてようかな……」
「ホー」
自分用のブランケットを作ろうと思っていたし、ここまで冷え込むのなら早めに作りたいという気持ちも出てきたので。
そんなわけでマグカップを片手にリビングに移動し、消えかけていた暖炉の炎を強くする。
やっぱりキヒカは朝一ここにいたらしい。肩から飛んでいったキヒカを目で追って、止まり木に移動したのを確認してソファに腰を下ろした。
キヒカはあのまま少し寝るだろうか。薪がパチパチと小さく立てている音が心地いいし、寝やすい環境ではあるだろう。
私も油断すると寝てしまいそうだ。ふぁ、と欠伸を零して編み物の道具を纏めて入れてある籠をソファに置き、ブランケットを編み始める。
外は雪でいつもより静かだ。聞こえる音は、暖炉で薪が爆ぜる音と編み物の微かな音だけ。
集中していると時間の感覚が無くなりそうで、時々思い出したように顔を上げてキヒカの様子を見たり、暖炉に薪を追加したりする。
なんとも穏やかな時間だ。編み続けて肩が凝ったので一時中断して身体を動かして、お茶を追加して戻ってくる。キヒカは完全に寝ていた。
「……持ち歩ける暖房が欲しい」
新しく淹れてきたお茶を飲みつつ、思ったことを小さく声に出す。
ポケットに入れておけるくらいの物。指先を温めたり、お腹を温めたり、ちょっと寒さを緩和してくれればいいくらいの物。
作るとして、何が必要だろうか。
「保温……いや、火傷しないように調整かけて……」
脳内で何となくの完成形を思い描きながら必要になりそうな材料について考える。
魔法陣も考えていたら、キヒカが膝の上に乗って来た。
「起こしちゃった?」
「ホー。ホー」
起きたついでに材料について一緒に考えてくれるらしいキヒカを撫でて、作ろうと思っている物を説明していく。
作りはそう難しい物にはならないだろう。というか、難しいものは作ろうとしたら設備を用意するところからになってしまう。
「ホー。ホホ―」
「確かに、そもそも素材の耐熱性……うーん……ルグドラの皮でもあれば早いんだけどね」
「ホー」
「そうだね、聞いてみようか」
もしルグドラが最近討伐されていたら、テルセロが把握しているはずだ。
なんだか忙しそうなのですぐに返事は来ないかもしれないが、まぁ連絡を入れるだけ入れておいて困ることも無いだろう。
向こうも暇な時に余裕があったら確認して返事をする、くらいでいるみたいなので、遠慮はいらない。多分。
他にも使えそうな素材をキヒカと一緒に考えて、メモに書き連ねておく。どれか一つでも見つかれば、作成を始められるだろう。
他にもいるものは……と考えて、思いつかなかったのでとりあえず編み物を再開することにした。
キヒカはこのままソファにいることにしたらしい。
そっとキヒカ用ブランケットをかけてみたらそのまま目を閉じたので、もうひと眠りするんだろうか。
可愛い、と小さく呟いて手元に目線を戻す。編み物を再開して、そのまま静かに集中してしばらく。ふと、お腹が空いたな、と思って顔を上げた。
ついでにぐぅ、とお腹も鳴った。集中しすぎて、お昼を食べていなかったらしい。
キヒカも起きたので、一緒にキッチンに移動する。
簡単に済ませよう、と鍋に水を注いで火にかけて、具材をどんどんいれていく。
煮れば大体食べられる、の思考は薄まりはしたけれど消えてはいないので、今でもたまにやるのだ。調味料が増えたことと料理に慣れて来たことで、前よりも雑に美味しく作れるようになった。
キヒカにはドライフルーツとお水を出して、一緒にお昼ご飯を食べる。
窓の外を見たら、雪は止んでいた。明日には薄っすら積もった分も全て溶けているだろうか。