資材屋で迷子
前に来たお店にやってきて、まずはそもそもシンクやなんやがあるかどうかを見てみることにした。前にベッドを買ったこのお店、そもそも木製の家具を売っている店なのでは?とついさっき思い至ったのだ。
もしそうならここではテーブルセットを探すことにして、また別のところで水回りの物を探さないといけない。
そう思って店の中を見て回って、シンクは見つけることが出来たけれど浴槽と排水パイプはなかったので別の店を探すことにした。ここにはまた後で来ることにする。まずは何より排水がちゃんと出来ないと、キッチンが使えないから。
家具屋さんを出て探すのは、もっと素材を売っていそうな店だ。既に作られている家具を扱っている店ではなく、未加工品を扱っている店の方が排水パイプとかはありそうなので。
ついでにいい感じの浴槽も見つかったらいいな、なんて考えながら歩いて店を探し、それらしき店を見つけて中に入った。
大きな資材屋のようで、そのままの丸太や板に加工されたもの、粘土、ガラス板、レンガ、何に使うのかよく分からない素材、魔法系の見慣れた素材まで、多種多様に置いてある。
物量に圧倒されながらとりあえず店の中を見て回る。
私の他にもお客さんはいるけれど、皆大工さんのようで私みたいなのは他に居なかった。
まぁ、それを気にしても仕方が無いので、とりあえずまずは排水パイプを探す。
何となく素材ごとに置いてあるところが分かれている気がするので、木の所には無いだろうと奥へ進んで棚を眺める。見つからない。というか、物が多すぎて目が滑る。
「……どこにあるんだろ」
「ホー」
キヒカも物量に圧倒されているようだ。城勤めの時も目が回るような仕事の量に圧倒されてはいたけれど、あっちは一応知っている内容の物が大量にあって回る目だったので、なんというか質が違う。個人的にはこっちの方が困ってしまいそうだ。
どうにか排水パイプくらいは買って帰りたいんだけれど、なんて思いつつ棚の間を歩いて行く。
ウロウロウロウロ、棚の間を歩き回って目的の物を探す。
そういえばさっきレンガはあったから、最悪レンガ買って行こう。なんて思っていた所、後ろから声を掛けられた。
振り返ると、一人の大工さんが居る。
「嬢ちゃん、何探してんだ?」
「……排水パイプを探してます」
嫌な感じはしない。キヒカも肩に止まったまま大人しくしている。だから多分大丈夫、と素直に答えると、大工さんは奥の方を指さした。
あっちにあるんだろうか。もしかして私がずっとウロウロおろおろしているのを見ていたんだろうか。それはちょっと恥ずかしいけれど、教えてくれるのはとても嬉しい。
「それならあっちの棚だ。……何に使うんだ?」
「シンクの排水が壊れてて水漏れするんです」
どうやら直接棚の所まで案内してくれるらしい大工さんについて行きつつ、投げられる質問に答えていく。やっぱり私みたいなのが一人でこの店に居ると、何用かと気になるものらしい。
女の人が居ない訳でもないけれど、皆明らかに慣れてる人たちで、慣れて無さそうな人は誰かと一緒に居たからあらゆる意味で目立っていたんだろう。
「職人に頼まねぇで、自分で直すのか」
「はい。人に頼むには少し遠い場所なので」
「ほー……そりゃ難儀だなぁ。一人で住んでんのかい」
「はい。色々直してる所です」
「他の場所も壊れてんのか?」
「多分……?」
まだ確認が終わっていない所も多いので、具体的にどこがどれくらい壊れているのかは分からない。直しながら確認して、必要な物を買いに来ようと思っていたので。
そんな話をしている間に目的の棚に着いたようで、ずらりと並んでいる排水パイプに小さく歓声を上げる。すごい、いっぱいある。
「嬢ちゃん、元の排水管の太さは分かるか?」
「太さ……?」
「測ってねぇか。ま、シンクのってんならこの辺だろうなぁ」
「多分二十年前くらいに作られたっきり……太さ……こんくらい?」
弄くった記憶を頼りに手で丸を作ってみたら、大工さんは神妙に頷いた。まさか伝わったんだろうか。これが職人さんってことなんだろうか。すごい。今私は猛烈に感動している。
「これと、これだな。長めのを買って、持って帰って長さ測って合わせて切りな。んで、これで入れ替えた所と元の所をしっかり閉めれば水漏れはしねぇから」
「おぉ……ありがとうございます」
詳しい大きさ長さが分からなくてもどうにか出来る方法があるらしい。これが職人の知恵か。感動だ。
なんて思いながら差し出された排水パイプと接続の部品を受け取って、その接続部分に噛ませると水漏れの心配がグンと減るのだという弾力のある布のようなものも渡されるがまま抱える。
これでとりあえず、どうにかシンクは使えるようなりそうだ。
「他に何か直すところはあんのか?」
「かまどが一部崩れているので、組み直そうと思ってます」
なんと。この大工さんはこの後も材料とやり方を教えてくれるらしい。
優しい人だ。レンガでかまどを組んだことがあるかと聞かれたので頷きながら、移動する大工さんについていく。
なんでも私と娘さんが同じくらいの歳で、放っておけないらしい。
なるほど、それは確かに気になってしまうかもしれない。なんて他人事のように考えて、抱えている資材を入れる物を取ってきてくれたキヒカの頭を撫でる。
どこかへ行ったと思ったら、カゴを探してきてくれたのか。なんて気の利く可愛いフクロウなんだろうか。