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三度目の嵐

 追加で買ってきた屋根材で屋根を直したり、薪を割ったり編み物をしたり、日々好きに過ごしていたある日の事。

 なんだか外が騒がしいな、と思ったら、横殴りの雨が降っていた。

 これは多分不味いことになる、と急いで窓を塞いで回り、冷えた身体を温めにお風呂に入ってリビングに戻って来たら、暖炉に火が付いていた。


「キヒカが付けた?」

「ホー。ホー」

「そっか、ありがとう」


 キヒカはリビングの止まり木に居て、火はお風呂上がりの私の為に付けておいてくれたらしい。なんて可愛くて優しくて賢いフクロウなのだろう。

 感動のまま抱え込もうとしたら、髪を乾かしてからにしろと言われたので大人しく櫛を持ってきて暖炉の前で髪を梳かしつつ乾かして、ガタガタ言っている窓に目を向けた。


「これで秋の嵐も最後かなぁ」

「ホー」


 季節はそろそろ冬になる。おそらくこの嵐が過ぎた後には、一気に気温が冷え込んでいくことになるだろう。

 暖炉も直ったし寝室の暖房も問題なく稼働しているし、冬服もあるので一気に冷え込んでも困る事は無いだろう。強いて言うなら、雪がどのくらい降るのか、という問題があるくらいだ。

 そして嵐で外に出られない間も、やることがあるので暇を持て余すことも無い。


「よし、キヒカ。明日からはキヒカの道を作るよ」

「ホー」


 キヒカの移動用に壁に穴を開ける計画は、もちろんちゃんと進めていた。

 けれど穴を開けてから物を用意するのでは寒い、ということで、先に空気の流れを遮断するための魔法陣を用意していたのだ。

 それも一枚目が問題なく使えることを確かめ終わって、キヒカにも試してもらって問題が無かったので、ようやく実行に移せるのである。


 とはいえ今日はもう日も暮れてきているので、夕食を食べて寝ることにする。

 嵐が来て窓を全て覆ったから、家の中は暗く時間も分かりにくい。一応学生の頃から使っている懐中時計があるのだけれど、この家に来てからは見る習慣が無くなってしまった。

 まぁ、スローライフを目指しているのでそれで全く構わない。何の問題も無い。




 そんなわけで、一夜明けて。

 時間はよく分からないけれど、恐らく朝早く。朝食を食べ終えた私は、今日の為に用意していた道具を全て引っ張り出して早速キヒカの道を作ろうしていた。

 ちなみにキヒカはリビングの止まり木の上で寝ている。やっぱり止まり木を用意したらそこにいることが多くなったから、用意してよかった、と私は一人ほくそ笑んでいる。


 寝ているキヒカを起こさないように、は多分無理なので、なるべくうるさくないように気を付けながら、壁に付けた印に添って魔法で壁を切っていく。

 ちなみに、切る前にその周りをちょっと固めておいた。これで粉などが散りにくくなっているはずだ。

 踏み台の上に立って、壁に四角く開けた穴を確認する。変に崩れたところは無いし、魔法ですっぱり斬ったから切り口は随分綺麗だ。


 これなら大丈夫だろう、と続いて板を四枚持ってきて、切り口を覆い隠していく。これはやすりで角を取ってあるし、表面も磨いてある。

 壁に板を固定して、しっかりと釘を打つ。固定出来たらそれがズレないかを確認して、ふぅ、と息を吐いた。これで、キヒカの移動口は出来た。あとは魔法陣を縫いこんである布を設置するだけだ。

 これはカーテンのように動かす予定は無いので、上の板に釘で固定してしまう。


 四か所ほど釘を打てば、布はしっかりと固定された。

 魔法陣が発動すると廊下から流れ込んで来ていた冷たい空気を感じなくなり、隙間風の音が小さくなった。ような気がする。

 ともあれ、ちゃんと完成したようだ。安心して踏み台から降りると、キヒカが肩に止まった。


「キヒカ、出来たよ」

「ホー」


 声を掛けると、早速そこを通って廊下に出て、戻ってくる。移動に問題もなさそうだ。

 キヒカも満足げにしているので、今後はこれを他の部屋にも作っていくことにする。まずは寝室だ。それから、外に繋がる穴も作ろう。

 キヒカは今どこから出入りしているのか私は分かっていないのだけれど、多分使いやすい道はあった方がいいだろう。


 となると、次にやるべきは魔法陣の準備だろう。出来上がったのはこれ一枚なので、同じものを使う分だけ作る。つまりはあと二枚だ。寝室とキッチンの分。

 外に続く穴を作るなら、そこはちょっと違う魔法陣にするので後回し。穴の切り口を囲う木の板は、じつは多めに作ってあるので魔法陣が出来れば寝室の道は作れる。


 刺繍で魔法陣を作る時に使う糸はまだまだあるので、やる気さえあればすぐに取り掛かれるのだ。

 今は気分が上がっているのもあって、やる気は十分。となれば早速取りかかるしかなく、私は上機嫌に作業台横のチェストへと向かった。

 その中から布と糸を取り出して、まずは布を裁断する。


 そしてその布を魔法でピンと張って、糸を浮かせて刺繍を始めた。

 目を閉じて集中し、布の上に魔法陣を縫い上げていく。これがかなり集中力が必要で疲れるので、一気に書き上げることはせずに少しずつやっていくことになる。

 ひとまず一番大きな円を縫い終わったところで一度中断し、お昼ご飯を食べることにした。午後に気力が戻れば続きを、戻らなければ続きは明日に回す。


 集中力が切れた状態で無理に続けて、魔法陣が上手く発動しなくてやり直し、が一番嫌な流れなので、ここは時間をかけてでも正確にやっていく。

 道具作りの魔法使いに一番必要なのは根気、と先生がよく言っていたものだ。

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