やりたい事をやった
昨日書いた魔法陣は一晩経って全て乾ききり、もう稼働させても問題ない状態になっていた。
ただ、このままこの中に魔石だけを入れて起動させても問題はないかもしれないけれど、高温になりすぎて器の方に問題が生じないかが心配だ。
そんなわけで、中には灰を入れて、その灰の中に魔石を埋めて使おうと思っていた。のだけれど……
「火かき棒じゃちょっと難しいかもしれない」
「ホー」
小さなスコップのようなものが必要になりそうだ。そういえば、この家にはそんな物なかった。
あと欲をいうならふるいも欲しい。大急ぎで使わないと凍える、なんて気温でも無いわけだし、次に町に行った時に道具を揃えてからの使用でも問題は無いだろう。
なんて思って、外を見る。今日は見事な晴天だ。
「……キヒカ、今日は屋根張り日和だね」
「ホー……」
そんな日は無いと言いたげだが、でもこんなに天気がいいのだ。今日はちょうど、どうしてもやらないといけない作業も無い。
となれば、屋根をちょっとでも張り替えてしまおうか、という気分にもなる。
春になったらやろうと言っていた作業ではあるけれど、まだ雪も降っていないし、少しずつでも進めておいた方がいいのは確実である。
そんなわけで物置から道具を引っ張り出してきて、早速屋根に上った。
キヒカは下でもしもの時に備えていてくれるらしい。もしもは無いように気を付けるけれど、それでも何かあった時の為なので、キヒカの心配は有難く受け取っておく。
屋根に上がったら杖を落ちない場所に置いて、持ってきた道具を広げていく。
ここからは雨漏りを直した時と同じ作業順で手を動かしていくだけだ。前に端っこの一部だけを張り替えたところがあるので、そこの続きをやっていく。
元々の屋根を剥がして、下の木材を確認して、問題が無ければその上に下地を。問題があれば、木の部分も取り払って新しい木材を。
下地を敷いたら、その上に屋根材を乗せて固定して……
久々にやったけれど、特に忘れている事も無く作業は順調に進んだ。
中々良い進み具合だ、なんて思いつつお昼休憩に下に降りて、昼食を食べたらまた屋根の上に戻る。
そうして一日作業を進めて、端の一列を上まで張り替えることに成功した。これは中々、達成感のある作業だ。やった分が目に見えるのがいい。
満足して夕食を食べ、お風呂に入った後は暖かさと疲労ですぐに寝た。
それから数日、次に買い物に行くまでの間、晴れていたら屋根を張り替え、天気が悪ければ家の中で編み物をしたり、カーテンの端を固定出来るようにしたりと細かい作業をして過ごした。
結果的に屋根は四分の一程張替えが終わり、カーテンは固定出来るようになったついでに端に纏められるようになり、編み物はキヒカのブランケットが完成した。
やりたかった作業は全部出来たと言っても過言ではない。大満足の数日を過ごして、食料も減ってきたのでそろそろ町に買い物に行こうか、という話になった。
この数日で大分冷え込んで来て、いい加減寝室の暖房も使いたいから、そのためにも買い物には行かないといけない。
そんなわけでいつものように買い物リストを作って、明日の早朝に出発することにした。
翌朝、いつも通り早起きをして着替えをすませ、軽く空腹を満たしたら町へ向けて出発した。
いつものように飛んで町に向かい、町の手前で地面に降りて門を潜った。
まずはどこから向かおうか、と考えて、一度ステラさんの所に顔を出すことにした。作った小さなブランケット、一応持ってきたのだ。
キヒカ用、としてはいるがそこそこの大きさの物が出来たのだし、見せに行ってみてもいいだろう。
ということでまずはステラさんの所へ向かい、一人で来るのは初めてだ、と少し緊張しながら扉をノックする。中から返事はなかったけれど、ドアノブを捻ると扉は開いたので、そっと押し開けて中に入った。
「こんにちはー……ステラさん」
「あら、あら。いらっしゃい、フィフィーリア。来てくれて嬉しいわ」
前にお邪魔した時と同じ椅子に座っていたステラさんは、私を見てふんわりと笑った。
その微笑みに招かれるようにしてステラさんの前まで歩みを進めて、荷物から取り出したミニブランケットを見せる。
ステラさんがそれを見ている間に、評定を待つような気分で隣の椅子に腰を下ろした。
「きれいに編めてるわ、フィフィーリアは編み方が丁寧ねぇ」
「ありがとうございます」
褒められて、膝の上に乗せた手を意味も無く擦り合わせる。褒めて貰えるかな、と思って来たのも、確かにちょっとはあるのだけれど、実際褒められるとどうしていいか分からなくなる。
照れながら、とりあえずキヒカのブランケットに出来るくらいの大きさにしたのだ、とそんな話をして、ブランケットをかけられても大人しくしているキヒカを撫でる。似合ってる。可愛い。
「ねぇ、フィフィーリア?良かったらこのブランケット、縁を付けてみない?」
ステラさんは良いことを思いついた、と言わんばかりに目を輝かせて、どこからか毛糸を持ってきた。
ブランケットの色と合わせると、とても可愛い色の組み合わせだ。
一も二も無く頷いて、縁の付け方を教えて貰う。今日は編み針も持ってきていなかったのだけれど、それも貸してもらって、何なら毛糸は貰ってしまった。
遠慮したのだけれど、使いきれないくらいあるから持って行ってくれと言われてしまったのだ。
そうして少し編み進めたブランケットを荷物に仕舞い直して、お暇することにした。
出来たら見せに来てねと言われたので、またそれほど経たずに来ることになりそうだ。




