今後の約束
大工さんの奥さんとお喋りをして、お茶のおかわりを貰った頃に大工さんが戻って来た。
流れるように向かいの椅子に座った大工さんに、今回の相談事を告げた。
「嵐で飛んできたもので壁が凹んでるんですけど、直せますかね?」
「上から塗装をやり直すついでに直せたりもするぞ。今までの話からして、結構外壁も汚れてるだろ」
「そうですね」
「なら、撥水と強化のためにも塗り直した方がいいかもな……まぁ、急ぎじゃないなら春になってからでもいいかと思うぞ」
雪の中外壁を直すのは、相当急ぎじゃない限りはやらない事らしい。
まぁ、それはそうだろう。雪も降るし、寒いし、何より乾かないし。
やるなら全面一気にやった方がいいらしいので、外壁は春になってから手を付けることにした。となると暖炉を直しつつやることは何になるだろうか。
「今回は外壁だけか?」
「あ、暖炉が崩れたから、レンガ買って直そうと思ってます」
「そうか。まぁあれはかまどのデカい版だからな、嬢ちゃんなら大丈夫だろ。暖炉の外側だけ二重になってる作りのもあるから、確認して調整すれば難しくも無い」
「分かりました、ちゃんと確認します」
お墨付きもいただいたので、かまどと同じ工程で直すことにした。一応レンガの種類が違わないかとかも聞いておいて、問題なさそうだったので心配はない。
聞きたかったことも聞けたし、あんまりお邪魔してもあれだしそろそろお暇しようかな、と思ったら席を外していた奥さんが戻って来た。
「ねぇ、編み物って興味あるかしら」
「編み物、ですか?時間が出来たらやってみたいな、とは思ってます」
「それならやってみない?私も教えられるほど上手くはないんだけどね、日暮れも早くなってくるし部屋の中で出来る事を始めてみるっていうのもいいんじゃないかと思って」
この町に住んでるお婆さんがね、上手で教えてくれるのよ。と奥さんは言う。それを聞いて、私は、自分の目が輝いている自覚があるくらいには心が惹かれていた。
編み物。家の中で、のんびりと編み物をする。
それは何とものんびりしていて、まさしくスローライフと言えそうな光景だ。
私が興味を惹かれているのが分かったのか、奥さんが微笑んだ。どこまでも優しいその笑顔は、私にはあまり馴染みのない、お母さんの顔だ。
そんな顔を向けられることに慣れていなくて、どうしようかと困った末にキヒカを抱え込んだ。
座ってちょっとうつらうつらしていたのに抱え込まれたキヒカは、こっちを一度見たっきり大人しくしている。
「時間のある時に一緒に行ってみない?私はどうせ、いつでも暇だし」
笑ってそう言ってくれた奥さんに頷いて、近いうちに編み物を習いに来ようと心に決めた。冬の間とか、編み物をして過ごしたい。
上手に作れるようになったら、きっとその時には王都にも行けるくらいの心持になっているだろうから、そうしたらシンディに渡しに行こう。
沢山心配をかけてしまっているみたいだし、と思って、そういえばレターセットも買わないといけないんだったと思い出した。
直接連絡を取れないシンディが手紙を欲しがっていると連絡が来ていたのだ。キヒカ単身なら王都までもそう時間はかからない、と思うので、書いて送ろうと。
そんなことを思い出しつつ、今はとりあえずお店を後にすることにした。
早めに来ます、とだけ奥さんに伝えておいて、大工さんにお礼を言って店を出る。抱えていたキヒカは、外に出るなり肩に移動した。
「……編み物、出来たらキヒカにも何かあげるね」
「ホー」
自分でも結構浮かれている自覚はあるが、そう悪い事でもないのでそのまま町を進む。
浮かれ気分のまま向かうのはいつもの資材屋さんだ。そこでレンガとセコトを買って、その後薪棚を探しに行く。キッチンにも置きたいから、三つ欲しい。
他にも色々と見たいものはあるが、最優先はレンガなので順番は確定だ。
そんなわけで資材屋に行って、家の暖炉の色を思い出しつつそこそこ似ているだろうと思う物を購入した。細かい色味の違いは、まぁ味だということで良しとしよう。
資材屋での買い物を終えたら家具屋だったり道具屋だったりを見て回って、とりあえず火かき棒を購入した。実はキッチンのも無かったので、二本。
今までは魔法でどうにかしていたのだけれど、あった方が便利なので、気に入ったものを二本買った。
その調子で薪棚を探していたら、薪棚本体ではないけれど合わせて欲しかったものを見つけたので迷わずに手に取る。
魔法使いのいなさそうな町だしなさそうだと思っていたのだけれど、見つかって何よりだ。
買ったのは、小さな釘のような物。魔法関係の道具で、小さな石をはめ込める隙間が空いている。
結構使うことになりそうなので品質を確かめたうえで多めに買った。
店の中を見て回ったら他にも魔法関係の小物を見つけたので、この店は覚えておこうと思う。いざとなったら王都に行くが、手近なところで済ませられるならその方がいいのだ。




