お風呂の確認
お風呂を確認しに行ってみると、そもそも湯沸かしの魔道具自体が見当たらなかった。この家の住民は一体どうやってこのお風呂を使っていたのか。まさか水だけでどうにかしていたのだろうか。このあたり、冬は結構冷え込むはずなのだが。
慄きながら必要な物を脳内で並べて、手持ちの素材で作れるかどうかを考える。
恐らく可能。微調整が必要になったら、ちょっと面倒くさいかも。まぁそこは腕の見せ所だ。
寝室に戻って、荷物の中から道具を引っ張り出す。今回使うのは魔石とそこに彫刻を施すための小さな彫刻刀だ。魔石は魔力を溜め込んだ石で、魔道具の素材としてはよく使われるものになる。私が王都から持ってきたのはそれなりの大きさ、それなりの魔力量の物で、安くも無いがそこまで高くもない、汎用性の高いものだ。
何かに使うかと魔道具、魔法陣の素材は持ってきていたが、ここまで使うことになるとは。使用頻度が思っていたより高い。
なんて考えながら、手に取った魔石に紋様を彫り込んでいく。湯沸かしの魔道具だが、沸騰するまで熱されたら入れないので、大体四十度くらいまで温度を上げたら停止するように調整を施していく。
この微調整が中々面倒で、どれだけ綺麗に小さく彫れるかが腕の見せ所になって行く。私は、こういう細かい作業はかなり得意だ。紋様を考えるのも、調整の仕方も隙間の細工も、全部好きでやっていたら評価して貰えた。嬉しい事だ。
「……よし、出来た」
「ホー」
「そうだね、試そう」
出来上がった魔石を持って、再度お風呂場に向かう。そういえば作った魔法陣もまだ設置していなかったので、キッチンでやった時と同じように道具を取り除いたところに魔法陣を巻き付けて固定し、レバーを上げて水を出す。
ひとまず水漏れはしていなさそうなので、適当に水を張ったら魔石に魔力を込めて起動して、水の中に落とす。少し待ってから水に手を入れてみると、ぬるま湯になっていた。まだ少し掛かるだろうか。
さらに少し時間を置いて手を浸けると、お湯はちょうどいい温度になっていた。その後それ以上温度が上がる事は無かったので、手直しは必要ないだろう。
ひとまず完成したので、お湯を抜いておく。流石にこのままの状態では入るのは少し抵抗があるので、湯舟を磨くか新調するかになるだろう。
「明日は買い物に行かないとね」
「ホー」
お湯の抜けた湯舟を眺めながら呟くと、キヒカが同意をくれた。
ここから一番近い町は、王都からここに来るまでの間に通過した町だ。ベッドと虫よけ埃よけのテントを買ったところである。
そこそこ大きな街で、私が飛んで行けば日帰りで行けるだろう。きっと。ここに来るまでの道中は歩いてきたから、正確な所要時間は分からないけれど。
「多分行けるよね」
「ホー」
キヒカもいけるだろうと言っているし、早起きすればいい。
早起きは得意だ。王宮魔術師をしていた時は、日が昇るより早く起きることもよくあったから。今日は寝過ぎたくらいに寝たけれど、起きようと思えば起きられるだろう。
まぁ、最悪寝過ごしても困らない。どこかで野営して帰ってくればいいだけだから。
予定が決まった後は、他に何か買って来た方がいいものが無いかを考える事にした。
恐らく日帰りが出来る距離とはいえ、近いわけではない。
買い物は出来るだけ纏めて済ませてしまいたいところだ。重さとか大きさとかは、どうにでも出来る。なにせ魔法使いなので。
「キッチンのシンク、新しくしてもいいかも」
「ホー」
元のシンクは一応まだ使えなくはないが、水引魔道具の確認に一度分解してしまったから少し歪んでいるところがあるのだ。それに、古いし。
キッチンとお風呂は清潔であってほしいので、新しくしてしまった方がいいだろう。
なんて考えながらキッチンに向かい、ばらされたシンクを窓から外に出す。こうすれば、入れ替え以外の選択肢が消えるので。
ついでにかまどを確認したら、少し崩れていた。少しだからこのままでも使えなくはないだろうけれど、そのうちガタが来るのは確かだろう。
レンガを組んで作られたかまどなので、崩れたレンガを組み直せばいいだろうか。それなら野営やら何やらでやったこともあるから、問題は無さそうだ。
「レンガも買ってきて……あとは、テーブル、欲しいよね」
「ホー」
全部床に置いてどうにかするのも、まぁ、ちょっと楽しくはあるけれど、ここで暮らしていくと考えたら机と椅子くらいはさっさと用意したいところだ。
ベッドを買ったのと同じお店に行けば、何か良いものが見つかるだろう。小さいのでいいから、趣味に合う物が欲しい。
「キヒカは欲しいもの、ある?」
「ホー」
特にないらしい。町に行ってみて色々見てみて何かあれば買えばいいだろうか。
止まり木とか、良いのがあったら用意してみてもいい。この家でキヒカの定位置になる場所も作りたいので、探してみよう。
なんて、楽しくあれこれ考えて買い物リストを作っていく。食料も買いたいから、帰ってくる時には大荷物になりそうだ。




