・友人の心配
王都にも嵐の影響は出ていた。けれど事前の備えと十分な人手があったことで数日のうちに片付けも終わり、すぐに日常に戻っていた。
けれど、他の町では片付けも終わっていない所があるらしいし、被害が大きかった場所もあると聞く。
「心配だよぉー……」
「はいはい」
「何て気のない返事!テルセロはフィフィが心配じゃないの!?」
「あいつなら自分でどうにかするだろ……」
非番のテルセロが特に目的も無く歩いているところを捕まえたシンディが、茶をしばきつつフィフィーリアへの心配をひたすらに語っていた。
シンディはいつだってフィフィーリアが大事で心配で、楽しく暮らしているという知らせを待っているのだ。遊びに行けるのならそれが一番嬉しいけれど、いや一番嬉しいのは近くに住んでていつでも顔を見られたりすることだけれど、とにかく彼女が無事であるという確信が欲しかった。
「フィフィから連絡来てないの?」
「家直すのが楽しいってよ」
「楽しいならいいかぁ……」
「判定が甘いなぁ、フィーリアが絡むと」
いつものように呆れたような声を出したテルセロを睨み、頬杖を付いて通りを眺めつつため息を吐いた。今日の王都は晴天だけれど、フィフィーリアのいるところは晴れているだろうか。
そこまで離れた所には行っていないらしい、とテルセロ経由で聞いてはいるが、シンディはどうしても心配が晴れはしなかった。
「私も魔法使えたらなぁ……」
「あれはどっちかって言うと魔法より魔力の操作」
「うるさい!はぁ……フィフィ~……元気かなぁ……」
グルグルと同じことを考えていると、テルセロは呆れたようなため息を吐いた。
なんだよ、と睨むと、その懐からはフィフィーリアが学生時代に作った連絡用の魔道具が出てきた。シンディには扱えなかった繊細で複雑な魔道具だ。
これを作っているのを、シンディは横で眺めていた。
「ほら、なに書く?」
「……お手紙が欲しいです」
「はいはい」
シンディに捕まる事を予想していたのか、何となく持ち歩いていたのか、それともいつも持っているのか。フィフィーリアの片手に収まりきらない程度の大きさではあるが、テルセロからしたら片手で悠々覆えるくらいの大きさだ。持ち歩くのにも困らないだろう。
そんなことを考えながら、とりあえずテルセロに要求を伝える。
テルセロが魔道具を操作してフィフィーリアへと文章を送っているのを眺めて、お茶を一口飲み込んだ。最初は熱すぎて飲めなかったのに、今はぬるくなってしまっている。
そのぬるいお茶を飲み込んで、そのカップをそっと置いた。
「キヒカが往復できる距離なら手紙も来るだろ」
「……無理はしてほしくない」
「そうだなー」
気のない返事だ。シンディはフィフィーリアが大好きで大事でたまらないが、その相棒であるフクロウのキヒカの事も大好きなのだ。
学生の頃、怪我をしていたところをフィフィーリアが拾ってきたフクロウ。
フィフィーリアは懐かれていることに気付きもしていなかったが、はたから見ていれば分かりやすかった。
一人と一匹の髪色と体色が似ているなぁと後ろから眺めるのが好きだった。圧倒的に言葉が足りていないのに、何故だか通じ合っている一人と一匹を見るのが好きだった。
その平穏が壊れたと聞いて、とりあえず王宮魔術師について全力で調べ上げたくらいには、シンディはあの一人と一匹に入れ込んでいる。
「キヒカも元気かなぁ」
「キヒカになんかあったらフィーリアはお前の所に来るだろ」
「来るかなぁ」
何を今さら、とまた呆れたようなため息を吐いたテルセロを睨んで、冷めてしまったお茶をぐっと一気に飲み切った。
冷えてきて渋みが出てしまったお茶に軽く眉を顰めながら、カップを置く。
「フィーリアが自分から頼りに行くのはシンディくらいだ、昔から」
「それは普通に嬉しい。ありがとう」
「はいはい」
「でもフィフィ、仕事の悩みとか相談に来なかったよ……私が行けばよかったのかな……」
「王城だぞ、気軽に行けねぇよ。王宮魔術師はほとんど休みも無かったんだろ?」
「私が調べた限りは……」
お前が調べたならそれが結果だ、なんて当然のように言うテルセロは、自分の事を何か誤解していないかとシンディは思う。
シンディは昔から人と仲良くなるのが得意で、色々な人と話をするから色々と噂が集まるだけだ。
まぁ確かに?卒業してからはいつかどこかでフィフィの役に立つかなぁと思った人にわざわざ声を掛けにいくことも、多少はあったけれど?
なんて思いながら空のカップの縁を指でなぞっていたら、後ろから軽く頭を押された。
何かと思って振り返ると、見慣れた顔が立っている。
「こらシンディ、非番の騎士様に絡むんじゃないよ」
「お兄ちゃん」
「ごめんねテルセロ」
「いや、いい気分転換になった」
席から立ち上がったテルセロの後を追うように席を立ち、頭を押してくる兄の手を振りほどく。
そろそろ戻った方が良さそうなので、今回はここで解散だ。
「フィフィから連絡来たら教えてね!」
「はいはい」
別れ際、それだけはしっかりと伝えて、シンディは兄と共に帰路についた。
正直まだまだフィフィーリアへの心配は消えないし、働く気にもなれはしないのだが、フィフィーリアを理由にサボることもしたくなかったのでしっかり働くのだ。




