新しい屋根材
大工さんと一緒に資材屋さんに入り、案内されて今まで行ったことのなかった屋根材コーナーへと足を進める。なんだ大きなものがいっぱいあるなぁなんて呑気に考えながら、大工さんの横で足を止めた。
目線の先にあるこれが目的の屋根材なのだろうか。
「これは屋根の下地材だ」
「下地」
「これを屋根の板張りの上に張って、その上に表面に見える屋根を敷く」
「なるほど」
大工さんが言うのなら、それが正しいやり方なのだろう。
そんなわけでロール状になっている屋根の下地材を魔法で浮かせて自分の横に移動させる。これで足りなかったら、また同じものを買いに来ればいいのだろうか。
なんて考えながら、移動し始めた大工さんについて行く。
この下地材の張り方などを教えて貰いながら移動して、屋根材コーナーに進んだところで屋根の色の希望などを聞かれ、何も考えていなかったな、と思わず口を閉じた。
色、色か。本当になんにも考えていなかったのだけれど、どうしようか。
あんまり悩むことでもない気がして、ふと思いついたことを声に出した。
「キヒカみたいな色……?」
「……まぁ、探せばあると思うぞ」
キヒカ色、つまりは薄い茶色なのだけれど、まぁ悪くはないんじゃないだろうか。周りに馴染みそうな色だし。
何でもかんでもとりあえずキヒカを脳内に思い浮かべてしまうのは仕方のない事だし、キヒカも諦めているのか特に何も言わないので、これでいいのだ。
なんて思いながら進んで行く大工さんの後ろを付いて行き、両側に並んでいる屋根材を眺めた。一つ一つは小さいみたいだ。束ねられて、置かれている。
どういう形?なんて思いながら眺めている間に、大工さんは目的の物を見つけたらしい。
「色、これが近いんじゃねぇか?」
「わ、本当だ。キヒカ見てほら、キヒカ色」
「ホー」
そっと横に移動して屋根材と並んでくれたキヒカに小さく拍手を送り、確かに近い色だと頷く。
肩に戻って来たキヒカを軽く撫でてから屋根材を手に取った。思っていたよりも軽くて、ちょっとびっくりする。これで何枚なんだろうか。
ひっくり返したり横から見てみたりと手の中の屋根材をクルクル回している私を見てちょっと笑った大工さんは、この屋根材の使い方を説明してくれた。
「こっちが上だ。この向きに合わせて、この溝にこっちの突起をひっかけて固定する。上に重ねる時は、こう」
「これで固定出来るんですか?」
「いや、これで仮止めだ。上から専用の道具で完全に固定する」
教えて貰いながら、この一束でどれくらいの範囲に屋根を敷けるんだろうか、と考える。
屋根、雨漏りしている所だけじゃなくて、全体を直した方がいい気がしているのだ。何せ古いし、次の嵐でどこが壊れるか分かったものではない。
多めに買っておいてもいいのだろうか、なんて思いながら、屋根材を眺めていたら、大工さんにいくつかの束を渡された。これだけあればとりあえず充分、なのかもしれない。
その後、屋根を完全に固定するための道具も買い、やり方をもう一度説明してもらってメモを取り、他にもあれこれと資材を買い足していく。
ついでに、割れた窓をどうしようかと相談したら、修理の専門家がいるらしくその人を紹介してもらえることになった。
お店の場所を教えて貰って、もう大分増えてきた荷物を浮かせて運びながら大工さんにお礼を言う。
大工さんも確かに買い物はしていたけれど、明らかに私の案内について来てくれたのだと分かる量だったので、なんというか申し訳なくなってくる。
何か、魔法系で困りごとなどあったらどうにかするので、ぜひ声を掛けてほしい。魔法なら大体どうにか出来るので。
そんなことを言いつつ私は窓を直してもらいにお店に行くので、大工さんとは資材屋さんの前で別れることになった。
またいつでも来いと言って貰えたので、今後も有難く頼らせてもらうことにする。
手を振って去っていく大工さんに手を振り返して、荷物の上に座っているキヒカを見上げた。
「窓、直してもらいに行こう」
「ホー」
大工さんに教えて貰ったお店はそんなに離れていない場所にあるので、このまま行ってみるつもりでいる。窓がどのくらいで直るのか分からないので、出来たら取りに来る、ということになる可能性もあるし、そこも含めてどうなるのか聞いてみたいところだ。
なんて考えながら、嵐の後の片付けをしている町の中を進む。
のんびり歩いている間に大工さんに教えて貰った修理屋さんに着いたので、教えて貰ったお店の名前と同じ看板が掛かっているのを確認してから扉を押し開けた。
キヒカは荷物と一緒に外で待っているらしいので、荷物は外の端っこ、邪魔にならなさそうな所に置いて行く。
「こんにちはー……」
無人の店内に恐る恐る声を掛けると、奥からお爺さんが出てきた。この人が、教えて貰った修理の出来る人だろうか。
「どうしたの」
「あ、えっと、壊れた窓の修理をお願いしたくて……」
言いながら、持ってきていた窓を取り出すと、お爺さんはそれを見て眼鏡を押し上げた。
どうだろうか、直るだろうか、という私の心配を感じ取ったかのように、お爺さんは顔を上げてこっちを見た。
「作り直した方が早いね。これくらいならすぐ終わるから、ちょっと待ってて」
「あ、はい、分かりました」
直る、というか、作れるらしい。すごい、そんな簡単にできるものなのだろうか。
凄いなぁ、と思っている間にお爺さんからいくつか質問をされ、それに答えている間に木の枠が用意されガラスが用意され、作業はどんどん進んで行った。




