荒れ天気
食料はまだあるけれど、棚を探しに街まで買い物に行こうかどうしようか、などと考えていた頃に、それはやって来た。
ガタガタと音を立てる窓。バタバタと音を立てて屋根に当たる雨。風で揺れる家。そう、嵐の到来である。
「凄い音」
「ホー」
これには流石に外に居られるわけも無いと判断したのか早々に家の中に舞い戻って来たキヒカを肩に乗せ、家の窓と言う窓を塞いで回っているのだけれど、まず何よりも音が凄い。
窓を塞ぐための専門の物があるわけでもないので、どうしたもんかと考えた末にとりあえず簡単な魔法陣を書いて回っているのだけれど、これがなかなか大変だ。
「準備しておけばよかったね」
「ホー」
まぁ予測していなかったのだから仕方がない。そんな時期か、という思いもあるけれど、衝動的に王都を飛び出したこともあって季節とか考えていなかったのだ。
何はともあれ、これでは買い物に出かけることは出来ないので、嵐が去るのを待って家に籠ることにした。
「キヒカ、ご飯ある?」
「ホー」
「じゃあ干し肉戻そうか」
「ホー」
キヒカは普段、外に出て自分で狩りをすることが多いのでキヒカ専用のご飯と言うのは用意していないのだけれど、一緒に食べられるものはいくつかあるので、キヒカも一緒に家籠りだ。
元々キヒカは本来の食性では食べないはずの木の実も食べる子だから、食べられるものは多いしね。
そんなわけで一人と一匹、揃ってガタガタいう窓を塞いで回る。窓に直接魔法陣を書きこんでいるのだけれど、これは窓に耐えられないくらいの衝撃が来たら、その衝撃を魔法陣が替わりに受けてくれるというものだ。
補強には便利な魔法陣だけれど、さてどれくらい耐えてくれるだろうか。
全ての窓に魔法陣を書き終わったら、もう少ししっかりした補強の魔法陣を紙に書いてキッチンとお風呂、そして寝室の守りを固めるつもりでいる。
「おぉ……」
「ホー……」
魔法陣の書き込みが一通り終わったところで特大の音が鳴って、キヒカと二人、ちょっと怯えの色がある声を零す。これ、大丈夫だろうか。
家が揺れているなぁ、とどこか呑気に考えながら、魔法陣を書くために紙を回収してキッチンに向かう。……なんだろう、すごく風が吹き込んでいる。
「……あ、換気口」
「ホー」
「塞ぐ物なにか……板あったっけ」
「ホー」
「確かに、あれでいっか」
かまどの上に開いている換気用の穴から風が吹き込んで来ているので、塞ぐために適当な板を持ってくる。ちょうどキッチンにいい感じの板があったのでそれで穴を塞いで釘を打ち、ひとまず良しとしておいた。
キヒカも良さそうだと一声鳴いたので、椅子に座って魔法陣を書き始める。
先ほど窓に書いて回った簡単な補強の魔法陣よりも複雑でより強固な魔法陣を書いて、この後何日続くか分からない嵐への対策にするのだ。
そんな意気込みで魔法陣を書いていたら、段々お腹が空いてきたのでご飯の支度をすることにした。
鍋に水を注いでかまどの上に置き、火をつけてお湯を沸かす。
お湯が湧いたら、そこに具材を入れて柔らかくなるまで煮込んでいく。キヒカに聞いたら干し肉はそのままでいいらしいので、キヒカのご飯は小さく裂いてお皿に入れておいた。
自分のご飯を煮込みながら味を調整して、出来上がったら火から避けて器に入れ、テーブルへ持って行く。
自分とキヒカの分の水も用意して机に並べ、椅子に座ると向かい側にキヒカが座った。
向かい合って、一緒にご飯を食べる。何とも平和でほのぼのした時間だ。外は大荒れの天気で家はガタガタいっているけれど。
家が揺れる中のんびりとご飯を食べて、食べ終わったら食器を洗ってお茶を淹れる準備をする。
「キヒカー」
「ホー」
お湯を沸かしている間に家の窓が割れていないかを見て回る。
今のところ、魔法陣が防いでくれる範囲内で収まっているようだ。この後風で石とか飛んで来たらどうなるかは分からないけれど、そうなったら町で直し方を聞いてこよう。
なんて思いつつ窓を見て回り、寝室の窓にはご飯を食べる前に書いた魔法陣を張り付けておいた。
「とりあえずこれでいいか……どうだろうキヒカ、この嵐どれくらい続くかな」
「ホー、ホー」
「そうだね、明後日くらいには晴れてほしいけど……」
あまり期待はしすぎない方がいいだろう。けれど、出来れば早めに晴れてほしい。
次町に行った時には、窓を塞ぐ用の木の板を買ってこよう。この家、外から窓を塞ぐようなものが無いのだ。嵐の気配を感じて確認した時に、何もない……とちょっと絶望した。
なので、次の嵐が来る前に窓を守るための物を作りたい。どう作ればいいのかは、大工さんに聞いてみることにする。
買い物リストにとりあえず板、と書き込んでおいて、お湯が沸いているであろうキッチンに戻って来た。
お茶を淹れて、この後はのんびりしようと椅子に座ったところで、また強風で家が揺れた。
……嵐が去る前に、家が壊れるとかはないよね?問題なく住めるくらいには直したこの家が壊れるのは、すごく嫌なのだけれど。




