キッチンの追加物品
ねずみ対策に魔法陣を書こうと道具を引っ張り出して来て、この家の現在唯一のテーブルに戻って来た時に、ふと思ったことがある。
向かい側の椅子に座ってこちらを見ているキヒカに声を掛けると、一声返事が返ってくる。私が頬杖を付いたら、真似するようにキヒカは顎を机に乗せた。可愛い。
「食器棚を買いに行くなら、ついでに浄水器も探そうかな」
「ホー」
「キヒカは何か、欲しいものある?」
「ホー」
特に欲しい物は無いらしい。そうはいっても私はキヒカの物も何か買って来たいので、今回もいい感じの止まり木が無いか探してみようと思う。
こうして椅子に座っている姿もとても可愛いから、このままでもいい気がするのだけれど……でも、あった方がキヒカも楽だろうし、探すだけ探してみよう。
さて、それでふと思ったことなのだが、浄水器の事なのだ。今までは野営で使う小さな浄水用魔道具を使って、蛇口から注いだ飲む分の水だけを浄化していたのだけれど、ちょっと不便なのだ。
凄く困っているという訳では無いけれど、喉が渇いたなぁと思ってから準備をすると時間が掛かる。なので、大きめの物を置いてみてもいいのでは、と思ったのだ。
「浄水器、どういうのがあるんだっけ」
「ホーホー」
「そうだね、学校のはでっかかったね」
キヒカと思い出話をしながら、魔法陣を書くことにした。これは水引の魔法陣と同じように紙に書いて、使う所に張り付ける形の物にする。
そうすれば仮置きの木箱にも使えるし、その後しっかり用意する予定の棚にも同じものが使える。はずだ。うっかり破いたりしなければ。
「ねずみ、あれ以降見ない?」
「ホー」
「そっか、じゃあ一匹だったのかな」
気にしているキヒカが見かけないということは、群れで来たわけではないのだろう。
なら第二陣がやってくる前に対策を済ませてしまった方がいいだろうから、ひとまず魔法陣と仮置きの木箱をさっさと用意しないといけない。
魔法陣は侵入者よけの物で、何かと使う物なので書き慣れている魔法陣の一つだ。
キヒカも何度も見ているから、その気になったら書けるんじゃないだろうか。
でっかくなったキヒカが爪で地面に綺麗な円を描くところを見たことがあるし、多分書けるんだろうと思っているのだけど、今のところ書いている所は見たことが無い。
必要が無いからなのか、道具作製の適性はないのか。……適性、あったと思うのだけれど。
まぁ、特別それを求めているわけでもないから別にいいのだけれど、書けるのならいつか見せてほしいとも思う。
なんて考えながらインクに指を浸し、魔法陣を書き上げていく。サラサラ書いた魔法陣を乾かしている間に木箱を用意することにした。まずは手を洗って、木の板を取りに行く。
「ホー」
「うん?」
「ホー」
「……確かに」
私は前に送風の魔法陣を張り付けた木箱を作ったのと同じように外に投げた元家具の中から木の板を探し出して作るつもりだったのだけれど、キヒカに止められて寝室に向かう。
あれこれと物を入れていた木箱を、そろそろ空に出来るのではないかと言うのだ。
キヒカが言う木箱はあれだろう、と思い至る節があるし、確かにあれなら空に出来るかもしれない。
出来るのならそれを使った方が簡単なので、確認するために寝室に向かい、壁際に置いてあった木箱を確認した。
中身は王都を出る時に持ってきた服やら布やらがほとんどで、その他は本やらなんやらだ。
そういえば服も適当な場所に置いているけれど、クローゼットを用意した方がいいだろうか。
「空に出来そうだね」
「ホー」
何はともあれ、空箱の確保は出来そうだ。となれば早速箱の中身を取り出して、空にした箱をキッチンに運んでいく。
キッチンに運んで来たら乾いた魔法陣を箱の底に張り付けて、今穀物袋を置いているところに箱を置きたいので、袋を浮かせて箱を設置した。
設置した箱の中に穀物袋を入れて蓋を閉めれば、侵入者よけの効果がある仮置き食糧庫の完成だ。
まだ隙間があったので、他にもねずみに齧られそうなものは箱の中に入れておくことにした。ひとまずはこれで良さそうなので、棚は妥協せずに探して良さそうだ。
キヒカも箱の上に乗って、満足そうに一声鳴いている。
「次の買い物……いつ行こうね?」
「ホー」
日帰りで行けるとは言っても朝早いし夜は日が落ちた後に戻ってくることになるので、あんまり気軽に行けるわけでもない。
他に欲しい物などをメモして、ある程度色々足りないとなってから行きたいのだけれど……今回はキッチンの追加物品だけだろうか。
「……あとは、トイレ、そろそろ直す?」
「ホー」
トイレは、ひとまずそのままでも使えるから後回しにしていたのだけれど、そろそろ手を付けてもいいかもしれない。
トイレは便器と浄化装置の二種類を新しくすればいいんだろうか。浄化装置くらいなら自分で作れるので、先にそっちを用意して便器を買いに行く、でいいかもしれない。
「多分学校のと作り同じだよね」
「ホー」
学生時代に、学校のトイレの浄化装置が壊れたから新しいのを作ってくれと言われて作ったことがあるので、同じなら問題ないのだ。
まぁ、一応確認してからやろう、と決めて、買い物メモに浄水器、食器棚とだけ書いておいた。




