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キッチンの確認

 目を開けると、知らない景色が広がっている。

 テントの中、だろうか。

 なんて、ぼんやり考えていたら、隙間からキヒカが入って来た。


「ホー」

「……ん、おはようキヒカ……ふぁ……うん、起きたよ、大丈夫」


 身体を起こして目を擦り、やっと覚めてきた頭で考える。

 久々に何も気にせず熟睡したせいで、新しく家と定めた場所を認識出来なかったらしい。ふかふかベッドの威力はすさまじい。外を見ると、日は高く昇っていた。

 寝過ぎた、とは思うけれど、今までの事を考えるとやっと寝れた、とも言える。別に急ぐ用事があるわけでもないし、別に気にすることも無いだろう。


「キヒカ、何か食べた?」

「ホー」


 食べたらしい。私が寝ている間に、外に出て近くの森にでも行っていたんだろうか。

 私は寝ていて何も食べていないので、荷物から食料を取り出して空腹を満たす。ついでに水も飲んで、浄水の魔道具も取り出した。


 今日はまず、水回りを確認しよう。そう決めて服を着替え、杖を片手に家の中を進む。キヒカはいつも通り肩に乗ってきた。一緒に行くらしい。

 昨日確認していたキッチンに続く扉を開き中に入ると、昨日よりはマシだがまだ埃っぽい気がしたので、とりあえず窓を開けて空気を入れ替えることにした。そして昨日と同じように掃除をしておいた。そして、残されていたキッチンの設備へと寄って行く。


「……出ないね」

「ホー」


 水道のレバーを弄ってみても、水が出てくる様子はない。水を引いて来る魔道具が壊れているのか、水源の方に何か問題があるのか。

 水源の方だと面倒だな、と考えつつシンクを軽くばらしてみたら、古い魔道具が出てきた。壊れているようだし、問題だったのはこっちだろう。

 水引の魔道具は一昔前の作りだった。大体、二十年前くらいに主流だったものだろうか。


「魔法陣描く所からだね」

「ホー。ホー」

「……ん、そっか、お風呂の方の魔道具も入れ替えた方がいいね」

「ホー」


 キヒカに促されるまま、お風呂の方も確かめに行く。多分壊れてるだろうし、壊れてなかったとしても入れ替えた方がいいだろう。なにせ二十年前の魔道具だから、いつガタが来るか分からない。

 そんなわけで肩にキヒカを乗せて、今度はお風呂場に向かう。


 脱衣場を抜けて浴室に入ると、じっとりとした空気が溜まっていた。今までと同じように、窓を開けて空気を入れ替える。その後手を伸ばして中にあった水道のレバーを上げてみたけれど、こちらも水は出なかった。


「水引の魔法陣を二つ、だね」

「ホー」


 窓は少しだけ開くように調整して、一度寝室に戻る。

 荷物の中から魔法陣用の紙とインクを取り出して、机が無いのでどこで書こうか考える。……床でいいか?いいか。


 私は王宮の魔術師をしていたのだ、この程度なら自分で作れる。

 手元にある素材は水引の魔法陣にするなら相性もいいし、このまま書いてしまって大丈夫だろう。難しいものでもないから事前準備も必要ない。


 紙を伸ばして丸まらないように端に重石を乗せ、紙の下に許容できない凹凸が無い事を確かめる。問題なかったので、インク瓶を開けて指先をインクに浸した。魔法陣の書き方は幾つか種類があるが、今回はこれが一番相性が良かったので指で書くことにしたのだ。


 紙の上に魔法陣を書いていくのと同時に魔力を込めて、魔法陣をより強固にしていく。一枚目が出来上がったら同じように二枚目も書いて、指のインクを拭って乾くのを待つ。


「爪の間に入った……」

「ホー」


 指で書くと魔力の調整がしやすいのだけれど、どうしたって汚れるのが難点だ。それでも今ある道具だとやりにくいから、指でやるのは確定だったのだけれど。

 なんであれ、完成したのだからそれでいい。性能にも問題は無さそうなので、乾いたら設置しに行こう。それまで、キヒカと一緒に少し休むことにした。




 しっかり乾いた魔法陣を持ってキッチンに向かい、それを魔道具が置いてあったところに代わりに巻き付けていく。

 魔法陣用の紙は特殊で、魔力の保護膜があるので水にも火にも強い。なのでこのまま巻き付けられるのだが、作業自体は慣れていないので少し時間が掛かった。


 どうにかこうにか巻き付けて、そこそこ綺麗に出来ただろう、と息を吐く。

 そしてレバーを弄ってみると、そこからはしっかり水が出た。とりあえず成功したらしい。


「ホー」

「ん?……わ、水漏れ……排水管かな」

「ホー」


 水は出たが、排水に問題がありそうだ。床を濡らしている水を魔法で浮かせつつ、キヒカに声を掛けられて水を止め忘れていたことに気が付いてレバーを下げた。水を出しっぱなしにしたまま床だけどうにかしようとしていたなんて、慌てていたにしても何て滑稽な事だろう。


 ため息を吐きつつ床を濡らしていた水を浮かせ、ついでにちょっと魔力を込めて再度シンクから流してみる。水が漏れているところは魔法で塞いで誘導し、魔力を辿って水漏れの状況を確かめる。

 露出している部分が劣化して割れているだけで、見えないところは問題なさそうだ。


「うーん……街に買いに行かないとかな。他にいるもの、なんかあるかな」

「ホー」

「そうだね、ご飯買って来ないと」


 ともかく、今日はこれ以上キッチンの修復は進められそうにない。他に何か出来そうなことを進めておくべきだろうけれど、何からやろうか。

 考えながら家の中を歩き回って、そういえばお風呂の湯沸かし魔道具も壊れているんじゃなかろうかと思い至った。

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