お仕事完了
船の動力になる魔道具を組み立て始めて早数日。
組み立てと船の調整が終わったものから海に出して、警備隊の人たちに試運転をしてきてもらっているのだけれど、今のところどれも問題なく進めていて一安心だ。
「船がいっぱい……壮観だね」
「ホー」
予定していた物は全て組み立て終わって、私は今、岬の突端から試運転に出ている船が列をなしている様子を眺めている。
肩にはいつも通りキヒカが乗っていて、一緒に海風を浴びて船を眺めていた。
フロリフに来てからキヒカは海の方も飛んで回っているようで、私よりも地形を把握している。どうやったのかは分からないけれど、浅瀬の位置も確認済みらしい。
そんなわけで船が通るルートを一緒に予想しながら、船から時々魔法が飛んだりする様子をぼんやり眺めているのだ。
ちなみに、警備隊の皆様は半数がちょっとなら飛べるようになっている。……あのとんでもない練習法は、意外と効果があったらしい。
隊長に飛ばされるより自分で飛んだ方がいい、とげっそりしている人が多かった。
「そろそろ戻ってくるかな」
「ホー。ホホー」
「……これで、お仕事は完了だね」
「ホー」
順調に進んでいる船には、大きな問題は見られない。
今日が最初の試運転ではない船もあるし、これならばどれが一番使い勝手がいいかを調べ終えたら私の仕事はおしまいになる。
なんだかんだそれなりに長く滞在していたが、そろそろ帰り支度もしないといけないな。
「お土産買って帰ろうね」
「ホー」
シンディへのお土産として、フロリフで作られた綺麗な髪飾りは既に買った。海特有の素材が使われていて、とても可愛かったのだ。
テルセロにはお土産は何がいいかと聞いたらフロリフのお酒を頼まれたので、それも既に探して買ってある。
なので後はデリックさんとシエル、それから町でお世話になっている人たちにも何かを買っていきたいところだ。帰り道でも色々見て回るが、ある程度はフロリフで探しておきたい。
なんて考えている間に、船は徐々に向きを変えて港に戻ってくる様子を見せていた。
試運転と確認は無事に終わったようだ。
戻ってくるようなので、私も岬の突端から港の方へと戻る。
飛んだらすぐだけれど、なんとなく歩いていくことにした。ここまではしっかり道が続いているから、歩いてもそう時間は掛からない。
正式採用はどれになるだろうか、とキヒカと予想しながら港まで歩いて、船から降りてきたエルベス先輩と合流する。
「フィフィーリア!」
「お疲れ様です。どれになりそうですか?」
「昨日言ってた通りだな、やっぱりこいつが速度も出るし、小回りも効く。耐久性の面ではあれが一番だから、両方作って使い分けにしよう」
ご機嫌に船を指さすエルベス先輩に、お気に召したようでよかった、とのんびりそんなことを考えた。
完成した物から順番に海に出して、その全てに乗って試運転をしてきたエルベス先輩が選んだのだ、間違いはないだろう。
予想通り大きな修正点もなさそうだったので、選ばれた船に乗せた魔道具の設計図をお渡しして仕事は終了になった。
……私は、このお仕事は設計図を売っておしまい、だと思っていたのだけれど、エルベス先輩はそれでは納得していなくて、昨日は結構な時間を話し合いに使ったのだ。
話し合いというか、お説教というか、説得というか……アデラによくされていたものから怒りを抜いてこんこんとしたものを補充した、そんな感じの時間だった。
結果、設計図を売ることに変わりはないのだけれど、それを使って作った船の数だけ設計図の使用料をいただくことになった。
そうするとそれなりの額になるし、そんなにいただくわけには、と言ったのだけれど、それもこんこんと、設計図を安売りするものではない、毎回来て作ってもらうのはお互いに大変だからこういう形にするのだ、と説明されてしまい、キヒカにも受け取れと言われたので受け取ることにした。
エルベス先輩は毎年同じ時期に王都まで行く用事があるので、支払いはその時にまとめてしてもらうことになり、その旨を記した契約書も作られて双方のサインが書き込まれた。
しっかり書き終えて契約書を受け取って、それを荷物にしまいながらアデラには言わないでください……と訴えた結果笑って承諾を貰ったので、これでアデラに怒られることもないはずだ。
そんなわけで、必要なやり取りは昨日の時点で終えている。
「フィフィーリア、いつまでこっちにいる?せっかくだ、満足するまで観光していきな」
「そうですね、お土産も買いたいので……」
「なんなら案内もつけるぞ。一緒に行こう!」
「エルベス先輩が行くんですか?いいんですか?お仕事……」
「いいよなロクターン!」
「駄目って言っても聞かないでしょうあなた」
呆れたようにそう言ったロクターンさんが、明日はそもそも休みだと教えてくれた。
なので明日の私の用事はエルベス先輩と一緒にフロリフ観光、ということになった。暇な時もあったのでそれなりに町を回ってみた気はしていたけれど、エルベス先輩と一緒となると全く知らないところにも行けそうだ。
そう思ったし、実際翌日には全く知らない道を通って隠れ家のようなお店を何軒か教えてもらった。
そのうちの一つが魔法素材を売っているお店で、私は滅多に見ない素材を見つけてうっかり買ったりもした。自分へのお土産ということにしよう。
と、そんな風に楽しんだフロリフ観光も終わり、私はいよいよフロリフを発って王都の特別地区まで戻ることにしたのだった。




