船の動力
フロリフに到着した当日は、既に夕方が近かったということもあり仕事の話はせずに、町を案内してくれるエルベス先輩について回った。
宿泊先は魔法警備隊の宿舎の空き部屋を使っていいと言ってもらえたので、有難くお邪魔して夕食をごちそうになり、仕事とは関係のない魔法の話をあれこれ話して、明日に備えて早めに就寝する。
キヒカが外に出られるように、と階数の高めの部屋を貸してもらったので、気兼ねなく窓を開けておける。
そして開けた窓から星空を眺めている間に眠りに落ちており、翌朝はキヒカに起こされて目を覚ました。
ぼんやりと見覚えのない部屋を見渡して、目が覚めてくるのと同時に現状を思い出したので目を擦りつつ身体を起こす。
「おはよう、キヒカ」
「ホー」
キヒカを撫でて、服を着替えて身支度を整え部屋を出る。
下まで降りると、休憩所兼集会場、と紹介された大部屋にエルベス先輩がいた。声をかける前に気付いた先輩が振り返ったので朝の挨拶をして、今日の予定について話をして、朝ご飯を食べた後は一緒に移動することになった。
「船は新しく作ることになったからな、造船所へ行こう」
「新しく作るんですか」
「うん。調整してる間も、見回り船は使うからなぁ。ならもういっそ、新しくしちまおうって事になってな。予算はあるし」
「ホホー」
小さい模型というか試作品は何種類か持ってきたけれど、それが使えるかどうか判断するのは造船所の人達だ。
大丈夫だろうか、なんて少し心配になりながら、先を歩くエルベス先輩についていく。
町の内陸の方から、どんどん進んで海の方へ。潮風の香りと波の音を感じたのは久々で、思わず一度足を止めて海を眺めてしまった。
ここで暮らす人たちにとっては日常なのだろうけれど、私はどちらかといえば森の中で暮らしているので、なんとも新鮮で面白い。何か、普段とは違う道具を思いつけるような気がする。
学生時代に先生が「偶にはいつもとは全く違う場所に行ってみるといい」って言っていたのは、こういう事なのだろう。
「気に入ったんなら、暇な時には船に乗りに来な!親方たちの仕事を待ってる間は暇だろうし、短期で雇うから手伝ってくれ」
「分かりました、よろしくお願いします」
そういえば前に会った時にも、短期で良いから働きに来いと言われていたな。人手が足りていないんだろうか。
なんて考えている間に、目的地だった造船所に到着していた。
でっかい建物があるのと、そこから繋がる海には船が何隻か並んでいる。職人さんが船の方でも作業をしているようだ。
「……でっかい船」
「あっはっは!フィフィーリアは船に乗ったことないんだっけか」
「ボートくらいしかないです。学校の遠征では、船には乗らなかったので」
「お?そうなの?あたしたちの代は乗ったけどな……」
代によって何をするのかは変わるんだろう。その時の海の状態とかでも、多分変わる。
荒れてる海だと慣れない学生を船に乗せるわけにはいかないんだろうし、私たちの時はタイミングが悪かったんだろうな。
なんて、そんなことを話しながら造船所への中へと入り、ずんずん奥へと進んでいく先輩を追いかける。歩きなれてる感じがあるし、仕事でよく来るんだろうか。
「おーい!親方ー!前に言ってた子を連れてきたぞぉ~!」
「あ?あぁ、エルベスか。おう、お前さんが、こいつから依頼を受けた道具作りの魔法使いだな?よろしくな」
「よろしくお願いします、フィフィーリアです。この子はキヒカ」
「ホー」
肩に乗ったキヒカがお行儀よく挨拶をしているのを撫でて、さっそく作ってきた試作品を荷物から引っ張り出して並べていく。
並べ終えたら順番に一つずつどういう風に動くのかを説明していって、使えそうかどうかを確認してもらう。
一応試作中に動くかどうかを確認するのに使った小さいボートの模型も持ってきたので、実際どう動いて進むのかも見てもらった。
「よーくこんだけ種類作ったなぁ……さっすがフィフィーリア。やっぱうちに来んか?」
「すみません、自分の工房があるので……」
工房を作る前なら、こっちに居を移してこちらで仕事をするのも考えたかもしれないけれど、私は既に店を構えて人を雇っている。移動するとなっても自分一人だけではないので、簡単には頷けないのだ。
とはいえ、何度も誘って貰えるのは素直に嬉しい。こちらにいる間は出来るだけエルベス先輩のお手伝いをしよう。
「そうさなぁ……これ、実際の船の大きさに合わせて作れるか?最終どれがいいのかは、使ってって考えるしかなかろうよ」
「分かりました、船の大きさを教えてください。あと、木材の加工は出来れば職人さんにお願いしたくて……」
「魔法陣の部分はフィフィーリアがやらんといけんとして、それ以外は職人頼みだな。よ~し、ロクターンも連れてきて工房巡るぞぉ~」
「ホー」
作ってきたものは、全て問題なく使えそうだということで、一度全てを実寸大で作ることになった。
そのために船大工さんや木工の職人さんなどに声をかけてパーツを作ってもらい、それらが出来たら組み立てて魔法陣を仕込んで、実際の船でどこまで動くのかを確認する。
とはいえ、それはまだ予定で、実際はパーツが出来上がるまでにも時間はかかるので、待っている間はエルベス先輩のところで短期アルバイトをすることになり、私は早速船に乗せられて海の上へと出発するのだった。




