初夏の依頼
畑の世話をしたり依頼の品を作ったり、依頼にはないけど作りたいものを作ったり、町の職人さんたちと一緒に巨大鳥かごを作ったりとあれこれやっていたら、季節はあっという間に初夏になっていた。
朝晩はまだ少し冷えるけれど、昼は日差しが強いし暑さにやられそうになる季節だ。
朝一で畑の世話をしていても家に戻ってくるころには汗をかいているくらいには、夏が到来している。
「ホー」
「どうしたの?……呼び出し?」
「ホー」
畑から戻ってきて手を洗っていたら、キヒカが何かを掴んで飛んできた。
受け取って確認したら、ジリューロ受付からの連絡で、店まで来てくれのランプがついている。
急いで支度を整えてキヒカと一緒に空へ飛びあがり、店に向かって飛んでいく。もしかしたらこれかな、という用事の心当たりはあるけれど、違うかもしれないのでとりあえず急いでおこう。
そんなわけで急いで飛んで、店の前に開けられているスペースに急降下して着地する。
着地した後は、杖から肩に移動してくるキヒカを待ちつつ周囲を見渡していたら……キヒカではない衝撃が肩に当たった。
「フィフィ~リア!おうおう、来たかぁ!」
「エルベス先輩。お久しぶりです」
「ついに依頼受け付けを始めたって聞いたからなぁ!来ないわけにはいかんだろうて!」
予想通り、今回の依頼者はエルベス先輩だったらしい。
肩をばしばし叩かれながらとりあえずのご挨拶をしていたら、先輩が何かに引っ張られて離れていった。そして、空いた肩にキヒカが降りてくる。避難した結果降りる場所がなくなっていたらしい。
「そんなにバシバシやっちゃ駄目ですよ。俺らと違って細っこいんだから」
「おぉ、すまんすまん。……あ、フィフィーリアこいつ知ってる?」
「……えっと、学校で見かけたことが、あると思います」
「まぁ、話したりはしたことないですからね。初めまして、ロクターン・ウィズです」
「初めまして、フィフィーリアです。この子はキヒカ」
「ホー」
エルベス先輩の首根っこを掴んで引き離している男の人は、学校で見かけたことがある、気がする人だった。間違ってはいないみたいだけれど、あまり覚えていないので初めましてが正しいのだろう。
多分そこそこ学年の離れた先輩だな、と予想をつけて、地面に下ろされたエルベス先輩に視線を向ける。
「えっと、ご依頼でしたら中で話を聞きますね」
「おう!それにしても、ちゃんと人も雇って……偉いなぁ」
「シンディにも相談して、その方がいいだろうって事になったんです」
「相変わらずだなあの子も。元気が良くてよろしい!」
話しつつ扉を開けて中に入ったら、デリックさんがお茶の用意をしてくれていた。椅子も出されているし、なんとも手際がいい。
促されるままカウンターの内側に用意された椅子に座り、膝の上に来たキヒカを撫でる。
「さて……どんな道具をお望みですか?」
「船の動力を確保したいんだ。風の影響を受けずに進めるようには出来ないか?」
「船の……えっと、私そもそも船にそんなに詳しくなくて……一方向に進めさえすればいいんですか?」
「やり方にもよるが……まぁ、進行方向は舵で弄れるだろうな」
船の動力、と言われると知識不足もあってなんだか難しい気がしてくるけれど、馬車に動力をつけて馬なしで走行する、みたいなことは学生時代にちょっとやっていたことがあるし、あれの応用でどうにかなるだろうか。
私が考えていることが分かったのか、キヒカもこちらを見て一声鳴いた。あれでいけそう、と言うことでいいだろう。
「……使うのは魔法使いですか?魔力を魔石とかから供給するなら、また別になる気がするんですが……」
「期限と値段は文句付けんから、他でも使えるように出来るか?」
「分かりました。魔石……炉にくべる形が分かりやすいですかね」
燃料を入れたら動くようにする、というのがやっぱり分かりやすい。別で魔方陣もつけて、魔法使いなら直接魔力を注げるようにすれば同時に備え付けることも出来るだろう。
あとは、入れた燃料をどう出力するか。風で押すのか、水の中で何かを動かして進むようにするのか。
私が知っている船と言うと湖でちょっとボートに乗ってみたことがあるくらいのものなので、あのオールで船を動かそうとして出来るのかも分からない。
「……水車みたいにしたら、動くかな」
「ホー。ホホー?」
「うん。動力と動きを逆にすれば、出来る気がする……」
水車は川の流れを使って動力を生み出しているけれど、逆にすれば動力を入れたら水の流れを作れるのではないだろうか。
実験してみないと分からないけれど、どうにかなりそうな気はしてきたな。
……というか、水引の魔道具で水の流れを作ったら、それに乗って船が動けたりしないだろうか、無理かな?どうだろう。
「……先輩、船、見に行ってもいいですか?」
「お!いいぞいいぞー!おいで!フィフィーリアなら移動時間もそこまでかからんだろ!」
結局は実物を見てみないといけなさそうだったので、先に許可を取っておく。
そして詳しく欲しい機能なども聞いていって、ひとまずは持ち帰って試作をしてみることにした。帰り際に先輩から直筆の招待状を貰ったので、いくつか試作が出来たらフロリフまで行って試してもらうことになりそうだ。