人を運ぶ物
シンディとテルセロが遊びに来ていると時間はあっという間で、すぐに二人が帰る日がやってきてしまった。
去年と同じようにしょぼしょぼしながらお見送りをして、シンディと抱きしめあって。秋くらいに一度王都に遊びに行こうかな、なんて考える。
そうして予定を立てつつ家に戻ってきて、なんだかすごく広くて静かな気がする家の中を片付ける。
出していた折り畳みの家具たちを畳みなおして同じ場所にしまいこみ、キヒカと二人暮らしの状態に戻った家の中を眺め、置きっぱなしにしていた紙を見つけて机に広げた。
「……作ってみようかな」
「ホホー」
広げた紙には、シンディとテルセロと一緒に考えたとある物の素案が書き込まれている。
キヒカに人を運んでもらう時に何かいい方法はないかと相談した結果、初日の夜に大盛り上がりして三人と一匹であれこれ書き足していったのがこの紙だ。
今日は二人を町まで送っていく以外に用事もなかったのでこの後は暇だし、試作してみるのは良いかもしれない。
ということで、さっそく材料を取りに行く。
試作なので余っている木材を持ってきて作ることにして、大きさはいつもの大きさのキヒカが使えるくらいにする。
必要なのは、人が乗る籠部分とキヒカが掴んで飛ぶための取っ手。
形としては鳥かごが近いかもしれない。人と鳥の関係性が逆になった鳥かご。
キヒカならば地面にそっと鳥かごを置くことも出来るし、当然揺らさずに運ぶことも出来る。鳥かご状にしておけば、人は中で座っていられる。なんなら安全のためにベルトなどをつけることも可能だ。
と言うわけで、ひとまず形状の大枠を決めるためにちゃかちゃか作った木製の鳥かごを机に乗せる。
隣で作業を見ていたキヒカがすぐに翼を羽ばたかせて、鳥かごの上部に付けた持ち手を掴んで飛び立った。
そして、開けていた窓から外に出て、庭をぐるりと回って帰ってくる。
「どう?」
「ホー。ホホー。ホー」
「なるほど」
持ち手はまっすぐでいいけれど、滑らないように端に突起が欲しいと。
普通なら邪魔になりそうなものだけれど、キヒカは器用なので問題ないのだろう。多分滑り止めも念のためだ。
「……持ち手、ロープとか巻いた方が持ちやすいかな?」
「ホー」
せっかくだし試してみよう、ということで、ロープを持ってきて持ち手の部分にグルグル巻いていく。
隙間が無いようにしっかり詰めて巻いていき、端の部分をきっちり結んで完成だ。
その状態でキヒカにもう一度飛んできてもらって、こちらの方が持ちやすい、ということだったので持ち手の部分のメモを増やしていく。
「ホー。ホホー、ホーホゥ」
「なるほど……そうだね、クッションも兼ねてるような素材があれば一番いいかな」
「ホー」
籠の部分も、地面に置くための足があった方がいいだろうという話になった。
そこに衝撃吸収系の何かを取り付ければ、着地の衝撃も消せるはず。キヒカは器用だから下ろすときも可能な限り衝撃は与えないようにしてくれるだろうけれど、だとしても道具側で出来ることはしておくべきだろうからね。
「……籠部分に乗せる椅子は、買った方が早いかな?」
「ホー。ホーホゥホホー」
「そうだね、固定は魔法陣でやればいいけど……木製にしても鉄製にしても、職人さんにある程度お願いする感じになるかな」
「ホー」
全てをお願いすることは出来ないけれど、パーツは作ってもらって魔法を仕込みながら自分で組み立てる、というのが現実的な気がする。
籠部分には雨除け、風除けの魔方陣は仕込みたいけれど、人が乗る物なので私が一から作るにはちょっと大きすぎるのだ。
幸い町の職人さんたちとは知り合いだし、素材を決めたら第二段の模型を持って行って、どう作るのがいいか相談させてもらうのが確実だろうか。
となると、修正点を割り出して完成形に近付けた模型を作って、素材を決めてしまわないと。
キヒカが運ぶという事も考えて鉄に比べれば軽い木製にして後付けで強化するのか、キヒカからすれば重さにそこまでの違いはないだろうから強度を優先して鉄製にしてしまうのか。
そのあたりの事をキヒカに相談しながら決めていって、メモを取りつつ模型の第二段を作るために木材を加工していく。
削り出したり曲げたり、ちまちま調整して第二段の模型も作り、第一弾よりもいい出来になったな、と一人満足して頷いた。
これがこのまま大きくなったら中々綺麗なのではないか、なんて考えながら完成した模型が壊れないように適当な箱に入れ、それを荷物の中に入れておく。
次に町に行くときに職人さんに見せて作り方と素材を詳しく相談するので、模型とメモは一緒にしておいた。これでうっかり忘れるようなことはない。
「……さて、ご飯の準備でもしようか」
「ホホー」
家が静かで寂しい気持ちを紛らわせるために始めた作業だったが、しっかり集中していたので気付けば日が沈んでいる。
私がそれに気付かなかったのは、途中でキヒカが明かりをつけてくれたからだったようだ。
なんて細やかなところに気の付くフクロウなのだろう。とても偉い。そして可愛い。